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極超音速兵器を探知追尾する小型衛星群構想に参加する日本の意図

JSF軍事/生き物ライター
ノースロップ・グラマン社より極超音速・弾道追跡宇宙センサー(HBTSS)

 極超音速兵器は従来の弾道ミサイル防衛システムでは対応することが難しく、アメリカ軍は「HBTSS(極超音速・弾道追跡宇宙センサー)」という、低軌道に赤外線センサーを持つ多数の小型衛星を配置して衛星コンステレーション(コンステレーションとは星座の意味)を構成する計画を立てています。数百基から1000基にも達する小型衛星を打ち上げる計画で、これに日本も参加しようという動きがあります。

 従来の弾道ミサイル防衛システムではアメリカ軍の持つ静止軌道上の赤外線早期警戒衛星(DSP衛星)の探知情報が日本自衛隊にも送られる予定です。敵弾道ミサイルの発射時の膨大な噴射炎を熱源探知する早期警戒情報です。

 では将来の極超音速ミサイル防衛システムの衛星群構想では「赤外線衛星はアメリカに全てを任せず、日本も一部でよいから参加しよう」となっているのは何故でしょうか。それは単に探知情報が送られて来るだけではないからです。

迎撃戦闘における「国家の自主性」の問題

 極超音速ミサイル防衛システムは目標が最終的に突入して来た際の終末防御では従来通りレーダーを用いて迎撃を行いますが、目標が滑空段階での遠距離で迎撃を行う広域防空では「衛星の探知追尾情報だけで迎撃ミサイルを誘導する」という、これまでにない全く新しい迎撃方法を用います。地上や海上のレーダーに頼らないのです。

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 この新しい迎撃方法では目標の探知、追尾、迎撃ミサイルの誘導までを衛星の情報で行います。それではその衛星が全てアメリカ軍の保有するものだったらどうなるでしょうか? たとえ発射した迎撃ミサイルが日本自衛隊の保有するものであっても、実際に迎撃を行っているのはアメリカ軍ということになってしまうのでは?

 ここで迎撃戦闘を誰が行っているのかという自主性や主体性の問題になります。もし日本が衛星システムに関与していない場合には何もかもアメリカに任せているのと同じになり、国防という国家の責任を果たしているのかどうか疑問符が付いてしまいます。

 ゆえに、日本は極超音速ミサイル迎撃システムを導入するにあたって真っ先に小型衛星群構想に参加する必要がありました。1000基もの小型衛星群を日本単独で用意することは予算的に到底不可能です。かといって全てをアメリカに任せることはできません。一部でもよいから参加していれば、実質的にはほとんどアメリカが迎撃戦闘を行うのだとしても、なんとか日本の国家としての体裁が整います。

 つまり日本がアメリカの小型衛星群構想に参加することは日本が迎撃戦闘を行う際の自主性を確保するために政治的に必要な行為であって、日本が参加しないとアメリカのHBTSS計画が進まないなどといった理由の話ではありません。日本が小型衛星群打ち上げ事業に割り込むという類の話でもないのです。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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