遠隔操作の監視ロボットが繋ぐ恋。“運命の人”への意識が変わる『きみへの距離、1万キロ』
テクノロジーの進歩で、今や、地球の裏側ともタイムラグなしに会話でき、翻訳アプリによって言葉の壁も簡単に越えられる時代。デトロイトと北アフリカを遠隔操作の監視ロボットが繋ぐ『きみへの距離、1万キロ』(原題:Eye on Juliet)は、そんな時代だからこそ生まれたラブストーリー。と、同時に、テクノロジーが進歩しても、人間にとって大切なものは変わらないと信じさせてくれる物語でもあります。
デトロイトの青年ゴードン(ジョー・コール)は、遥か1万キロ離れた北アフリカの砂漠地帯にある石油パイプラインを監視する小さなクモ型ロボットを遠隔操作しているオペレーター。監視ロボットを通して、美しい女性アユーシャ(リナ・エル=アラビ)を何度か見かけるうち、彼女の思いつめた様子が気になり、監視ロボットの1台をアユーシャ専用に設定。 “JULIET 3000”と名付けて、密かに彼女の置かれた状況ついて調べはじめます。
実にユニークな物語です。2人を隔てる距離が1万キロあるという設定もさることながら、そもそも、アユーシャはゴードンの存在を知らないまま物語は進んでいくのです。想いを寄せる女性を密かに見守るというラブストーリー自体は、決して珍しくありませんし、ゴードンがアユーシャを見守り始めたのも、彼女に好意を抱いているからこそ。けれども、社会の価値観や風習に縛られ、望まない結婚を強いられているアユーシャの現実を知って、彼女の力になろうとするあたりには、ある種、無償の愛に近いものさえ感じさせるほど。
そう、IT時代だからこそ成り立つ物語とはいえ、主人公が最先端テクノロジーを駆使していても、描かれている恋や愛の本質はクラシックで普遍的なのです。
なぜ、ゴードンは監視カメラを通してしか知らないアユーシャのために、自分にできるかぎりのことをしようとするのか。そこに託されているのは、運命の女性と信じていた恋人と別れたばかりのゴードンの切実な想い。それが明かされるクライマックスにはきっとグッとくるはず。
キム・グエン監督は、アフリカの少年兵問題に衝撃を受け、12歳で反政府軍の兵士にされた少女の物語をファンタジックに描いた『魔女と呼ばれた少女』でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたカナダの気鋭。本作ではハイテクな監視ロボットとは対照的な、パイプライン周辺に暮らす人々のインフラも十分に整っていない生活を対比させることで、2人の暮らす社会が大きく異なっていることを鮮やかに印象付けています。
ゴードンが職場のロボットを密かに私的利用しているので、その事実がいつ会社に知られてしまうのかというサスペンスも生まれるなか、彼が基本的に“いいヤツ”なおかげで、デトロイトからの遠隔操作によって、調子が悪いながらも懸命にジュリエットを追いかけるクモ型ロボットがたまらなく健気に見えてくるのも事実。
監視ロボットを通して、砂漠で道に迷った目の見えない老人と交わす「運命の相手」についての会話がまた興味深いこと。人生の大先輩が教えてくれる「運命の女性の見分け方」が心に残るとともに、ゴードンが吐露する想いによって、「運命の人」への意識もきっと変わるはず。
『きみへの距離、1万キロ』
4月7日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
配給:彩プロ