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U20女子アジアカップ4連覇ならず。北朝鮮が示した「徹底力」とヤングなでしこが示した「育成力」

松原渓スポーツジャーナリスト
大会を通じて全フィールドプレーヤーが出場した(写真提供:AFC)

【空中戦で2失点】

 4連覇をかけたタイトルには、手が届かなかった。

 ウズベキスタンのタシケントで3月16日に行われたAFC U20女子アジアカップ決勝戦で、ヤングなでしこはU-20朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と戦い、2-1で敗れた。2015年から3大会連続準優勝だった北朝鮮が、2007年以来2度目の優勝を果たした。

 北朝鮮のリ・ソンホ監督は、グループステージ第3戦の日本戦(1-0で北朝鮮が勝利)も含めて先発メンバーをほぼ固定。一方、日本の狩野倫久監督はグループステージで多くの選手を起用し、北朝鮮戦でも初出場の選手3名を起用するなど、多彩な起用でチームを底上げし、この決勝に臨んでいた。

「今回の負けがさらに自分たちを強くしていくきっかけにもなると思う。思い切って、ピッチの上でチャレンジしていこう」

 6日前の敗戦後に指揮官がそう伝えた通り、日本は準決勝でリバウンドメンタリティを発揮し、オーストラリアに5-1と快勝した。だが、決勝で再び相見えた北朝鮮はグループ戦術も個人戦術も、前回対戦時よりさらにレベルアップしているように感じた。

 試合は、互いにハイプレスをかけ合い、攻め合うオープンな展開に。日本はチームコンセプトでもある「即奪」を徹底し、ボランチの大山愛笑や前線の辻澤亜唯が積極的にミドルシュートを放った。一方、北朝鮮もチェ・イルソン、パク・ミリョンら、前線の選手は一人で奪って守備まで持ち込む力強さを見せた。

 前半20分、相手のゴールキックを跳ね返した日本は、久保田真生が右サイドを細かいタッチで縫うように突破。深い位置でパスを受けた土方麻椰が高く上げたクロスを、交錯する相手GKとDFの背後で辻澤が冷静に頭で合わせた。

先制点を決めた辻澤亜唯(写真提供:AFC)
先制点を決めた辻澤亜唯(写真提供:AFC)

「(前回の)北朝鮮戦で、決定機はあったけど決めることができなかったので、ノックアウトステージでは『決め切る』ことを課題にしていきたい」と話していた辻澤が、有言実行のゴールで試合を動かした。

 その後、さらに攻勢を強めてきた北朝鮮に対し、ボランチを担う角田楓佳が攻撃の芽を摘み、大山が長短のパスで散らして2点目を狙いに行った。しかし、前半終了間際の44分、警戒していた左サイドから突破を許し、チェ・ウンヨンのクロスをジョン・リョンジョンが打点の高いヘディングで押し込んだ。

 1-1で迎えた後半、日本は笹井一愛と樋渡百花の長身ドリブラー2人を投入して追加点を狙うが、北朝鮮は4バックの守備が堅く、前線の運動量やパワーも落ちない。

U-20北朝鮮女子代表(写真提供:AFC)
U-20北朝鮮女子代表(写真提供:AFC)

 76分には、コーナーキックでキム・ガンミが完璧に合わせたシュートが日本ゴールを襲い、GK鹿島彩莉が片手でファインセーブ。このプレーで嫌な流れを断ち切り、ドリブラーの大島暖菜を投入して反撃の糸口を探ったが、80分を過ぎると相手の攻勢はさらに強まり、日本は自陣に押し込められてしまう。

 そして85分、途中交代のジョン・クムのクロスを再びジョン・リョンジョンが頭で押し込んで逆転。アディショナルタイムの佐々木里緒のダイレクトボレーも枠をとらえることはできず、ヤングなでしこは敗戦のホイッスルを聞くこととなった。

【北朝鮮が示した「徹底力」】

「アジアの国は気持ちだったり、サッカーをやる上で欠かせない部分を一番大事に戦ってくる」

 中国戦後に大山がそう語っていた通り、逆転後の相手の露骨にも思える時間稼ぎや球際の粘り強さなど、北朝鮮の勝利への“執念”が勝った。精神面の強さに通じる根底には、両国のプレー環境や文化の違いも影響しているだろう。

7大会ぶりの優勝(写真提供:AFC)
7大会ぶりの優勝(写真提供:AFC)

 なでしこジャパンの池田太監督は、今年2月末のパリ五輪アジア最終予選で熾烈な一騎打ちを繰り広げた北朝鮮について、次のような印象を語っていた。

「DPRコリア(北朝鮮)は、しっかりと止める、蹴る、走る、ゴールに向かうバックパスが少ない。そういう姿勢を徹底する力がすごいなと思います。我々も、その徹底力は必要になってくると思います。準備段階で長い時間をかけてキャンプしてきたという話もあるので、自信を持って戦っていると感じましたし、チームとして非常にタフな相手だったと改めて感じました」

 その「徹底力」は、育成年代から継承されていることを、今大会のU-20北朝鮮代表チームは証明していた。

 一方、日本も「徹底」してきたことがある。初戦の前に、狩野監督は伸び盛りの選手たちに期待することについて、こう話していた。

「一つの試合や大会は選手をメンタル的にもタフにするし、成長を加速させます。そういう意味では、選手たちには非常に重要な大会だと思うので、1試合でも多くの選手たちに経験をさせることができるようにしたい」

 日本は大会を通じてフィールドプレーヤー全員がピッチに立ち、10人の選手がゴールを決め、アシストも含めると13人が直接的にゴールに関わった。試合中に、3つのポジションをこなした選手もいる。日本の戦術的柔軟性や技術力は、アジアではトップだろう。今大会で多くの選手がチャレンジする機会を与えられたことは、悔しさも含めて日本女子サッカーの未来につながるのではないだろうか。

 日本は4大会連続のフェアプレー賞を受賞。得点ランキングは、土方が4ゴールで韓国のジョン・ユギョンと並んでトップタイ。土方は3つのアシストも記録し、日本の攻撃を牽引した。大会MVPには、北朝鮮の右サイドで相手の脅威となり続けたチェ・ウンヨンが輝いた。

得点王に輝いた土方麻椰(写真提供:AFC)
得点王に輝いた土方麻椰(写真提供:AFC)

【半年後のU-20W杯への決意】

 谷川萌々子、古賀塔子、藤野あおば、浜野まいから、今大会に出場可能だったこの世代の中心選手たちは、今大会は所属クラブの事情などで選出されなかった。そのことを考えれば、優勝できなかったことが、日本の育成年代のレベル低下を示すものではない。選手層は、むしろ厚くなっている。

 個人的に、今大会の日本で印象に残ったのは辻澤だ。試合中や交代に伴って左右サイドハーフや前線の幅広いエリアでプレー。小柄なこととアジリティを活かして相手の懐にもぐり込み、アグレッシブな仕掛けや気持ちの強さを押し出したプレーは、何かしてくれそうな雰囲気を常に放っていた。

 決勝戦の後、フラッシュインタビューに答える辻澤の頬は涙で濡れていた。

「1試合目で負けたので、『今回は絶対に勝ってやる!』という気持ちで臨みました。この景色を忘れずに、(U-20)ワールドカップではもっと強くなって、いい結果を残せるように頑張りたいです」

 今年9月にコロンビアで開催予定のU-20女子ワールドカップまで、約半年。ここから、それぞれの場所で心技体を磨き、さらに成長したヤングなでしこたちの快進撃に期待している。

(写真提供:AFC)
(写真提供:AFC)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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