米国アイビーリーグのアメリカンフットボールから、激しくぶつかり合うフルコンタクト練習が消える?
アメフトの練習から激しくぶつかり合うフルコンタクトが消える?
米国北東部の名門8校からなるアイビーリーグのアメリカンフットボールは、シーズン中には選手同士が激しくぶつかり合うフルコンタクトの練習を禁止する方針であることが分かった。
スクープしたのはニューヨークタイムズ紙で3月3日付の紙面では、この中止規則は、頭部への衝撃や他のケガ防止策としてはこれまでで最も積極的な内容であり、異例の措置と伝えている。
米国ではプロアメリカンフットボールリーグのNFLの元選手たちが、脳震盪の後遺症に苦しんでいることが明らかになっている。頭部への衝撃を避けるための防止策についてさまざまな研究が猛スピードで進んでいるところだ。
その防止策のひとつに選手同士が激しくぶつかるフルコンタクトの練習を制限するというものがある。選手たちは試合だけでなく、練習でも脳震盪を起しているケースがあるからだ。高校アメリカンフットボール部で起こる脳震盪のうち半数以上が練習中のものだという調査結果もある。
これまでも各州の高校体育協会や全米大学体育協会NCAA、プロアメリカンフットボールリーグNFLでも、それぞれがフルコンタクトの練習制限規則を設けていた。高校のアメリカンフットボール部はフルコンタクトの練習を制限したことで、脳震盪の発生数が明らかに減っているそうだ。
アイビーリーグ8校も加盟する全米大学体育協会NCAAの練習制限ガイドラインはシーズン中は週に2回以上してはいけないというもの。しかし、これまでも、アイビーリーグはNCAAのガイドラインよりも厳しい制限を独自に設けており、今回はシーズン中のフルコンタクト練習禁止にまで踏み込んだ。
今回のアイビーリーグの方針は公式戦のシーズン中にはフルコンタクトを行わないとするものだが、プレシーズンにはフルコンタクトの練習を行うことはできるし、選手同士のぶつかり合いではなく、ダミーやパッドを使ったタックルの練習は行われる。
アイビーリーグに所属するダートマス大アメリカンフットボール部では、ティーベンズコーチが2010年からフルコンタクト練習を取りやめていた。同コーチは「このレベルの選手はすでにヒットの技術を身につけている。最初は変わり者のように思われたが、選手たちをケガのない健康な状態に保つことができ、最終的によいチームになった」とニューヨークタイムズ紙にコメントしている。選手同士が激しくぶつかるのではなく、どのようにしたら頭部衝撃を避けることができるかに焦点を当てて練習をしているという。
練習で脳震盪を起すと、回復するまで試合には出場できない。試合に備えてコンディションを整えるためにも、フルコンタクト練習を避けてケガを防止することは理にかなっているといえる。ただし、アメリカンフットボールにはコンタクトプレーが含まれているので、ユースや高校生の選手はもちろん、大学生もタックルをすることや、それを避ける技術を取得できるよう、シーズンが始まる前の時期に練習はする必要があるだろう。
規則変更への手続き
このような思い切ったリーグ規則の変更はどのような手続きを経て行われるのか。
アイビーリーグ、アメリカンフットボール部のシーズン中のフルコンタクト練習禁止はまだ、正式に決定したわけではない。現時点ではリーグ加盟8校のコーチが投票をし、満場一致で「シーズン中にフルコンタクト練習をしない」という規則の導入に賛成したところまでだ。
この次の段階は、各大学の全運動部を統括管理するアスレティックディレクターが、コーチから上げられた規則変更について投票を行う。その後、アイビーリーグの規則委員会による投票があり、その後にアイビーリーグの各大学の学長に承認されて、正式に決まる。現場で実際に練習に立ち会うコーチからのボトムアップ方式による規則変更だといえる。
今回のコーチからの「提案」は、上記に述べたような手順を経て、数か月後には新しい練習規則として適用される見通しだ。
米国ではアイビーリーグのコーチたちによる思い切った「シーズン中のフルコンタクト練習中止」が、他のリーグや高校、ユース年代にも広がっていくかどうかが注目されている。