フェイスブックが「選挙を盗むな」を言葉狩り 企業の「言論の自由」介入をメルケル首相が懸念 米大統領選
民主党は11日、大統領の弾劾条項を含む訴追決議案を連邦議会下院に提出したが、ペンス副大統領は、ペロシ下院議長宛ての書簡で、憲法修正第25条(大統領が心身状態の不調から職務が遂行できなくなった場合の措置を定めたもの。手続き中はペンス氏が大統領代行となる)の発動に反対表明をした。そのため、下院民主党は、訴追決議案の採決に移る模様だ。
トランプ氏は2019年12月、権力乱用と議会妨害で下院により弾劾訴追され、2020年2月、共和党多数の上院は弾劾裁判で同氏に無罪評決を下したが、今回の弾劾手続きにより、トランプ氏は2回目の弾劾手続きを受ける初めての大統領となる。しかし、解任に対し、下院で過半数の賛成を得ることができたとしても、共和党が多数の上院で3分の2以上の賛成を得ることは難しいため、今回、弾劾裁判が行われたとしてもトランプ氏が有罪になる可能性は低いという見方だ。
極右系SNSはアマゾンを提訴
弾劾訴追決議案が提出されたのは、トランプ氏が暴動を扇動し、民主主義を脅かす危険人物とみられているからだ。実際、20日の大統領就任式に先立ち、過激なトランプ支持者たちが議事堂を再襲撃する可能性も懸念されている。そのため、彼らが集うSNSに対する配信停止も次々と行われている。
ツイッターがトランプ氏のアカウントを永久停止した後、トランプ支持者たちが極右系SNS、Parler(パーラー)に一斉に流れたことから、グーグルとアップルはパーラーのアプリを一時配信停止にしたが、アマゾンもまた同様の停止措置に入った。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)がパーラーへの接続を停止したのだが、これに対し、パーラー側はAWSの行為は独占禁止法違反に当たるとして、AWSを訴えた。
フェイスブックは「選挙を盗むな」というフレーズを削除
また、フェイスブックは11日、「Stop the steal(選挙を盗むな)」というフレーズを含むコンテンツを削除すると発表した。
同社ヴァイス・プレジデントのガイ・ローゼンバーグ氏がブログでこう述べている。
「我々は選挙結果に関し、遠慮がない会話をすることを許してきた。これらもそれは許し続ける。しかし、暴力に繋がる、大統領選の結果に反対するイベントを計画しようとする行為、そして、ワシントンDCで起きた暴動と関係がある言葉の使用については、大統領就任式までの間にさらなる措置を講じる。この措置の施行の拡大にはしばらく時間を要するが、すでに非常に多くの投稿を削除した」
ちなみに「選挙を盗むな」というトランプ氏が訴えてきたフレーズは、6日にホワイトハウス前で行われた大規模集会でも声高に叫ばれたフレーズだ。
「表現の自由」という権利は?
そんな中あがっているのが、ソーシャルメディア企業のアカウント停止措置が「表現の自由」の弾圧や言論統制に繋がることを懸念する声。トランプ支持者らは早速この点を訴えている。
トランプ・ジュニア氏も「言論の自由は死んだ、左派のオーバーロードにコントロールされている」と発言。サンダース大統領報道官も「ここは中国ではなく、アメリカだ、自由の国だ」と声をあげた。
これに対し、専門家は、ツイッターは政府機関ではなく私企業であるため、ユーザー登録する際の同意事項が合衆国憲法修正第1条である「表現の自由」よりも優先される、ツイッターの措置は合衆国憲法修正第1条に抵触することにはならないと説明している。
欧州の政治家たちは永久停止措置を懸念
しかし、ヨーロッパの政治家たちはソーシャルメディア企業によるアカウント永久停止措置に疑問の声をあげている。トランプ氏とは対立することも多かったドイツのメルケル首相も懸念の色を示した。
メルケル首相のスポークスマンは「言論の自由という権利は基本的に重要だ。そのため、首相は大統領のアカウントが永久停止されたことを問題視している。表現の自由に介入することは可能だが、立法が決めた許容範囲内で介入すべきであり、企業判断によって介入すべきではない」と話している。
フランスのブリュノ・ル・メール経済財務大臣も「デジタル・ジャイアンツの規制を、デジタル寡頭制の企業自身が行うことはできない」と問題視。
ロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏も「感情と個人的政治嗜好をベースにした受け入れがたい検閲行為だ」とツイッターを非難した。
欧州連合(EU)のティエリー・ブルトン欧州委員は、ツイッターが永久停止にした判断に対して「キャピトル・ヒル - ソーシャルメディアの9.11の瞬間」と題する意見文を政治サイト「ポリティコ」に掲載し、デジタル・ジャイアンツに対する政府の規制の必要性を訴えている。
ブルトン氏は、9.11により世界の安全におけるパラダイムシフトが起きたように、20年後の今、我々は、議事堂襲撃事件により民主主義のデジタルプラットフォームの役割における“前と後”を目撃しているという。
ブルトン氏は意見文の中で「CEOが、チェック・アンド・バランス(権力の抑制と均衡。政治の健全な運営をはかるための原理)なしにトランプ氏の拡声器のプラグを抜くことができるということは混乱を引き起こす問題だ。それは、これらのプラットフォームの権力の確認になるだけではなく、デジタル空間における社会の編成のされ方に大きな弱点があることも示している」と述べている。
電話の会話を禁止されるようなもの
「表現の自由」を重視しているジョージ・ワシントン大学法学教授のジョナサン・ターリー氏は、ニューズウィーク誌で、SNS上でのやりとりを電話の会話に例えて、アカウント停止を問題視している。
「電話局が会話を聞き、電話局が誤報や脅しだと判断した会話は許さないと言っているようなもの。私は検閲にひっかかりそうなギリギリのレベルで、オープンで自由なやりとりができるインターネットの方が好ましいと思う」
暴力断固反対の声や言論統制拡大を懸念する声も
ツイッターでは様々な声があがっている。
「表現の自由」を標榜している人々も、今回のツイッターの判断には賛同の声をあげている。
「表現の自由は重要だと思うが、暴力の扇動は禁じられるべきだ」
「トリッキーな問題だ。“表現の自由”にとっては良いことではない。しかし、他にどんなオプションがある? Qアノンは命を破壊しているんだ。トランプがそれを煽っている。ソーシャルメディアの時代、カルトは簡単に幅広く人々にリーチすることができるため、カルトは禁止されなければならない。トランプは彼らを先鋭化している」
アメリカでは、暴力に対して“No Tolerance”=暴力は絶対に容認しないという声が強い。もちろん、いかなる暴力も断固容認されるべきではない。
一方、ツイッターの措置に反対している人々からは「Slippery Slope=滑りやすい坂道」という言葉が多々あがっている。「Slippery Slope=滑りやすい坂道」とは、ある1つの事象をきっかけに、その事象が滑りやすい坂道を転がり落ちるようにどんどん広がって悪化していく現象のことだ。
前述のターリー教授もこう述べている。
「いったん、偽情報の規制が始まったら、主観を伴う規制のスリッパリー・スロープを転がり落ちることになる」
つまり、同氏は今回の措置をきっかけに、今後、ソーシャルメディア企業側の主観による言論統制が幅広く行われる可能性があることを懸念しているのである。
トランプ氏のアカウント停止措置が波紋を呼ぶ中、今、「表現の自由」のあり方が議論されるべき時なのかもしれない。
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