「ネギやにんじんが送られてきた」被災地に負担をかけない・無駄にしない食料支援とは?
静岡県熱海市で発生した土石流で被害に遭われた方、ご家族の方へ、心よりお見舞い申し上げます。
静岡県熱海市は、2021年7月7日11:20a.m.、市の公式サイトで次のような「支援物資についてのお知らせ」を発表している(1)。
この度の土砂災害に対し、多くのご支援を賜り誠にありがとうございます。
現在、避難されている皆様の多くは市内ホテルに滞在いただいており、必要とする物資は限られております。大変多くのみなさまから多大なる物資の支援を頂戴しており、保管場所の確保が困難な状況となっております。
その上で、大変心苦しいところではありますが、一度支援物資のご提供(ご支援)をご遠慮させていただきます。
みなさまからのご厚意をこのような形でご不快の念をおかけいたしまして、大変申し訳ございません。
保管場所の状況が安定した際は、改めまして支援物資ご提供のお願いをさせていただきますので、その際は変わらぬご支援を賜れますと幸いでございます。
誠に身勝手ではございますが、ご容赦の程、よろしくお願い申し上げます。
7月7日付のJ-CAST NEWSによれば、ネギやじゃがいも、にんじんなどの野菜類が寄せられていたそうだ(2)。
「『災害が起これば、避難所で炊き出しをやるだろう。ならば、野菜が必要かもしれない』ということで、(野菜を)お送りいただいたのだと思います。ただ、食事は(ホテル避難なので)心配がいらない。また、今は湿気も高く、野菜が傷みやすい時期です。心苦しいんですけれども...処分させていただかざるを得ない状況です」(熱海市担当者)(J-CAST NEWS、2021年7月8日付より)
筆者は2004年の新潟中越沖地震発生時、食品メーカー広報室長として、行政と連携して支援食料を送る手配をした。また2011年の東日本大震災発生時には農林水産省やフードバンクと連携して被災地へ食料を運び、2011年末から2014年まではフードバンク職員として炊き出しや食料支援を行なってきた。被災地への食料支援が「支援」にならず「ありがた迷惑」になってしまう事例も見てきた。今回は、どのような食料支援はしない方がよいのか、その経験からお伝えしたい。
日持ちしないものは送らない
東日本大震災のように、広範囲が被災し、津波や原発事故など、多くの要素が絡んだ場合、発災直後から水と食料が必要になる。影響が長期化し、大量の食料が必要となる場合は、政府から食品関連企業に要請が届き、企業から数百〜数千ケース単位で支援食料を手配する。
ただ、熱海の場合は範囲が限定されており、ホテルに避難している被災者に関しては、飲料や食料を提供されている。そこへ、個人単位でネギやじゃがいもやにんじんを送られても、受け取ったほうが困惑してしまう。「炊き出しをやるだろう(から野菜が要る)」というのは、送る側の勝手な思い込みに過ぎない。
一方、被災者の全員がホテルに避難できているわけではない。たとえば熱海市伊豆山(いずさん)の県営七尾団地は、道路の通行止めにより、車での移動ができなくなっている。団地には175世帯、272人が入居していて、6割余りが65歳以上の高齢者だそうだ(3)。だが、ここでも熱海市などから支給されたおにぎりや水が配布された。地元だからこそ事態を把握してニーズに合う対応がなされている。
昨年2020年2月、横浜市のふ頭に停泊中だったダイヤモンド・プリンセスに、弁当4000食が積み込まれた。乗船中の方に取材したところ、乗客に配布されておらず、結局、どこでどう処理されたのか、最後までわからなかった(4)。弁当は日持ちしない。ダイヤモンド・プリンセスの乗客には一日三食提供されていたので、食事は充足していた。日持ちしない食料を送るのは、よほど食事に困っている場合に限ることにしないと、せっかくの食料が無駄になってしまうし、逆に、現場に負担をかけてしまう。
地元の商売を邪魔しない
東日本大震災の時には日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンのトラックに乗せてもらい、宮城県石巻市をはじめとした被災地へ食料支援をしていた。その時、当時のスタッフが心がけていたのは「地元の商売を邪魔しない」ということだ。被災したとはいえ、徐々に、地元の商店も営業を開始する。その近くで、無償で食料を配ってしまえば、被災地の商売を邪魔することになってしまう。だから、できる限り、地元商店から離れたところで食料配布するように気をつけていた。
