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キネマ旬報 2023年邦画ベスト・テンで読者の1位は『Gメン』。これは意外な結果…なのか?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
映画『Gメン』公式サイトより

映画雑誌、キネマ旬報が発表する毎年のベスト・テンは、2023年度で第97回。日本の映画界では日本アカデミー賞などと並んで、重要な映画賞という位置づけだ。米アカデミー賞も今年で第96回なので、それよりも長い歴史を誇っているというのがスゴい。2023年度のキネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位、つまり最優秀作品に輝いたのは、阪本順治監督の『せかいのおきく』で、これは同じく映画賞の毎日映画コンクールでの日本映画大賞とも重なっている。ただ、日本アカデミー賞で『せかいのおきく』は優秀作品賞の5本には入っていない(他のどの部門でもスルーされている)。

キネマ旬報ベスト・テンは、映画評論家、ジャーナリストらの投票によって決まる。2023年度、日本映画の部門に投票したのは、59人。そこに編集部の1票が加わるので、計60となっている。外国映画、文化映画のベスト・テンもあるが、もうひとつ、読者選出ベスト・テンという枠(日本映画/外国映画で別)もキネマ旬報は用意している。こちらは1972年度からスタートしたので、今年で52回目(それ以前は、読者投票は男女別に集計され、各1枠として評論家ベスト・テンに入っていた)。こちらも長い歴史を誇る。

当然のごとく、映画評論家と、一般の映画ファンの目線は異なるし、興行的にヒットした作品が読者ベスト・テンの上位に入ってくるケースが見受けられたりも。とはいえ、キネマ旬報の読者の投票なので、その読者層の志向が反映された結果となることが多い。意外なまでに、評論家のベスト・テンと変わらなかったりもする。2022年度は両者とも1位が『ケイコ 目を澄ませて』、2021年度も『ドライブ・マイ・カー』で一致していた。

その読者選出ベスト・テンで、2023年度、日本映画で1位となったのが『Gメン』だった。これは、かなり意外な結果といえる。『Gメン』は、評論家のベスト・テンではどんな順位なのか。キネ旬ベスト・テンは、各自が1位から10位までを選び、1位が10点、2位が9点……10位が1点として集計される。わずか一人が10位のみに入れた作品(総合点で1点)も含め、2023年度は138本のランクになったのだが、そこに『Gメン』は入らなかった。つまり評論家は誰一人として『Gメン』を自身のベスト・テンに加えなかったのだ。

こんなにも評論家と読者で、評価が分かれるものなのか……。ただ、読者の2位『福田村事件』は評論家で4位3位の『怪物』は同7位4位の『ゴジラ-1.0』は同8位5位の『月』は同5位、そして6位以降も含め、読者ベスト・テンの2位以下は、評論家とかなり近接した結果になっており、1位の『Gメン』だけが唐突に躍り出た印象。

外国映画の場合は、読者の1位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が評論家2位2位の『TAR/ター』が同1位と、入れ替わっただけで2トップは同じ。そして3位の『フェイブルマンズ』が同5位。ベスト・テンの5本が両者で重なっている。読者らしい結果では、4位に『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が入っている。

読者ベスト・テンに関しては、毎年、何人かがピックアップされてそのランクと評が誌面に掲載される。今年は18人が紹介され、そのうち17人の日本映画ベスト・テンにも『Gメン』は入っていない。残りの1人が『Gメン』を1位にしており、ここから察するに、とにかく『Gメン』を熱く愛した読者がこぞって上位で投票した、ということのようだ。キネ旬の読者ベスト・テンの投票は、本誌に付いている専用ハガキ、あるいは電子書籍購入による参加コードが必要なので、原則は一人一回。“組織票”が入らづらい方式にはなっている。

たしかに『Gメン』は観客に愛された映画かもしれない。高校を舞台にした、いわゆるヤンキーたちの痛快ドラマで、やりたい放題のノリを意外なまでに“きっちり”見せた作品で、キャストたちも楽しそうに躍動。とくに主演・岸優太のアクション、コメディ演技には、この人の大きなポテンシャルを感じさせた。

ちなみに評論家や映画人ではなく、一般の映画ファン/観客が決める年間の映画賞に、ヨコハマ映画祭がある。ここの2023年度のベスト・テンは、1位『ケイコ 目を澄ませて』(2022年12月公開のため)、2位『せかいのおきく』、3位『福田村事件』と、キネ旬の評論家ベスト・テンに近く、こちらでも『Gメン』は10位までに入っていない。一方で昨年末の日刊スポーツ映画大賞の「ファンが選ぶ最高作品賞」には『Gメン』が選ばれており、キネマ旬報と同様に、広く投票を呼びかける賞では強さを発揮している。

この『Gメン』と同じパターンが、3年前にもあった。キネマ旬報、2020年度の読者選出日本映画ベスト・テンで、1位に『天外者』が輝いたのだ。同作は評論家ベスト・テンで、1点という作品も含む全126本の中に、やはり入っていない(年末の12月公開ということで未見の人もいただろうが)。当時の読者ベスト・テン紹介欄でも、やはり『天外者』を1位にした人が2人いた一方、残りの人は10位までに入れておらず、『Gメン』と同様に、観た人の熱い支持の結果となった模様。主演を務めた三浦春馬さんが、公開前に7月に亡くなっていたことも、『天外者』へのそんな支持につながったのかもしれない。

評論家と一般の観客の評価の違いといえば、たとえばアメリカでは映画批評サイト、ロッテントマトなどがわかりやすい。日本ではそのように数字として比較できる媒体が少ないなか、キネマ旬報のベスト・テンは“傾向”がわかる材料ではあるが、時として極端に愛された作品が突き抜けるという、ちょっとユニークなランクであり、そこが面白いとも言える。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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