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「北朝鮮がアフリカを制裁の抜け穴にしている」:国連報告が示す懸念と「抜け穴」をふさぐために必要なこと

六辻彰二国際政治学者
北朝鮮大使館前での抗議デモ(クアラルンプール:2017.2.23)(写真:ロイター/アフロ)

世界を駆け巡った金正男氏の殺害事件をきっかけに、北朝鮮はこれまで以上に国際的な非難にさらされています。

米国トランプ政権は北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを検討。さらに3月5日、従来北朝鮮と良好な関係を維持してきたマレーシア政府も、今回の事件をめぐり、北朝鮮大使に国外退去を要求。両国の関係悪化は決定的になりました。

そのなかで、3月4日に国連の専門家パネルは、北朝鮮が大量破壊兵器の製造などに必要な物資を調達し、武器を密輸するために、アフリカを利用していると報告。今回のパネルにも参加したピーターソン国際経済研究所のノーランド副代表によると、アフリカ54ヵ国中、北朝鮮に対する制裁に加わっているのは7ヵ国にとどまります

マレーシアとの国交断絶により、国際的なイメージ悪化に歯止めがかからない北朝鮮は、これまで以上に自らの国際的立場の確保に向かわざるを得ません。この背景のもと、北朝鮮とアフリカの関係は、日本にとっても、これまでになく重要な政治テーマとなりつつあります

冷戦期における北朝鮮とアフリカ

北朝鮮とアフリカの関係については、欧米メディアやアフリカの一部の研究者の間で、数年前から関心がもたれてきました。まず、北朝鮮とアフリカの関係をみていきます。

北朝鮮がアフリカへのアプローチを強めたのは、1970年代でした。当時、冷戦構造のもとで、東西両陣営はアフリカで陣取り合戦を展開。そのなかで北朝鮮は、東側陣営の一国として、白人支配に抵抗する黒人のゲリラ組織などに軍事支援を提供しました

ソ連や中国など他の社会主義諸国だけでなく、北朝鮮からも支援を受けた個人や団体のなかには、その後で政権を握り、現在もその座にあり続けているものもあります。ジンバブエのムガベ大統領やモザンビークの与党FRELIMO(モザンビーク解放戦線)、ナミビアの与党SWAPO(南西アフリカ人民機構)などは、その典型です。

また、この時期に北朝鮮は、文化交流事業として、国営の美術製作会社である万寿台創作社のアトリエをセネガル、ジンバブエ、ナミビア、コンゴなどに設立。金日成のチェチェ思想の普及の一環として、各地に数十メートルの銅像を建立するなどのプロジェクトを行いました。

冷戦終結後の停滞と「復活」

しかし、東西冷戦が1989年に終結すると、北朝鮮のアフリカ進出は鈍化。中国の場合、冷戦終結を転機に、アフリカへのアプローチは、それまでのイデオロギー的、軍事的な支援から経済重視のものにシフトしました。ところが、北朝鮮は時代の変化に応じたシフトチェンジができなかったため、アフリカ側からみても需要の低いものになったのです。

ところが、北朝鮮は2006年頃から再びアフリカへのアプローチを強め始めたとみられています。

南アフリカのシンクタンク、ISS(安全保障研究所)が2016年11月に発表した報告書によると、北朝鮮とアフリカ諸国の間の貿易額は、1998年から2006年までの間、年平均9000万ドルでしたが、2007年から2015年までの期間をみると、年平均2億1650億ドルにまで急増ISS, p.17)。

このリストの上位には地域大国と呼べる国や冷戦期からの友好国が多く、それらの2014年段階の貿易額はナイジェリア(2609万ドル)、エジプト(1750万ドル)、モザンビーク(1477万ドル)、ウガンダ(1180万ドル)、ブルキナファソ(648万ドル)などとなっています(ISS, p.18)。北朝鮮との取引を日米ほど全面的に規制している国は、世界ではむしろ少数派とさえいえますが、それでもアフリカのこの傾向は目立つといえます。

孤立の回避と独立の希求

この転機となった2006年は、北朝鮮が国際的な孤立を深めた時期です。その前年の2005年、北朝鮮は核保有を宣言。さらに2006年7月には、ノドンやテポドンなど計7発のミサイル発射実験を強行していました。その結果、2006年10月に国連安保理では、北朝鮮への禁輸措置などを含む決議1718号が採択され、同様の制裁決議がその後相次いで決議されていったのです。