同じようなことが、2016年の熊本地震でも起こっていた。個人単位で支援食料を集めた人が、被災地でバーベキューを無料で提供する炊き出しを行なっていた。だが、熊本では東日本大震災と違って、津波の被害を受けたわけではなく、発災からしばらくして地元の飲食店が営業を始めていた。その近くで炊き出しをやることは、ともすれば営業妨害になってしまう。また、必要以上に提供することは、余剰食料を生んでしまう。
無料で食料支援や炊き出しをやる時には、営業している食料店や飲食店から離れたところでやることを心がけたい。
刻一刻と変わる被災地のニーズを無視しない
東日本大震災から数年経って、石巻の方と食品展示会で話したとき、「支援食料を捨てないように食べていたら体重が20kg近く増えた」と言われたことがあった。食品ロスにしないために、支援食料を食べていたら健康を害してしまったという結果にショックを受けた。
東日本大震災の後には、被災地から「これ、要らないので、フードバンクで使ってもらえますか」という打診があった。日本のものもあったが、タイ語で表記された缶詰や、韓国から届いた、お湯で溶いて食べるおかゆのようなものもあった。
熊本地震から3年経った後でも、賞味期限が切れたペットボトル入りミネラルウォーターが130トンも余っているという報道もあった(2019年7月29日付、熊本日日新聞)(5)。ペットボトル入りミネラルウォーターに表示されている賞味期限は、実際には「賞味期限」ではなく、「この日までは明記された容量が入っていますよ」という容量を担保する期限なので、すぐに捨てる必要はない。だが、この年に起きた千葉県の台風でも、賞味期限切れのミネラルウォーターが市民に配られ、クレームがあり、市がお詫びしたと東京新聞が報じている(6)。
東日本大震災や熊本地震の事例は、被災地のニーズにそぐわないものや、必要以上の水や食料が送られた結果といえるだろう。被災地に入るとわかるが、ほんの数時間でも状況は変わる。離れたところから被災地へ食料を送ると、届くころには現地のニーズが変わってしまっている場合も多い。
自己満足や思い込みで支援食料を送らない
基本的には、個人で少量の支援食料を送らない、自己満足や思い込みで日持ちしない食料は送らない、ということが大切だ。自分が救われたい思いや自己肯定感の低さから人を助けようとする根底には「メサイアコンプレックス」がある、とも呼ばれる(7)。
災害では「自助・共助・公助」と言われる。が、交通が寸断した場合、公助や共助に頼ることはできず、自助でしか食料はまかなうことができない。3日間から7日間過ごせるだけの水と食料は自宅に確保しておきたい。
自然災害をゼロにすることはできないが、発生を減らす・被害を最小限にするためには、異常気象や気候変動の影響をできる限り小さくすること。そのためにも食品ロスを減らす必要がある。そして、何より、人災から起きる災害も減らさなくてはならない。
参考情報
1)静岡県熱海市「支援物資についてのお知らせ」(熱海市、2021年7月7日)
2)支援物資いりません...熱海市が「苦渋の決断」 背景には何が?市が明かす被災地の現状(J-CAST NEWS、2021年7月7日)
3)熱海 伊豆山の団地で市などが食糧や水を配布(NHK、2021年7月4日)
4)消えたシウマイ弁当4000食どこへ?積み込み当日の昼、英国人男性がふ頭で発見(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020年2月16日)
5)なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019年7月30日)
6)賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019年9月13日)
7)その善意、メサイアコンプレックス?善意は時には仇になる 西日本豪雨に際し現地に負担をかけない支援とは(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018年7月10日)