北欧デンマークが挑む高齢化対策、注目の「サルトジェネシス」とは?
北欧諸国と日本には共通の関心がある。それは「高齢化社会」への対応だ。北欧は日本の高齢化社会の取り組みに興味があり、日本は北欧の福祉制度やDXに関心が高い。
コペンハーゲンで開催されたイノベーションの祭典TechBBQの記者会見では、シリコンバレーの「イノベーションセンター・デンマーク」が最新の報告書を発表した。
注目すべきは、デンマークが進める「長寿技術分野」で必要とされる「サルトジェネシス」の考え方だ。これは米国とデンマークの協力を進めるうえで「鍵」となるフレームワークだとされている。
どの国も高齢化という大きな課題を抱えている。健康、ウェルネス、メンタルヘルスは投資が集まる分野だ。特に注目されているのが、「サルトジェネシス」を取り入れた市場だ。
健康の要因を強化するサルトジェネシスとは
医学では、病気の病因論(pathogenesis)が重視されてきた。これは、病原体を特定し、治療法を考案する方法だ。
対照的に、「サルトジェネシス」(健康の創造・起源/salutogenesis)は、病気の治療から健康増進へと焦点を移す新しいアプローチだ。これにより、個人やコミュニティのレジリエンスを育てることができる。
サルトジェネシスの利点
- 健康促進に焦点を当てることで、予防ケア、医療費の削減、生活の質の向上につながる
- 患者は自分の健康をよりコントロールできるようになる。自分のケアやライフスタイルについて、十分な情報を得た上で積極的な意思決定を行う、「患者のエンパワーメント」につながる
- レジリエンス(回復力)とアダプティビティ(適応力)に重点を置くことで、慢性疾患の管理に必要な継続的な医療ケアとライフスタイルの調整が可能となる
- どちらかがより良いというのではなく、両方の長所を組み合わせたハイブリッド型のアプローチとなる、「医療2.0から医療3.0への移行」と報告書では指摘されている
スタンフォード長寿センターは、「新しい人生の地図」イニシアチブを発表した。これは、100歳を超える寿命の中で、高齢者を社会の負担ではなく価値ある資源として再定義し、教育や労働のシステムを根本から見直すものだ。伝統的な教育や定年制に固執する日本のシステムと比較して、革新的なアプローチと言えるだろう。
10 の原則
- 年齢の多様性を活用する
- 長寿社会に対応した地域社会をつくる
- 健康寿命と寿命の一致を図る
- 経済的な安定を最初から築く
- 将来の百寿者に投資して大きなリターンを得る
- 人生の転機を支援する
- 生涯を通じて学ぶ
- より多くの年数をより柔軟に働く
- 科学技術の飛躍的進歩を活用して、高齢化の未来を変革する
- 進歩が人口全体に行き渡るようにすること
執筆後記
フィンランドなど他の北欧諸国にも共通する傾向だが、長寿社会に向けての医療・福祉現場の変化や技術において、北欧は常に日本や米国のような「他国」と協力して課題解決を図ろうとする。
自国内だけで考えていても、迫る高齢化社会でに間に合わないという危機感が強いのだろう。
この分野においては、他者・他社・他国といかに連携できるかが、市民が長く幸せに暮らせる社会づくりに大きな影響を与えそうだ。
参照
- 報告書『Future of longevity. Extending healthy lifespan opportunities & challenges.Published for TechBBQ by Innovation Centre Denmark, Silicon Valley. August, 2024』
- A Trend in How to Fundamentally Address Disease and Health Is Underway in the Business of Modern Medicine (Innovation Centre Denmark)