国連による制裁は、北朝鮮をして、国際的な孤立を回避するための外交活動に向かわせる転機となりました。その際、冷戦時代からの経緯に鑑みれば、北朝鮮がアフリカ諸国など主に開発途上国との関係強化を重視したことは、いわば自然の成り行きでした(この点では、1989年の天安門事件後の中国が、国際的な孤立を回避するために、開発途上国へのアプローチを強めたことと同じ)。

これに加えて、ISSの報告書が指摘する(ISS, p.17)ように、北朝鮮がアフリカを含む各地での取引を増加させた要因として、中国との関係も無視できません

北朝鮮への厳しい制裁を求める日米韓に対して、中国はロシアとともにこれを擁護してきました。しかし、その一方で中国が半ば独占的に北朝鮮への投資・貿易を推し進めたことで、北朝鮮は中国への依存度を深めてきました。北朝鮮にしてみれば、中国は日米韓に対する防波堤であると同時に、その恩義を盾に「朝鮮半島の非核化」を説いてくる、油断のならない相手です。これに鑑みれば、北朝鮮がアフリカをはじめとする関係の多角化によって中国に対する独立性を求めたとしても、不思議ではありません。

経済と軍事の融合

ただし、北朝鮮の場合、日本や中国と異なり、アフリカと関係を強化する手段として、大規模な開発協力を提供することはできません。そのなかで手段となっているのが、兵員の訓練をはじめとする軍事協力です。例えば、2014年にウガンダのムセベニ大統領は北朝鮮による兵員訓練に謝意を示しており、ナイジェリア軍も平壌に定期的に幹部候補を遊学させています(ISS, p.15)。これら各国は、これらの活動が国連決議には違反しないと強調しています。

このように、北朝鮮にとって軍事は重要な外交手段ですが、それを通じてアフリカに接近することで、経済的な利益も得ています。つまり、経済制裁に直面する北朝鮮は、アフリカとの関係を通じて、大量破壊兵器の製造に必要な物資を調達するとともに、兵器の輸出先を多少なりとも確保しているのです。

ISSの報告書は、北朝鮮とアフリカの間の民生品の貿易について検討しています。それによると、北朝鮮からは主に石炭などが、アフリカからはレアメタルを含む鉱物資源が、それぞれ輸出されています(ISS, pp.19-22)。しかし、北朝鮮の輸入品のなかには、ウランなど大量破壊兵器の製造に直接かかわるものだけでなく、その生産に転用可能な電化製品なども含まれているともみられています。

さらに、各国が国連に報告する公式データに基づくISSの報告書では触れられていませんが、国連の専門家パネルの報告書では、エジプトのスエズ運河で北朝鮮籍の貨物船から3000発のグレネードランチャーが発見されたことなど、具体的な事例が報告されています

これと並行して、貿易以外の形態でも、アフリカは北朝鮮の軍事と結びついた経済活動の舞台になってきました。コンゴ民主共和国、エチオピア、マダガスカル、ウガンダなどでは、北朝鮮の軍事工場が設立されており、ナミビアも2000年初頭から北朝鮮と軍事施設建設の契約を交わしてきました(ISS, p.14)。

北朝鮮にとって軍事は、アフリカとの関係を強化するだけでなく、核・ミサイルの開発を続け、さらに経済的な利益を得るという、一石三鳥の手段といえるでしょう。

「我々は孤立していない」

戦後の日本では、官民を問わず、「外交」というと主に欧米諸国なかでも米国との関係を最優先に捉え、それ以外を軽視する傾向があるようにみえます。しかし、北朝鮮にとって、他の地域にも増して、アフリカへのアプローチを活発化させることには、大きく二つの意味があります。

第一に、北朝鮮が「国際的に孤立していない」と強調するうえで、アフリカに接近することは有効だということです。

国連加盟国の193ヵ国中、アフリカ大陸とその周辺の島嶼国は、54ヵ国にのぼります。つまり、国連加盟国の約四分の一はアフリカの国です。経済制裁などの決議は、五大国が圧倒的な影響力をもつ安全保障理事会で行われますが、全ての加盟国が集まる国連総会は一国一票。国の数が「国際的支持」を左右するシーンにおいて、アフリカは無視できないのです(これは北朝鮮だけでなく、日本をはじめとする各国にとっても共通する)。

