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ガラパゴス化するシリアのアル=カーイダとシリア・ロシア軍の戦闘が激化

青山弘之東京外国語大学 教授
Alsouria.net、2021年2月7日

ガラパゴス化してきたシリアのアル=カーイダがここに来てにわかに動きを活発化させ、シリア・ロシア軍との戦闘が激化している。

「ガラパゴス化するシリアのアル=カーイダ系組織」

「「イスラーム〇〇」が妨げる中東理解:シリア内戦を事例に」

スーツ姿のアル=カーイダ指導者

米国人ジャーナリストのマーティン・スミス氏は2月2日、イドリブ県を訪問し、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者と面談し、インタビューを行ったとツイッターに綴り、その写真を公開した。

シリアのイドリブでアル=カーイダとつながりのあるヌスラ戦線の創設者アブー・ムハンマド・ジャウラーニーとの3日間を経て、今戻ってきた。彼は、9.11事件、アル=カーイダ、アブー・バクル・バグダーディー、ダーイシュ(イスラーム国)、米国などについて話した。@フロントラインのレポート。写真@スコット・アンガー。#HTS #Idlib #ISIS #alqaeda

スーツ姿のジャウラーニー指導者の写真が公開されるのは、これが初めて。シリアでの混乱激化のなかで、自由シリア軍を名乗っていた「革命家」が、ヌスラ戦線、イスラーム国、そして米国の支援を受ける「穏健な反体制派」へと変貌を遂げていくさまを描いたジャラール・ハジールの風刺画を地で行くものだとしてSNS上で注目された。

Strategic-culture.org、2015年12月16日
Strategic-culture.org、2015年12月16日

これを受けて、米国務省の正義への報酬プログラム(RFJ)は2月3日、アラビア語公式ツイッターで次のようにコメントした。

おお、ジャイウラーニー、おお、ハンサムよ、なんてすてきなスーツだ。服を着替えても、お前はテロリストのままだ。1000万ドルの懸賞金がかかっていることを忘れるな。

テレグラム、シグナル、ワッツアップで、あなたが持っているジャウラーニーについて情報を我々に提供せよ。1000万ドルの懸賞金を手に入れるため。0012022941037

また、シャーム解放機構も2月3日に声明を出した。内容は以下の通りである。

シリア革命の最初の日から10年を経ても、我々は革命、そしてこれまでに経てきた勝利と敗北のすべてを誇りに思っている。なぜなら、それは国民の革命、新たな試みであり、これを母胎として我ら国民と寛大なる民の輝ける未来が現れる。

シャーム解放機構のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者が、マーティン・スミス記者と写っている、拡散された写真は、イドリブでの3日にわたるもてなしの一部であり、この間、現地視察、公式会見も行われ、長年にわたる彼の経験、重要な転機、変化が取り上げられ、現状や将来についてのさまざまな質問がなされた。

我々は、あらゆる正当な手段を通じて、孤立を打破し、我々の現状を伝え、地域、そして世界の人々にこれを伝え、我々の祝福された革命の利益を実現するために貢献しなければならないと考えている。

Eldorar.com、2021年2月3日
Eldorar.com、2021年2月3日

ロシア軍による初のイドリブ県への爆撃

スミス氏がツイッターでジャウラーニー指導者の写真を公開した2月2日、イドリブ県では、ロシア軍戦闘機複数機が、ハルブヌーシュ村北西の武装集団拠点と、クールカーニヤー村一帯を3回にわたって爆撃、戦闘員多数が負傷した。

イドリブ県中北部とこれに隣接するラタキア県北東部、アレッポ県西部、そしてハマー県北西部は、シャーム解放機構がその大部分の軍事・治安権限を掌握している。「シリア革命」の擁護者が「解放区」と呼ぶ地域である。

同地はまた、シャーム解放機構、トルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)、そしてかつてバラク・オバマ政権時代に米国の支援を受けていた「穏健な反体制派」の一つのイッザ軍が「決戦」作戦司令室と称する武装連合体を結成し、シリア軍に対峙している。さらに、新興のアル=カーイダ系組織であるフッラース・ディーン機構やアンサール・タウヒード、中国新疆ウイグル自治区出身者によって構成されるアル=カーイダ系のトルキスタン・イスラーム党なども活動している。

