保湿剤であるヘパリン類似物質製剤(ヒルドイド、市販品やジェネリック)は、どう違うの?
『ヒルドイド』という保湿剤の名前は、多くの方がご存じかもしれません。
アトピー性皮膚炎や乾燥肌の方に処方薬(医療用医薬品)として使われてきたからで、『ヒルドイド』は先発薬品の商品名になります。
最近、ヒルドイドに含まれる保湿成分『ヘパリン類似物質』を含む外用薬は、ジェネリック医薬品(※)や市販薬(一般用医薬品、OTCや大衆薬ともいう)も含め多数販売されています。そのため最近は、ヒルドイドよりも『ヘパリン』と表現される患者さんも増えてきました。
実は『ヘパリン類似物質』はもともと、保湿成分として開発されたわけではありません。炎症を抑え血行をよくする作用を期待し、1949年にドイツの製薬会社が開発しました。
▷医薬品インタビューフォーム(2021年5月16日アクセス)
ヘパリン類似物質は、蛭(ひる)の唾液腺や魚の鱗に含まれています。魚って、表面がすこしベタベタしていますよね。その成分なのだそうです。なお、『ヒルドイド』という商品名は、ドイツ語のHirudo(蛭属)とoid(の様なもの)を組み合わせて名付けられました。商品名ということですね。
そしてヘパリン類似物質はムコ多糖類という物質の一種で、保湿能力に長けています。そして保湿性に注目が集まるようになり、1990年に『皮脂欠乏症』の効能効果がみとめられ保湿剤として使われるようになりました。
そして最近になって、市販薬にもヘパリン類似物質が含有されている製剤が増えてきています。
そこで今回は、これらのジェネリックや市販薬の外用剤をどのように考えていけばいいのか、ヘパリン類似物質外用薬を例にとって簡単に解説します。
主薬と基剤って?
まず、『主剤』と『基剤』に関してお話ししましょう。
主剤というのは、実際に効果を期待して配合している成分のことです。この場合、ヘパリン類似物質が主剤にあたります。
そして主剤が同じジェネリック薬品は、先発製品と同じ効果を持つ製品といえます。主剤を患部に同じように届けることができれば、同じような効果がでるからです。
ただ、外用薬に関しては注意しなければならない点があります。
ちょっと例え話を挙げてみましょう。
ここにオレンジ果汁0.3%の清涼飲料水がいくつかあったとしましょう。そして果汁0.3%以外の成分は、異なる方法で作られています。
それらの飲料水を、『同じオレンジジュース』とは考えるでしょうか?
つまり、さまざまなヘパリン類似物質外用薬は、果汁0.3%の部分がヘパリン類似物質であり、その他の部分は異なる製法でつくられています。
そして主剤以外のその他の部分のことを、『基剤』といいます。
外用薬でいえば、主剤が目的の場所に届いて効果がでるための補助的な部分です。
(処方薬としての)ヘパリン類似物質を含む外用薬は、主剤としてのヘパリン類似物質もとても重要ですが、基剤としての部分も大きく作用します。外用薬は、主薬以外の基剤もその性能の一部といえるからです。
先発薬品のほうが格段に効能が良いという意味ではありません。
ジェネリック医薬品も、基剤に工夫を凝らしていたりしますので、ジェネリックの方が肌に合っているという方もいらっしゃるでしょう。主剤以外の基剤に関しては各製薬会社で工夫して作成しており、その性質がかなり異なることがあるということです。
ヘパリン類似物質の含有された市販薬、先発品のヒルドイドと同じもの?
処方薬に含まれているヘパリン類似物質外用薬には、保湿成分であるヘパリン類似物質が0.3%含まれています。そして、市販薬でヘパリン類似物質が含まれた外用薬が増えてきたというお話をしましたね。
では、その保湿剤を処方薬と同等のものと考えていいでしょうか?
たとえばインターネットで販売が許可されている一般向けの医薬品には、第1類(薬剤師が対応)、第2類(登録販売者が販売できるが、情報提供の努力義務あり)、第3類(登録販売者が情報提供なしに販売できる)の3種類に分けられます(※※)。
▷おはよう21 27(6): 24-25, 2016.
そして、ECサイトやドラッグストアで販売されている【第2類】と付記された市販薬の多くは0.3%というヘパリン類似物質の濃度が記載されています。
しかしヘパリン類似物質の含有量が記載されていない医薬部外品もあり、濃度はより低いと考えられます。
これは、【第2類】と記載されていないといけないという意味ではありません。ただ、主剤の濃度に関して、処方薬と同等品とはいえないかもしれないということです。
一方で、市販品の保湿剤は、他にも保湿成分が含まれるケースがあります。
たとえば『セラミド』がその代表です。ヘパリン類似物質でなければならないというわけでも、ヘパリン類似物質が特別性能が高いというわけではなく、実際に使ってみて肌にあうかどうかをみていかなければならないということです。
先発医薬品・ジェネリック医薬品・OTC(薬局で購入できる製品)で、基剤の性質が異なることがある
もう一つ、難しい点があります。
ある先発品が乳液タイプであるのに、同等品であるジェネリックが化粧水タイプだったりするということがあるということです。
これは、先発医薬品とジェネリック医薬品の基剤が異なっているために起こってくる問題です。
繰り返しになりますが、ジェネリック医薬品だと問題だというわけではなく、基剤の性質が変わってしまう可能性があることを承知しておく必要があるということです。
基剤に関しては一般的に、油脂タイプ、クリームタイプ、ローションタイプ、化粧水タイプ、フォームタイプがあります。これらは、『主剤』ではなく『基剤』が異なるのです。
そして、季節や使用感、皮膚の状態に応じ、使い分けることになります。処方を受ける際に医師や薬剤師に相談してみることをお勧めします。
さて、最後に、ひとつだけ話題を追加します。
ヒルドイドやヘパリン類似物質含有保湿剤が処方されるのは、アトピー性皮膚炎や皮脂欠乏症がある方へ限られます。しかし最近、美容目的で処方を希望される方が増えて問題となりました。
海外では保湿剤が保険適用ではない地域も多く、現在保険で使用できることは、皮膚の病気に苦しまれている患者さんにとってとても助けになっています。
これらの保険適用となっている薬剤を、適切に使用することが望まれています。
この記事がなにかの参考になればと願っています。
(※)ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、 厚生労働省の認可を得て製造販売される、先発医薬品と同じ有効成分を含む医薬品のことです。
(※※)この3種類以外にも、インターネットでは入手できない『要指導医薬品』がありますが、文章のわかりやすさを優先して省略しました。
(※※※)2021/5/25 最初の記載で、『濃度の記載がない製品が第3類推測される』と記載しましたが、『医薬部外品』ではとのご指摘を受け修正しました。ありがとうございました。