その一方で、アフリカには北朝鮮の「反米、反西側」の主張を受け入れやすい土壌があります。例えば、北朝鮮との関係が深いことで知られるウガンダの場合、西側先進国とも援助や投資を通じた関係がある一方、これらとの間には「同性愛の違法化」などをめぐる対立があります。同国のムセベニ大統領からは(価値観の押しつけを拒絶する)「反植民地主義」を叫ぶアピールも度々聞かれます

アフリカは植民地時代だけでなく、独立後も西側先進国の大きな影響下に置かれてきました。西側先進国に対する反感が広く根付いたアフリカは、やはり冷戦期からこれと対立してきた北朝鮮にとって、アプローチするのに好都合の土地といえるでしょう(この点では中国やインドも同じ)。

北朝鮮のアドバンテージ

第二に、軍事協力が外交活動の柱である北朝鮮にとって、アフリカは活動しやすい土地といえます。

北朝鮮が軍事協力をテコにアフリカ進出を加速させることができた背景には、先進国とアフリカのギャップがありました。イスラーム過激派の台頭もあり、アフリカ諸国の政府にとって軍の強化は大きな課題です。しかし、冷戦終結後の欧米諸国なかでも米国は、アフリカへの兵器移転に、基本的には慎重な立場をとってきました

アフリカには人権状況に問題の目立つ国が多く、軍隊が市民を抑圧することも珍しくありません。そして、その兵器が援助で提供されたものなら、提供国政府も国内外から批判にさらされかねません。(特定の政権によらず)米国政府の観点からみれば、中東諸国の場合、安全保障と経済の両面から、例え批判を招く結果になったとしても、支援するだけの意味があるといえるでしょう。しかし、米国政府がアフリカにそれだけの価値を見出すことは、ほとんどありません

さらに、給与の安さなど待遇の悪さも手伝って、アフリカの軍隊は総じて規律やガバナンスに問題が多く、兵器の横流しなども横行しています。提供した兵器が転売されては、元も子もありません。

その結果、西側先進国は、例えアフリカ諸国から兵器提供を求められた場合でも、これを断ることが珍しくありません。例えば、2014年のボコ・ハラムによる女子学生誘拐事件後、ナイジェリア政府は米国に軍用ヘリなどの提供を求めましたが、米国はナイジェリア軍による人権侵害に懸念を示し、女子学生捜索のためのドローン提供にとどめました。ナイジェリアが大陸有数の「汚職大国」であることも、この判断を後押ししたといえます。

このような環境のもと、相手国の内政などに一切関与しない北朝鮮が、軍事協力をテコにアフリカ諸国に接近することは、比較的容易といえるでしょう(この点で中ロは同じ)。

北朝鮮と距離を置き始めたアフリカ

こうしてみたとき、北朝鮮にとってアフリカに接近することは、小さくない意味を持ちます。また、国によって差があるとはいえ、アフリカの側にも北朝鮮との接触によるメリットがあるといえます。

しかし、アフリカにおける北朝鮮の立場は、安泰とはいえません。むしろ、最近では北朝鮮にとっての「逆風」が目立ちます。

2014年2月、ボツワナ政府は人権侵害を理由に北朝鮮との国交を断絶。独立戦争時の支援もあって、北朝鮮をしばしば擁護し、大量破壊兵器の部品調達に関わっていると国連がみなす朝鮮鉱業開発訓練社(Korea Mining and Development Trading Corporation)の国内操業を認めていたナミビア政府も、2016年7月にはこれらの操業を禁止。さらに、2016年5月に韓国の朴槿恵大統領が訪問し、軍事協力を約束した直後、ウガンダ政府は北朝鮮との軍事協力を取りやめると発表しました