ロシア軍は今年に入って、数回にわたってラタキア県北東部の「解放区」を爆撃してはいたが、イドリブ県を狙ったのは、2020年12月7日以来2ヶ月ぶり。

ロシア軍はまた2月3日にも、イドリブ県のアルマナーズ市一帯を爆撃した。

シリア軍とトルキスタン・イスラーム党、国民解放戦線の戦闘激化

2月5日になると、ハマー県で、シリア軍が「決戦」作戦司令室の支配下にあるヒルバト・ナークース村近郊で、トルキスタン・イスラーム党の兵員輸送用バスを地対地ミサイルで攻撃し、8人が死亡、8人が負傷した。

英国を拠点に活動する反体制NGOのシリア人権監視団によると、死亡した戦闘員は新疆ウイグル自治区出身者ではなく、シリア人だったという。

これを受けて反抗に転じたのは、アル=カーイダ系組織ではなかった。

2月6日、国民解放戦線に所属し、「穏健な反体制派」の一つと目されていたナスル軍が、シリア政府の支配下にあるハマー県ファターティラ村にあるシリア軍拠点を砲撃し、中尉1人を含む兵士4人を殺害、8人に重軽傷を負わせた。

また、国民解放戦線は2月7日、「解放区」とシリア政府の支配地域が接するザーウィヤ山地方上空でロシア軍のオルラン-10無人航空機(ドローン)を撃墜した。

同日、アル=カーイダ系組織も動いた。アンサール・タウヒードが、シリア政府の支配下にあるイドリブ県カフルナブル市に設置されているロシア・シリア軍の合同作戦司令室をブルカーン短距離弾道ミサイルと迫撃砲で攻撃したと発表したのだ。

Enabbaladi、2021年2月7日
Enabbaladi、2021年2月7日

アンサール・タウヒードの声明によると、攻撃はガーブ平原に対する砲撃への報復で、ロシア軍顧問のダニエル・ウベレフ大尉を殺害、同大尉を護衛していたロシア軍のマラト・メドベージェフ氏、ドリダオ・ザベンを負傷させた。また、ロシアの支援を受け、政府との和解に応じた反体制武装集団の元メンバーらが参加するシリア軍第5軍団の兵士7人、第25師団ターハー中隊の兵士3人が死亡、兵士12人が負傷したという。

2月7日にはハマー県でも激しい戦闘が発生した。シリア軍が2月6日深夜から7日未明にかけて、ガーブ平原のハルービー村、アンカーウィー村一帯にあるトルキスタン・イスラーム党の拠点を砲撃、進攻を試みたのに対して、反体制派が応戦した。

シリア人権監視団は、応戦したのは、トルキスタン・イスラーム党と発表したが、反体制系サイトのEldorarは「決戦」作戦司令室がシリア軍を迎撃したと伝えた。

この戦闘で、シリア軍兵士5人が死亡、8人が負傷、トルキスタン・イスラーム党側も戦闘員3人が死亡、複数人が負傷したという。

なお、このほかにも、2月7日には、ラタキア県クルド山地方とザーウィヤ山地方で、シリア軍士官1人を含む2人が狙撃され、死亡している。

停戦違反に関する発表

2月2日以降の戦闘に関して、「解放区」(緊張緩和地帯第1ゾーン)の停戦監視を行っているロシア軍、シリア軍、そしてトルコ軍が発表した停戦違反件数は以下の通り。

  • 2月2日:ロシア軍は20件、シリア軍は15件、トルコ軍は6件を確認。
  • 2月3日:ロシア軍は18件、シリア軍は15件、トルコ軍は10件を確認。
  • 2月4日:ロシア軍は19件、シリア軍は14件、トルコ軍は9件を確認。
  • 2月5日:発表なし。
  • 2月6日:ロシア軍は23件、シリア軍は20件、トルコ軍は10件を確認。
  • 2月7日:ロシア軍は28件、シリア軍は19件、トルコ軍は19件を確認。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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