拡大する「黒字リストラ」対象は誰? 「働かないおじさん」以外も安泰じゃない
■ 拡大する「黒字リストラ」
「早期退職者を募ることにしました」
上場企業の部長から、そう連絡があったのは昨年11月のことである。
「ですから、いったんコンサルティングの話はなかったことに。まずは人員整理に励みます。組織改革はそのあとで、粛々と……」
「かしこまりました。定期的に意見交換はしていきましょう」
「そうしていただけると、本当にありがたいです」
部長は心底疲れているようだった。声の張りがない。人員整理の陣頭指揮をとり、区切りがついたら、ご自身も退職するつもりなのだろう。よくある話だ。
好業績でも人員削減(リストラ)に着手する企業が後を絶たない。いわゆる「黒字リストラ」だ。
製薬業界はもちろんのこと、テック企業の台頭により、先行き不透明感が強まる金融機関は、以前から人員削減を進めてきた。
しかし、昨今のリストラは事情が異なる。
たとえばNECは45歳以上の希望退職者を募り、グループで約3000人の削減に踏み切るいっぽう、能力に応じて新入社員でも年収1000万円を支払う制度を導入した。
「今の時代、人員整理という言葉は適当ではないかもしれません」
私が先述の部長に言うと、部長もうなずいた。
「単なる整理ではないですね。新陳代謝、と言いますか」
そうだ。「新陳代謝」である。
徐々に、新しいものが、古いものと入れ替わっていくこと。これを新陳代謝と呼ぶ。
AIの進化で「働かないおじさん」どうなる?で書いたように、テクノロジーの進化によって、時代はまさに「人員の新陳代謝」に向かっているように思えてならない。
■「VUCAの時代」に求められるもの
製薬会社、金融機関、大手電機メーカー以外にも、「黒字リストラ」を打ち出す上場企業が増えている。
しかしリストラ対象は、45歳とか、50歳以上の「働かないおじさん」ばかりかというと、実は違う。
VUCAという言葉をご存知だろうか。
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べて「VUCA」という。現代は、「VUCAの時代」だと呼ばれて久しい。
変動性と不確実性が高いということは、現状を変えずに放置しておくリスクが無視できないほど高まっているということを意味する。
複雑性と曖昧性が高いということは、大きな単位で物事をとらえられない時代となった、ということである。
プロサッカー選手の三浦知良選手が52歳で所属チームと契約を更新したように、今の時代、プロスポーツの世界でも、高年齢化が進んでいる。
年齢が高くても、日々の努力やテクノロジーの恩恵を受けることで、昔のように能力低下を防ぐことができるのだ。
つまり一般企業でも、45歳とか50歳以上を対象に早期退職を募るやり方はもう古くなってきている。なぜならそのこと自体が、「大きな単位」で物事をとらえていることを意味しているからだ。
昔と違い、今のリストラの特徴は、まさにプロスポーツの世界と似ている。
いくら新陳代謝とはいえ、新しければいいというわけではない。特定の「個人」が狙い撃ちされる時代なのだ。
■「怠惰な多忙」に陥るな
年齢だけでリストラ対象になるわけではない。つまり若ければ安泰かというと、そうではないのが、これからの時代のリストラ事情だ。
では、どんな個人がリストラ対象となるのか。
ヒントは、先述したVUCAにある。
まず、現状を変えられない、つまりチャレンジできない人材は若くてもアウトだ。
現状を維持させるためだけのルーティン業務は、当然のことながらAIやロボットの進化によって置換されていく。
それがわかっているのに、その定型的な処理をいつまでたっても忙しそうにやっている人は、「怠惰な多忙」に陥っており、企業の付加価値向上に貢献していない。
いくら毎日忙しそうに働いていても、このような人材は、30代であってもリストラ対象になるかもしれない。
■ スキルより「ウィル」の時代
また、先述したとおり、大きな単位でしか物事をとらえられない人材もNG。会社や組織に依存する、「長い物には巻かれろ的思考」の人も非常にキツイ。
これからは「個人」が組織や企業の壁を乗り越え、流動的にチームを作って、事業を推し進める時代だ。小回りのきくプロジェクトでミッションを果たすスタイルが主流になる。
したがって、上司の使い勝手がいい「依存型人材」より、上司に対してもハッキリとものを言い、主体的に動ける「自立型人材」が求められる。
スキル(技能)など、これだけ高度情報化時代になれば、50歳を過ぎても手に入れられる。現在、重宝されるのはスキル(技能)よりウィル(意識)なのだ。
つまり意識が足りない人、主体性に欠ける人は、若くてもリストラ対象になっていくだろう。
変化が激しく、曖昧な時代なのだから、未来に向かって努力を怠る人を、もう企業は見切りをつける、ということだ。
日本は確実に人口減少社会になっていく。
だから、たとえ上場企業であろうと、人を増やし続けたいと思うことはない。今後は効率的に人員の新陳代謝を推し進めるだろうから、「入れ替えられる人材」にならぬよう、年齢にかかわらず、日ごろからの自己研鑽が重要だ。