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抱腹絶倒! 仮面ライダーが自ら棺桶に入った、という驚愕エピソードがある。計算すると、余命57分!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

『仮面ライダー』には楽しいエピソードがいっぱいあるけど、筆者のココロに焼きついているのは「ライダーが自ら棺桶に入って、地中に埋まった」という話である。

とっても小さなエピソードだけど、科学的には大きく不思議。

とはいえ、それだけでは意味がわからないだろうし、一言で説明するのも難しいので、物語を紹介いたします。

『仮面ライダー』第6~7話で描かれたこの事件の発端は、第二次世界大戦の末期に遡る。

劇中では「敗戦を覚悟したドイツが、何兆とも何十兆ともいわれる財宝を、同盟国の日本に潜水艦で移送した」と説明されていた。

それから数十年――。

財宝が日本に眠っていることを知った悪の秘密結社ショッカーは、ハインリッヒ博士と手を組み、死神カメレオンに秘宝のありかを記した地図を入手するよう指令を出した。

この企みを知った仮面ライダーは、懸命に阻止しようとする。

ライダーとショッカーの地図争奪戦は2週にわたって火花を散らすが、その地図は、最終的に死神カメレオンの手に落ちる。

むむっ、財宝はショッカーの手に渡ってしまうのか……!?

◆財宝を海に捨てた、ですと!?

死神カメレオンとハインリッヒ博士が地図に書かれた場所に行くと、地面に白い十字架が立っていた。

「ここだ!」と喜んで十字架を抜き、地面を掘るショッカー一味。

すると棺桶のような大きな箱が埋まっていた。そこに財宝が入っていると信じて、死神カメレオンがフタを開ける。

と、中に入っていたのは、なんと仮面ライダー!

ライダーは棺桶から飛び出して全員を蹴散らすと、こう告げる。

「財宝はあった。しかし、私の手ですでに掘り出し、太平洋の底に捨てた!」

え~っ、財宝を勝手に捨てた!? そんなことしていいの!?

いきなり寄り道するが、調べてみると、埋蔵物の私有権は民法241条に定められており、埋蔵物の発見者はそれを所有者に返すか、警察に差し出さなければならない、とある。

そのうえで、6ヵ月経っても所有者がわからなかったときは、埋蔵物は発見者のものになる。ただし、それが他人の土地から発見された場合は、土地の所有者と発見者の共有財産となる。

つまり、財宝を発見した仮面ライダーは、警察に差し出すべきだったのだ。

財宝は発見者・仮面ライダーと、それが埋まっていた土地の持ち主の共同財産なのだから、ライダーが勝手に処分することは許されない。

なのに、勝手に海に捨てちゃった仮面ライダー。いいのかな?

科学的に考える前に、法律面の心配を抱えてしまったが、さて本題。

筆者が不思議なのは「仮面ライダーがどうやって棺桶に入り、それを地中に埋めたか」だ。

劇中の描写を見ると、ライダーを支援する立花藤兵衛らはショッカーに捕まっており、協力者はいない。

また、棺桶は地下60cmという深い場所に埋まっていた。

そんな状況下、仮面ライダーが一人で地下の棺桶のなかに入ることは可能なのか?

棺桶に入ってフタを閉めてしまえば、その上に土をかぶせることはできない。

ましてや十字架を立てるなどまったく無理だろう。

では、どうするか?

筆者が思うに、次のような方法しかないと思う。

まず、上から下まで棺桶本体がピッチリ入る大きさの四角い穴を掘り、底に棺桶を収める。続いて、穴の横にフタを置く。その上にピッチリ載るように、高さ60cmまできれいに四角く土を盛り、盛り土の中央に十字架を刺す。

続いて、自ら棺桶に入り、下からフタを持ち上げて、「ヨイショ、ヨイショ」と少しずつ下ろして、指を挟まないように気をつけながら、ゴトッと棺桶にかぶせる。

このとき、フタの上の土と周囲の土の間には切れ目ができるだろうから、内側からフタをガンガン叩いて、振動で土を切れ目に落とし、切れ目がわからないようにしていく……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

われらの仮面ライダーが、本当にこんな地道な作業をしたのか!?

したんでしょうなあ、地中の棺桶の中に入っていたからには。

◆ショッカーは命の恩人だ!

方法については何とか想像がついたが、わからないのは仮面ライダーが棺桶に入った目的である。どう考えても、あまりに危険な行為だ。

目測だが、棺桶のサイズは横50cm×高さ40cm×長さ2mほど。この棺桶に入っている空気は400Lという計算になる。

人間は1回の呼吸でおよそ0.5Lの空気を出し入れし、1分間に14回の呼吸をするから、つまり1分で7Lの空気を消費する。

単純に考えるなら、400Lの空気はわずか57分で消費されてしまうということだ。

なんと仮面ライダーは、棺桶のフタを閉めた時点で、残された命が57分!

それだけではない。ショッカーは、密室のなかでは仮面ライダーのベルトの風車が回転せず、エネルギーを失うことを暴いていた。

同じ話のなかで、仮面ライダーは吊り天井の密室に閉じ込められ、大ピンチに陥るというエピソードが描かれているのだ。

ライダーは「俺を殺すと宝のありかがわからなくなるぞ!」と苦しまぎれの交渉をして、ようやく解放されたのだが、そこまで密室が苦手なのに、なぜ棺桶に入った!?

ここまでくると、問題は「なぜ仮面ライダーは棺桶に入ったのか」というより「なぜ仮面ライダーは助かったのか」であろう。

その答えはただ一つ。結果的にショッカーが助けてくれたからだ。

死神カメレオンが来るのがもう少し遅かったら、ライダーは確実に棺桶のなかで息絶えていた!

ということは、このエピソードは見方を変えると、棺桶のなかで死にかけていた仮面ライダーを死神カメレオンとショッカー一味が救出したという美談である。

なのに、躊躇なくライダーキックで彼らを葬り去っちゃった仮面ライダー。

正義のためとはいえ、いいのかな?

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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