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進化するマンガのデジタル戦略 紙のマンガ誌低迷も出版社は好調 なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
(提供:イメージマート)

 多くのマンガアプリに加え、マンガ誌の作品が読めるウェブサイトが登場するなど、無料でマンガを読める環境がさらに広がりつつあります。紙のマンガ誌の部数減や休刊が相次ぐなど、大変そうなイメージのある出版業界ですが、大手の業績は好調です。なぜでしょうか。

◇大手の業績は絶好調

 出版科学研究所の「出版指標年報2022年版」によると、紙の出版物の推定販売額は1996年の約2兆6500億円をピークに、2019年は約1兆2000億円と半減。特に雑誌は全盛期の3割以下に落ち込んでいます。しかし2014年から集計を始めた電子書籍の市場は、8年で4倍超の約4662億円に成長。この上積みは大きく、電子書籍を加えた出版物の推定販売額は、2019年からは2年連続増に転じています。

 マンガ誌のビジネスは、制作時は赤字で、単行本(コミックス)の発売で黒字化するモデルです。なぜかといえば、マンガ誌は多くの作品を見せるための「ショーウインドー(陳列窓)」の位置づけでした。ところが、インターネットやスマートフォンなど、消費者の時間を食うツールの普及の影響を受け、どの雑誌の発行部数もほぼ減少の一途。同時に、出版社の業績も7~8年前はかなり厳しいものでした。

 ところが、利益率の高い電子書籍市場の拡大に伴い、出版社の業績も復調。小学館は4期連続の黒字で、売上高も1000億円を突破。講談社も3期連続で当期純利益が100億円を突破しています。集英社に至っては、売上高が2000億円に達した年度もあり、デジタルや版権などの「事業収入」は、今や売上高の半分以上を占めています。マンガ誌が低迷するイメージとは逆に、出版社の業績は絶好調なのです。

◇マンガ誌のブランドどう活用

 マンガに限れば、2019年にデジタルと紙の比率が逆転し、デジタルと紙の比率は今や2対1と前者の方が大きく、差は拡大傾向にあります。

 躍進のポイントを一つ挙げるとすれば、マンガアプリでしょう。連載を終えたマンガが読まれるなどコンテンツ資産が活用されるようになりました。広告を組み合わせて待てば無料で読めるシステムに加え、少額課金、サブスク(定額使い放題)など課金の多様化も収益化に貢献しました。また新型コロナウイルスによる巣ごもり需要、違法サイトの閉鎖や取り締まりも、プラスに働きました。

 一方で、マンガアプリの多さは、レッドオーシャン……競争の激化を意味します。早くからデジタルのビジネスに力を入れていて、ブランド力のある集英社の作品の強さは、変わらず際立っています。

 マンガアプリは「囲い込み」のビジネスで、マンガ誌と同様の役割を果たします。マンガのビジネスのポイントは、プラットフォーム(マンガ誌やアプリ)で人気作を抱えると同時に、その人気があるうちに新たな有望作を見つけ出して、次の看板作にすることにあります。そして各社とも、マンガ家の発掘……特に新人の育成を重視する流れになっています。そして、新人の作品を多く世に問うという意味では、スペース的な制約のないアプリは、紙媒体よりも理想とも言えます。

 一方、紙のマンガ誌の部数減少は止められないものの、依然としてブランド力があり、ニュースでも有力マンガ誌の休刊がSNSの話題になるのも、その証拠でしょう。そして紙の媒体(マンガ誌、コミックス)を発行することは、マンガ家のモチベーションになる一面もあります。そうした事情を考えると、紙のマンガ誌には「赤字だから切る」と簡単に判断できないのです。つまり紙のマンガ誌を維持するために、デジタルでの戦略がより重要になってくるわけです。

◇紙とウェブ マンガ誌の同時展開は

 そして、有料である紙のマンガ誌とほぼ並行して、デジタルのマンガ誌の展開に乗り出す出版社も出てきました。

 白泉社が3月からスタートした「ヤングアニマルWeb」は、マンガ誌「ヤングアニマル」に掲載したマンガやグラビアをウェブで読めるようにしています。紙のマンガ誌よりも少し遅れて掲載する作品もありますが、意欲的な試みです。白泉社によると、直接的な課金よりも新規読者の獲得を目指していて、さらにマンガアプリの弱点をカバーする狙いもあるといいます。

 白泉社もマンガアプリを展開していますが、アプリと別にサイトにしたのは、SNSでマンガを知った新規の読者が、アプリをインストールせずともすぐ作品を読めるようにするため。その結果、作品の購入につながれば……というわけです。

 また秋田書店のマンガ誌「ヤングチャンピオン」のマンガサイト「ヤンチャンWeb」も同じ3月にスタート。やはりマンガ誌に掲載するマンガやグラビアを、ウェブでも読めるようにしています。

 過去の名作も含めて、多くのマンガがデジタルで読める時代、紙のマンガ誌の部数を増やすことが難しいのは明らかです。そこで「なるべくネットでも公開する」という戦略は、挑戦するべき価値のある企画ではないでしょうか。そして、どの作品を公開するかの選択、見せ方、プロモーションも重要になりそうです。また公式の積極的な公開は、違法サイトへの対抗策にもなるので、この点でも優れているといえます。

 一連の新しい取り組みは、実施しないとわからない面が多分にあります。多くのビジネスで「そんなことは業界の常識でありえない」「無謀な企画」と指摘されたのに、実はそこに“宝の山”が眠っていたことは「あるある」です。苦戦するマンガ誌ですが、紙とウェブとの同時展開で、新しい変化があるのか注目したいところです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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