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大谷もびっくり? メジャーリーグのボールガールは、氷上競技のプロで米国代表の二刀流!

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 メジャーリーグの球場には、ファウルゾーンに、ボールボーイ、ボールガールが座っているところがある。逆さまにしたバケツやパイプ椅子に腰掛けた彼らは、ファウルボールを拾うのが仕事。時にはファウルボールを見事にキャッチして、中継のテレビカメラがその様子を拾い上げることもある。好捕は必要条件ではないが、強烈な打球が飛んでくることも多く、集中力と運動能力がないと務まらない。

 ボストンレッドソックスの本拠地、フェンウェイパークのファウルゾーンには7人のボールパーソンがいる。その1人がケイトリン・バートさん。22歳のバートさんは、昨年のワールドシリーズ第2戦のボールパーソンを務めるという大役も果たした。今年7月、ボストングローブの取材に応じ「純粋に楽しい」、「球場の一番良い席に座っている。フィールドに座ることは、驚くべきすばらしいこと」とボールパーソンという仕事の魅力について語っている。観客にも親切で高評価を得ているようだ。

 バートさんのボールパーソンとしての集中力と運動能力は、野球だけでなく、他の競技で培ってきたものもある。

 実は彼女はプロのアイスホッケー選手でポジションはゴーリー。今年は米国代表としても1試合に出場。2018−19年シーズンは、女子プロアイスホッケーリーグ、NWHLのボストン・プライドのゴールを守ってきた。昨季はNWHLのオールスター選手にも選ばれ、シーズン最多セーブ数を記録。ただし、今年、プロ女子アイスホッケー選手会の選手は、NWHLの経営や労働条件の改善を求めてチームと契約していない。ボイコットの状況にある。そのため、バートさんも今季はNWHLではプレーしていない。

USAホッケーのホームページより
USAホッケーのホームページより

 ファウルゾーンには強烈な打球が飛んでくることも少なくないが、アイスホッケーのゴーリーでもあるバートさんにとっては、怖さを感じるものではないだろう。近くから打ち込まれるシュートをゴーリーのグローブをつけているとはいえ受け止める。アイスホッケーのシュートのスピードは、男子のプロなら時速100マイル(約161キロ)に達するし、女子でもトップ選手ならば80マイル(約129キロ)の速さだ。

 小学校2年生か、3年生のころからアイスホッケーをしていたバートさんは、野球選手でもあった。子どものときから体が大きく、運動能力に優れていて、同年代の男子選手とともにプレーをしても、全くひけを取らないどころか、彼らを上回っていた。12歳のころには地域のホームランダービーで優勝。その後も「ベーブ・ルース・リーグ」でプレーし、オールスターに選出されたこともある。フェンウェイパークでは始球式のキャッチャー役も経験。その構えの写真を見れば、安心してボールを投げ込むことができるキャッチャーであることがうかがえる。

 メジャーリーグのシーズン中、ファウルゾーンに座りながら、野球を見るという仕事を愛している。もちろん、アイスホッケーにも情熱を注いできた。前述したように今シーズンはNWHLではプレーしていない。競技や国の枠を超えて、女子プロ選手は不安定な競技環境のなかで戦っている。USAホッケーマガジン11月号にNWHLと選手会との混乱について率直な感想を吐露している。「私は22歳。こんな経験は今までしたことがありません。でも、私たち自身は、私たちが価値あるものと信じているものを得られるように、次の世代にむけて持続可能な環境を作ることができるように、自分たちを信じています」。今、選手会の仲間たちと練習を続けているそうだ。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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