AIの進化で「働かないおじさん」どうなる?
■ 仕事の49%がなくなる?
「仕事の49%が、AIに置換される」
野村総研とオックスフォードとの共同研究が発表されたのは、2015年12月のことだ。当時はこの衝撃的なレポートで、我々コンサルティング業界も沸き立った。
労働人口の49%が就いている職業において、10~20年後にはAIに置換することが可能だ、とのことだったが、あれから4年が経ち、実際にはどうなったのか。
どうにもなっていない。現時点では、さほど私たちの労働環境に影響を及ぼしているとは思えない。
当然だろう。レポートには「10~20年後」と書かれてあったし、それに「置換可能」とあるだけで置換されるだろうとは書かれていなかったのだから。
代替可能であったとしても、代替されないことは、世の中たくさんある。
レジをキャッシュレスに対応したほうが、お客様満足、オペレーション効率などの面から明らかにメリットがあると知っていても、導入しない店舗はまだ多い。
「働かないおじさん」もそうだ。
■「働かないおじさん」は代替可能か?
50~60代の管理職で、高給取りなのに、会社への貢献度が低い男性社員のことを「働かないおじさん」と呼ぶそうだ。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタント。現場にいるからわかるが、名称どおりの「働かないおじさん」はすでに絶滅危惧種である。
出勤しても寝てばかりとか、ネットサーフィンばかりして仕事をしない人は、もうさすがにない。
実存するのは「働いているふうなおじさん」だろう。
早朝から出勤し、誰よりも遅くまでオフィスにいて、忙しそうに会議室を渡り歩き、パソコンの画面を眺めてキーボードをたたいているおじさんだ。
客観的に見ると「すごく忙しい」「すごく頑張っている」ふうに見えるが、実際はいなくても何も問題のないおじさんである。
給料に見合った仕事をしていないどころか、いるだけで組織機能が滞るおじさんもいる。
私は現場で、そのようなおじさんを数えきれないほど見てきた。そして彼らを「50G(フィフティ―ジー)」と呼んでいる。「50G」とは、50代という年齢と世代(ジェネレーション)、そして年老いた男性(ジー)を掛け合わせた造語だ。
(もちろん、次世代通信技術の「5G(ファイブジー)」からインスパイされた言葉だということは記しておく)
50Gは、絶滅危惧種の「働かないおじさん」も「働いているふうなおじさん」も、「希望退職に応募したおじさん」も含めている。
つまり、会社の期待に対し、著しく貢献していないおじさんの総称なのだ。
■ 要職に就く50G(フィフティージー)
当然のことながら、給料分だけ働いていない、もしくは働けないおじさん全員を非難していいかというと、そうではない。
たとえ高給取りでも、組織の功労者でもあるわけだから、少しばかり貢献度が低くなっても、多くの経営者は大目に見るものだ。後輩や部下たちもそうだろう。
問題なのは、50Gが組織の要職に就いているケースだ。
「名ばかり管理職」の50Gならともかく、組織内レポートラインの要所に陣取っている50Gだと、非常にキツイ。
次世代通信技術の5Gは「超高速」「超低遅延」などが特徴だが、50Gは真逆で、「超低速」「超高遅延」。行動も、頭の回転も遅い。遅すぎる。
そのくせ、今どきの50代は若いし、元気がある。見た目も発言も、ロートルとか老害とかには当てはまらないから、なおタチが悪い。
たとえば、
「俺はそんな話、聞いてない」
と、駄々もこねないし、
「年寄りの話も聞くもんだ」
などと嫌味も言わない。
それどころか、もっとソフトなトーンで、
「なんか決め手に欠けるんだよね」
とか、
「それでうまくいくとは限らないよね?」
などと言って、
「もう少し考えようか。急いで決めるとロクなことがないからさ」
と、部下からのチャレンジングな提案を跳ね返す。
「俺の知らないところで、勝手に決めんじゃねーよ!」
と高圧的に言ってくれればわかりやすいが、そうじゃないから問題が顕在化しにくいのである。
■ 働かないおじさんは、置換できる
名称どおり「働かないおじさん」なら、AIどころか、誰でも代替可能だ。その人は働かないのだから、働く人と置き換えればいい。
しかし「働いているふうなおじさん」を含め、50Gはどうだろうか。答えは、AIによって、すみやかに置換できるだろう。10~20年後ではない。おそらく今すぐ代替可能だ。
そもそも、50代の男性社員に期待される「マネジメント」とは、経営資源を効果効率的に配分することである。だから、外部環境の変化スピードに沿って、スピーディな決断力が求められる。
「超低速」「超高遅延」では話にならない。
だからAIだ。ディープラーニングといった先端の技術も要らない。古い世代のAIで十分。
導きだされた仮説が確率的にそれほど高くなくても、その分高速にマネジメントサイクルをまわせば、いずれ正解に近付いていく。マネジメントするうえで大事なのは、「精度」よりも「鮮度」だからだ。
実際に、社外からの問合せ対応では、すでに多くの分野でAIが活躍している。過去の問合せデータを解析し、何が模範解答なのかをAIが選別してくれるのだ。活用すればするほどAIは学習し、模範解答の精度もアップしていく。
そこまでAIがしてくれれば、コールセンターのオペレーターは、人間らしい話力で受け答えすることに専念できるだろう。
組織マネジメントも同様のロジックを使えばいい。
蓄積されたデータを解析し、適切なタイミングでAIマネジャーが判断し、「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を効果効率的に配分してくれるのだ。
そのAIマネジャーの「模範解答」に従うかどうかは現場が判断すればいい。いつまでたっても「模範解答らしいもの」すら示さない50Gよりはマシのはずだ。部下たちのストレスも減る。何よりマネジメントサイクルをまわす回数が増え、組織目標を達成する確率は高まるに違いない。
■ 50Gの苦難はつづく
先述したとおり、AIの進化によって、いずれは仕事の49%が置換可能になるかもしれない。しかしすでに、ほとんどのマネジメント業務は、もう置換可能なのだろう。いつでも置き換えられると私は思っている。
ただ、実際に置換されているかというと、そうではない。企業側が躊躇しているのか、それとも気付いていないだけなのか。わからないが、そう遠くない日に、AIマネジャーに組織を任せる企業も出てくるのではないか、と思う。
AIの活用は、まだマイナスの側面も多い。しかし企業から見れば、それを補って余りあるほどの効果が期待できるのだ。とくに50Gの領域には、そうだ。
私も50歳の男性だから、常に感度を高め、新しい技術・発想にキャッチアップしていきたいと思う。そして今後は50Gの生存戦略についてしっかり考えていきたい。