程度の差はあっても、西側先進国に反感を持つ点で、多くのアフリカ諸国は北朝鮮と共通します。その立場からするとからみて、北朝鮮が西側に抵抗して軍事大国化を目指すこと自体に、ある程度の共感はもてるかもしれません。とはいえ、損得勘定で考えれば、彼らにとって、西側先進国からかばい続けるほどの魅力が北朝鮮にあるとは思えませんこの点で、圧倒的な資金力を背景に、アフリカの開発に大きな影響力を持つに至った中国とは異なります。その意味で、「援助の出し手」である西側先進国からの要求が、アフリカ諸国政府のこれらの決定に大きく影響したことは確かでしょう。

さらに、北朝鮮政府はアフリカで組織的に犯罪行為に加担しているとみられており、これも各国の警戒を招いています。特に、今回のマレーシアの事件でも話題となった「外交官特権」を利用して、北朝鮮大使館が組織的に犯罪にかかわるケースが目立ちます。

例えば、2015年12月、南アフリカ政府は北朝鮮の外交官がサイの角の密輸にかかわったとして、国外退去を命じました

サイの角は漢方薬の材料として、中国やヴェトナムで需要があり、北朝鮮と関係の深いジンバブエなどで密猟された挙句、角だけ密輸される事態が多発。財政難から、北朝鮮政府は各大使館に財政的な「自立」を求め、これが大使館を拠点とする組織犯罪を加速させているとみられています。いずれにせよ、南アフリカの一件からは、北朝鮮政府による不法行為が目立つことに、現地政府が辟易する様子をうかがうことができます。

アフリカは「抜け穴」であり続けるか

ただし、アフリカにおける北朝鮮包囲網が強化されるかには、必ずしも楽観できません。実際、昨年一年で、国連専門家パネルに対して、北朝鮮との取引についての監視状況を報告したアフリカの国は、54ヵ国中11ヵ国にとどまりました。そこには、主に三つの要因があげられます。

第一に、アフリカ内部の温度差です。先述のように、ボツワナのように国交断絶にまで至る国もある一方、ウガンダでは軍事協力の中止が発表された後も、北朝鮮による兵員訓練が続いているといわれており、ウガンダ軍司令官はこれについて明言を避けています。特に欧米諸国と敵対的、あるいは独立志向の強い国では、北朝鮮への好意的な姿勢が続くとみられます。制裁が強化されるほど、「抜けがけ」で得られる利益は大きくなることは、これらの政府にとって北朝鮮に協力するインセンティブになります

第二に、アフリカでは政府だけでなく、警官、税関、裁判所に至るまで、汚職が蔓延していることです。その結果、行政の透明性は低く、法が定められた通りに執行されるとは限りません。政府中枢が西側先進国との関係を優先させて北朝鮮に多少厳しい態度をとったとしても、末端の税関職員に至るまで管理することは、困難なのです

第三に、そして最も大きな理由として、ほとんどのアフリカ諸国にとって北朝鮮が「脅威」と映りにくいことです。ボコ・ハラムをはじめ、アフリカで勢力を広げるイスラーム過激派は、各国政府にとって「脅威」ですが、それを取り締まるべき警察や税関が汚職にまみれているため、ヒトや武器の移動はほとんどザルのようです。これが「脅威」と映りにくい存在なら、なおさらです。

こうしてみたとき、北朝鮮に対する包囲網をアフリカで構築することは、容易ではなりません。制裁措置は抜け穴がある限り、効果を発揮しにくくなります。つまり、多少なりとも北朝鮮に好意的な国がある以上、包囲網は期待通りの効果をあげられないのです。

ただし、ウガンダの例をみても分かるように、安保理決議や援助によって協力を「強要」しても、面従腹背されては意味がありません。「やらされている」感が強ければ、パフォーマンスが落ちるのは、個人でも国家でも同じです。その意味で、「抜け穴」を効果的にふさぐためには、相手の事情や要望をくみ取るなかで、アフリカ各国に主体的な協力を促すことが求められます

だとすると、北朝鮮に対する制裁で効果をあげるために、日本を含む西側先進国には、安保理決議や援助だけでなく、「大量破壊兵器の拡散が全員にとって脅威であること」を納得させるとともに、汚職対策などで現地政府に協力することも必要になるでしょう。ただし、そのためには、「価値観に囚われすぎず目標を共有する」、「援助を提供すればすぐに効果があがると期待しない」など、アフリカに対する基本的な姿勢からまず見直すことが欠かせないといえるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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