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大型投資とCL制覇の矛盾。ベスト8に進んだアヤックスと、逆転負けを喫したパリSG

森田泰史スポーツライター
ムバッペとラッシュフォード(写真:ロイター/アフロ)

「財布がゴールを決めたところなんて、見たことがない」

故ヨハン・クライフは、かつて、そう語った。これは資金潤沢なクラブに対しての批判であり、とりわけ哲学を持たないクラブを揶揄する意味を含んでいる。

そのクライフが基礎を築き上げたアヤックスが、レアル・マドリーの時代を終焉させた。チャンピオンズリーグ3連覇を達成していたマドリーだが、今季はベスト16でアヤックスに敗れて大会を後にしている。

若きチームの勢いが、王者を奈落の底に突き落としたのだ。この敗戦で、マドリーは18-19シーズンの3大タイトルにおける無冠が決定的となっている。

■光と影 パリSGの失敗

名門復活を印象付けるアヤックスとは対照的に、欧州の舞台で苦しんでいるのがパリ・サンジェルマンだ。

1970年創設と歴史の浅いパリSGだが、2011年に転機が訪れる。カタール投資庁の子会社であるカタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI) が買収に動いたためだ。QSIはまずクラブ株式の30%を購入。のちに、残りの70%を買い占めてパリSGを完全に「我が物」とした。

カタールがバックにつく「国家クラブ」となったパリSGは、2011年10月にナセル・アル・ケライフィ会長が就任してから毎年のように大型補強を敢行するようになる。

ネイマール(2017年夏加入/獲得資金2億2200万ユーロ)、キリアン・ムバッペ(2017年夏/1億8000万ユーロ)、エディンソン・カバーニ(2013年夏/6450万ユーロ)、アンヘル・ディ・マリア(2015年夏/6300万ユーロ)、チアゴ・シウバ(2012年夏/4200万ユーロ)...。スタープレーヤーが次々に加入した。

だが今季、パリSGはチャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦でマンチェスター・ユナイテッドに敗れた。ファーストレグ(2-0)、セカンドレグ(1-3)で、アウェーゴール差で涙を呑んでいる。

「カムバック」(『ル・モンド紙』)、「心理的外傷」(『パリジャン紙』)。パリSGの敗戦を受けて、フランスメディアは書き立てた。大衆に呼び起こされたのは、ある記憶である。

2016-17シーズンにチャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦でバルセロナと対戦したパリSGは、ファーストレグを4-0で制しながら、セカンドレグで1-6と敗れた。歴史的な逆転負けで、大型投資が一瞬で水泡に帰した。

あの試合のトラウマがあったかは定かではない。しかしながらパリSGは3シーズン連続でベスト16敗退に終わっている。

■哲学

記憶といえば、遡るとアヤックスがマドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウを征服したのは1995-96シーズンだった。

エドウィン・ファン・デル・サール、エドガー・ダービッツ、ヤリ・リトマネン、マルク・オーフェルマルス、パトリック・クライファート。錚々たるメンバーを揃え、名将ルイ・ファン・ハールの下、アヤックスは2-0でマドリーに勝利した。

フットボールとは、ある種の循環だ。世代が嵌(はま)らなければ、勝ち続けるのは難しい。

ただ、今大会においてアヤックスがマドリーを撃破したのは偶然ではない。そして、パリSGが敗れたのも偶然ではない。

「アヤックスがビッグチームを倒せない? そう断じる理由を教えてほしいくらいだ」

冒頭の言葉に被せるように、クライフは説いていた。創造主クライフが言いたかったのは、いくらゴールを奪える選手を連れてきたとしても、チームあるいはクラブとしての構築を疎かにしていては勝利の女神は微笑まないということだろう。

お金で栄誉は買えない。哲学。構築。礎。積み上げと確かな信念だけが、成功への道標になるのかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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