韓国大統領選、コロナ感染者の投票でトラブル…「不正選挙疑惑」の火種に?
9日の本投票日を前に「薄氷の勝負」を争う韓国大統領選。高い期日前投票率が話題となったが、一方で選挙結果の信頼度を左右しかねない事態が起きていた。
●投票できずに帰る人も
3月4日、5日に行われた韓国大統領選の期日前投票には有権者の36.93%、約1632万人が参加した。
期日前投票としては過去最高となる数値で、5年に一度の大統領選に対する関心の高さをうかがわせるものだ。
さらに市民を期日前投票へと駆り立てた背景の一つに、新型コロナのまん延があった。
韓国では約22万人を記録した3月2日以降、約19万9000人だった3月3日を除き、毎日20万人を超える市民の新型コロナ感染が確認されている。人混みを避け、期日前投票が多かったという見立てだ。
そしていま韓国ではこの、新型コロナに感染し隔離状態にある市民の投票が大きな問題となっている。
中央選挙管理委員会(以下、選管)は、期日前投票2日目にあたる3月5日の午後6時から7時半までを、新型コロナ感染者の投票時間に充てていた。
非感染者の投票が終わった午後6時から入れ替わりで、隔離されている市民が投票できるようにしたのだった。
しかしこの過程で、トラブルが起きた。
例えば、投票後の投票用紙を封済みの投票箱ではなく口の開いた紙袋や段ボールに集めたり、3か所の投票所で配布された投票用紙が投票済みのものだったりした。
さらに、体調が優れない感染者であるにもかかわらず、投票まで長い時間を屋外で待たされ投票できないまま帰った人もいるなど、全国で「失敗例」が報告された。
また、こうした出来事は憲法で定める「秘密投票の原則」を損ね、「投票用紙は投票箱に入れる」という公職選挙法を違反するという指摘が相次いだ。
結局、今日7日の時点で選管は感染者の投票率を発表できていない「お手上げ」の状況となった。
こんな選管の体たらくに、大統領の座をめぐって激しく争う与党・共に民主党と最大野党・国民の力も声を合わせ非難した。
また、事態を重く受け止めた文大統領も6日、「中央選挙管理委員会がその経緯を国民が納得できるよう詳細かつ充分に説明する必要がある」と述べ、「本投票ではこうした論難(問題)が再発しないように」と注文した。
●「選挙不信」を避けよ
見方によっては、今回のトラブルは重大なものであるものの、単純な事務的なミスと考えることができる。
しかし、こんなトラブルが「不正選挙デマ」に利用されないとも限らない点で、簡単に見過ごせない。
そうでなくとも過去、韓国の国政選挙では負けた側の支持者が不正選挙を訴える出来事が続いてきた。
2012年12月の大統領選挙の後では、負けた文在寅候補の支持者が不正選挙を訴えた他に、ここ最近の国政選挙(16年総選挙、17年大統領選挙、18年地方選挙、20年総選挙)で4連敗していた現在の最大野党・国民の力の支持者の一部も根気強くこれを主張している。
特に今回は、6年ぶりに現在の与党・共に民主党が国政選挙で敗北する可能性がある。
与党関係者は筆者が取材するたびに「超々薄氷の勝負だが微妙に劣勢」と繰り返している。与党・李在明候補の劣勢はウォッチャーたちも広く認めるところだ。
現時点での新型コロナ隔離者は100万人を超えるとされ、有権者約4420万人の2%以上を占める。
薄氷の勝負の中で李在明候補が敗れる場合、支持者の不満が選管へと向かい「選挙の不信・否定」につながるかもしれないということだ。
一度でも選挙を信じなくなった市民は、選挙のたびに不正選挙を主張し、結果として韓国の民主主義の後退につながることになる。このため、選管側には万端の準備が要求される。
折しも選管は7日、緊急委員会を開催した。そして「予測することがとても難しかった」と5日に混乱を巻き起こしたことを謝罪した。
その上で9日の本投票日には、投票所が期日前投票の約4倍に増えることから「分散効果が期待できる」として、対応に自信を見せた。
国を二分するような選挙も残り2日となった。李在明・尹錫悦のどちらが勝つにせよ、禍根の残らない選挙となり、韓国の民主主義が発展し続けることを願わずにいられない。