GUCCI社、パロディ商標登録への異議申立に失敗
ARABNEWSという「日本語で読むアラビアのサイト」というサイトに、なぜかアラビアとは全然関係ない「日本ブランドCUGGLが商標権争いでGUCCIに勝利」という記事が出てました。「イタリアの最先端高級ブランドGUCCIは、模倣ブランドCUGGLの商標登録を阻止しようとしたものの、日本の裁判所で敗訴した」と書いてありますが、正確にいうと2022年5月6日に登録されたCUGGLという商標登録6384970号(タイトル画像参照)に対して、イタリアのGUCCI社が異議申立を請求したところ、特許庁が7月21日に請求棄却(登録維持)の決定を行ったというお話です(裁判の話ではありません)。
このCUGGLの登録商標の権利者は、LACOSTE社の異議申立により登録を取り消されたOCOSITEなるLACOSTEのパロディ商標を登録していた人と同じです(関連過去記事「ラコステのパロディ商標登録が異議申立により取消」)。こういう感じの有名ブランドのパロディ商品をいろいろ販売すると共に、商標登録も行っているようです。
さて、今回の異議申立ですが、GUCCI社は、出所混同(商標法4条1項15号)、不正目的出願(同4条1項19号)、公序良俗違反(同4条1項7号)を理由に取消を請求しましたが、特許庁は、当然ながらGUCCIの著名性については認めたものの、GUCCIとCUGGLは文字としてまったく類似しないので、請求は成り立たないとしました。出願人も、わかった上でぎりぎり類似とされない線を狙っているのだと思います。
さて、実は、この商標は実際の商品(Tシャツ)では、登録商標どおりに使用されているわけでではなく、ピンク色のペンキ部分が文字部分に大きくかぶさって、GUCCIだかCUGGLだかわからないような態様になっています。販売サイトに商品が掲載されなくなっている(単に売り切れなのか、販売者が引っ込めたのかは不明です)ので商品画像を引用できません(冒頭の引用記事、あるいは、CUGGLをキーワードにした画像検索で得られるキャッシュやメルカリの出品情報等で見ることができます)が、イメージで示すと以下のような感じです。
おそらく、権利者としては、「ペンキの裏にあるのは当社の登録商標CUGGLであってGUCCIではないですよ」と主張できるようにしたつもりなのでしょう。なお、この点は異議申立においてGUCCI社も主張しているのですが、異議申立はあくまでも登録商標を取消すべきかを判断するための制度(実際にどう使われているかはあまり関係ない)なので、ほとんど影響を与えていません。
GUCCI社は今後何ができるでしょうか?商標法上、異議申立の維持決定には不服申立(訴訟)できませんが、別途、無効審判を請求することは可能です。ただし、無効審判も、登録商標を無効にすべきかを判断するための制度である点は異議申立と同じです。
この問題は商標の登録の可否の問題というよりも、上記のペンキかぶりタイプの商標を使用することがGUCCI社の商標権を侵害するか、あるいは、不正競争防止法違反となるかという点に帰着します。そう考えると、GUCCI社には十分に勝機があるでしょう。なお、タイトル画像の商標を登録できているからといってペンキかぶりタイプ商標を使用できる権利が得られるわけではありません。ちょっとややこしいですが、商標権の独占権は登録商標と同一の商標(この例ではタイトル画像のCUGGLが見えているパターン)のみであって、類似の商標(この例ではCUGGLが隠されているパターン)については他人の使用を禁止できる効力はありますが、他人からの商標権行使に対する防御にはなりません。
追記:ツイッターでご指摘を受けましたが、商標法51条の不正使用取消審判の請求も考えられます。登録商標の類似範囲内で他人の業務と混同を招くような使用を故意で行った場合に登録商標を取り消せる制度です。