話題のThe Guardianによるラグビー日本戦の記事、寄付が最高の「おもてなし」になる理由
「The Guardian」のAndy Bull記者が書いた、日本対スコットランドの記事「Japan show world their defiance and skill in face of typhoon destruction」がソーシャルメディアなどで話題となっています。台風19号による被害で死者・行方不明者が増え続ける中でラグビーをする意味、試合実施に向けて全力を尽くした関係者などに触れながら、あの素晴らしい試合がどのように成立したかを書いています。
記事を読んだ方は、文末に寄付を呼びかけるメッセージが出ているのにお気づきでしょうか?なぜ「The Guardian」は寄付を呼びかけているのでしょうか。
寄付モデルという困難に挑む
イギリスの中道・リベラル系新聞で、1821年の創刊という長い歴史を持つ「The Guardian」。報道には定評がありましたが、紙の購読者が減り、存続が危ぶまれていました。そこで、人員整理や株式の売却といったコストカットを行いながら、インターネットに活路を見出すことにしたのです。
通常、インターネットは広告モデルですが、アクセスを稼ごうとすると、質の低い記事を量産したり、釣りタイトルで煽ったりすることになりがちです。そこで、質の高い報道を読者に支えてもらうという寄付モデルを打ち出してメディア業界の注目を集めました。
多くのメディアが課金(ペイウォール)モデルにシフトする中、寄付モデルは無謀な取り組みだとの指摘もありましたが、困難な取り組みを推進してきました。いま「The Guardian」は、読者による寄付が大きな支えになっています。
3匹の子豚とオープンジャーナリズム
「The Guardian」はビジネスモデルを変えるだけでなく、ソーシャルメディア時代の新たなジャーナリズムのあり方にも挑戦してきました。以下の動画は2012年に公開されたキャンペーン動画です。
題材は、誰もが知っている「3匹の子豚」。我々が知っている物語は、家を襲った狼を子豚の兄弟が協力してやっつけるというものですが、なぜかこの動画では子豚たちは警察に手荒く逮捕されてしまいます。「The Guardian」の記者たちは、ソーシャルメディアのユーザーたちと協力しながら、真相を突き止めていくのです。
このような調査報道のやり方を「オープンジャーナリズム」と呼び、様々な取り組みを進めていることを、在英ジャーナリストの小林恭子さんが記事で紹介しています。
チャレンジを称える寄付
Andy Bull記者は、単にラグビーの試合を記事にするだけでなく、社会的な背景にも迫っています。記事において日本の「おもてなし」という言葉は翻訳が難しいが、ゲストを喜ばせるために最大の力を尽くすことであると理解したと記しています。これは、試合実施に向けて全力を尽くした関係者だけでなく、試合会場に詰めかけたファン、そして最高のパフォーマンスで各国と対峙する日本チームの選手たちにも向けられている気がしたのです。
アイルランド戦後に、田村優選手は「誰も僕らが勝つとは思っていなかった。勝つと信じていたのは僕らだけ」とコメントしました。ラグビー日本代表は世界に挑むチャレンジャーです。そして「The Guardian」も、ビジネスモデルでも、ジャーナリズムでも、困難に挑むメディア業界のチャレンジャーです。
ただ単に記事をシェアして消費してしまうような読み方では、良質な記事を生むメディアは成り立ちません。Andy Bull記者が日本の社会背景を理解しようとしてくれたように、記事に表示される寄付のメッセージの背景を理解すれば、その意味が変わってくるでしょう。寄付は、Andy Bull記者への応援に加え、「The Guardian」のチャレンジを称えるものでもあるのです。