英首相官邸のネズミ捕獲長ネコ「ラリー・ザ・キャット」10周年のお祝い:28枚の写真でつづる
ダウニング・ストリート10番地、英首相官邸。
ここに現在「首相官邸ネズミ捕獲長」を務めるラリー(Larry)がやってきてから、10年が経とうとしている。
彼はもともと、ロンドンの通りに住んでいる野良猫だったが、2011年1月に、アニマルシェルター「Battersea Dogs & Cats Home」に連れてこられた。
そして2月15日、シェルターから首相官邸に養子に出されたのだった。
ダウニング街の公式ウェブサイトによると、ネズミ取りの腕前が評価されて選ばれたという。キャリアアップに、野良の経験が役立ったようだ。
そして「首相官邸ネズミ捕獲長」の地位を得て、公務員(?!)になったということだ。ちゃんと役職付きで、お仕事があるのだ。
英国政府は「女王陛下の政府」である。ジェームズ・ボンドが「女王陛下の007」なら、ラリーは「女王陛下のネズミ捕獲長」といえるかもしれない。
しかし、ラリーから見て「初代」首相のデビッド・キャメロンは、彼は初期の数ヶ月間に3匹のネズミを捕まえたが、それ以来、ずっと「戦略的な計画段階(つまり、もっともらしい言い訳をつけて何もしない)」のままであり、失望していると語った。
その後は「殺し屋としての本能が欠ける」と言われ、タブロイド紙に「Lazy Larry(怠けラリー)」という、ニックネームをつけられたりした。
パーマストンとの因縁の戦い
すぐ近くにある外務・英連邦省にも、ネズミ捕獲長がいた。
ラリーより後の2016年にその職についたパーマストン(Palmerston)という猫だ。年下である。二匹が毛を逆立てた、たいへん非外交的で無愛想なケンカをしたことは有名だ。
結局彼は、4年強の務めののち、尻尾を巻いて(?)政治を辞め、2020年には「脚光を浴びることから離れて、もっとリラックスした時間を過ごす」ために、田舎に引退した。
さて、ラリーはキャメロン首相と不仲という噂が立っていた。キャメロン首相は、あまり猫が好きではないらしく、猫の毛が服に着くとか、来客がある日はキャットフードの臭いを芳香剤で紛らわさないといけないなどと報道された。
英国が欧州連合(EU)を離脱するかを問う国民投票のあと、キャメロン首相は官邸を去ることになった。首相と議員との最後の質疑応答で、キャメロン氏は、ラリーと仲良く写っている写真を掲げて、この噂を撃退しなければならなかった。そして自分が去った後も、ラリーは官邸に居続けると請け合い、連れて行けないのは「悲しみだ」と言った。
ラリーの政治家の好みは?
ところで、ラリーの政治家の好み(?)について、有名なエピソードがある。
ラリーは野外出身のせいか少し神経質というか警戒心が強いところがあるらしい。でも、オバマ大統領にはよくなついたと言われる。実際、なでなでさせてあげている。
ところが、トランプ大統領夫妻が訪れて、次のメイ首相夫妻が出迎えたときは、窓の所にいて近づかなかった。しかも、大統領専用リムジン「ザ・ビースト」の下にいて、動こうとしなかった。
ラリーはバイデン大統領はどう評価するのだろうか、楽しみだ。
ラブ・ロマンスはあるの?
ところで、ラリーにはロマンスはないのだろうか。
ついぞ聞いたことがないが、メス猫と一緒に首相官邸に住んでいたことはある。フレイヤ(Freya)という2歳くらい年下の猫だ。
もともとはジョージ・オズボーン財務大臣が家で飼っていた猫だった。ところがある日、姿が見えなくなってしまい、探したがみつからない。あきらめていたら、ある日妻のところに電話がかかってきて、地元で餌をもらって生きているというのだった。
ちょうどキャメロン首相は、ラリーに腹を立てていたところだった。報道によると、ラリーにネズミを追いかけさせようとしたが、片目を開けただけで、椅子から動くことを拒否したというのだ。そこでラリーをクビにして、新たにフレイヤをネズミ捕獲長にしようとしたという。
キャメロン首相によると、彼女の方がタフで、より通りに精通した捕獲者ということだ。そこでダウニング街10番、11番、12番のパトロールに任命した。こうしてラリーと共同で職に就いたのだった。
二匹は、たまに大げんかをするが、共存していたという。
ところがフレイヤは脱走(?)が好きで、2014年5月には1マイルほども逃走して迷子に、8月にはホワイトホールで車に轢かれてしまった。
そんな事情で、彼女はケントの田園地帯に送られ職を辞した。その後は安全に自由に動き回れるようになったという。
ネズミ捕りより重い役目
動物好きの国では、ダウニング街の猫は広報活動において重要な役割を果たしている、と歴史家のアンソニー・セルドン氏はAFP通信に語った。
この過去4人の首相の伝記を書いた歴史家は、「猫は首相を人間らしくするのに役立つ」という。
危機の時には、猫は「気晴らしとして振る舞える」とも付け加えた。
ロンドンのクイーン・メアリー大学で政治学の教授を務めるティム・ベール氏は、ラリーの役割が長かったのは、「政治家と有権者の間にある大きな断絶」の橋渡しをしたいという、首相の願望があったからだとしている。
特に国民を二極化させている首相は、「人々に共通の何かを持っているという印象を与えるために、もちうるあらゆる機会をつかもうとする」のだそうだ。AFPが報じた。
それは筆者も実感としてわかる。
ブレグジット問題を書き続け、イギリスとEUの平和的な外交戦争は、丁々発止が面白くもあったが、時にはうんざりし、げんなりすらした。
記事を書いたものの、記事写真を選ぶのに「政治家の顔なんて、もう見たくもない」という時に使った写真が、以下のものだった。筆者の大のお気に入りだ。
海をはさんで大げんかする二者を前に、どこ吹く風。「あー、人間どもはくだらん」と言いたげ(?)なラリーの大あくびを使わせてもらったのだった。
ラリー10周年は、EU側の国々でも報道されている。英首相と国民どころか、イギリスとEUをもつないでくれている。英国と日本もかもしれない。君はすごい、ラリー君!
私がヌシ!
ラリーは、非公式のTwitterアカウント@Number10catを持っていて、43万3000人以上のフォロワーがいる。
AFPのジャーナリストがSNSを介して連絡を取ったアカウントの著者は、「人間の介入はない」と主張し、ダウニング街での自身の長い統治について簡単な洞察を述べた。
ラリー曰く、「重要なことだから覚えておくように。私は永久にここに住んでいるのだよ。政治家は彼らが解雇されるまでの間、少しの間だけ私と一緒に下宿しているのだ」
「遅かれ早かれ、彼らは全員、この場所を仕切っているのは私だということがわかるのだよ」
昨年のクリスマス。長年続いて疲れ切っているブレグジット交渉が、やっと最終決着したときのラリー。鳩をつかまえようとして、取り逃がしたのか、ちょっと遊んだだけなのか。多くの人が、このラリーと鳩の姿に、EUと英国の姿が映っているように感じたのだった(どう映ったかは、人によって違った)。
パパラッチなんてお構いなしで、目の前で披露。「やっと終わった。クリスマスだ」という、人々のほっとした気持ちと共に、大変有名になったビデオだ。
もう結構おじいさんになってしまった・・・元気で長生きしてね!