成熟産業でも「伸びる」、関市の取組みから学ぶ活性化のポイント
ものづくりの生産拠点が海外に流出している…といったニュースはだれもが目にしたことがあるのではないかと思います。人件費などをはじめ、生産コストを抑えることができるといわれ、地域では産業の空洞化が課題になっています。
ここ数日で話題になったのは、岐阜県関市の話題です。あずきを使ったお菓子などで著名な井村屋とのコラボレーション。アイス・あずきバーの硬さを、「折れず、曲がらず、よく切れる」関の刃物と見立てて作った日本刀アイス「あずきバー」が新登場、テレビや新聞、ネットニュースなどでも話題となっています。週末7・8日と開催される「関・刃物まつり」で展示・披露されます。(非売品)
この関市も日本一の「刃物のまち」として知られているものの、例外ではありません。鎌倉時代に刀鍛冶が全国から移り住んだのが、その歴史の始まりといわれています。とはいえ、総務省統計局の調査によると、最盛期の昭和60年の刃物製品の出荷額は533億円に対し、平成23年は368億円と約3割も減少。事業所数の減少は出荷額以上に著しく、818から313と6割近く減っています。(6割に減少、ではなく、6割減なのです)
とはいっても、もちろん手をこまねいているばかりではなく、知恵を使って「あの手」「この手」で売上アップに力をいれている中小企業もいます。今回はそうした取組みを取り上げ、活性化のヒントを探ってみようと思います。
▼「はさみ」も、全国各地のお城や資料館で販売される名物に
創業70年を超える同社。はさみやペーパーナイフなどを製造する会社です。安価な外国産商品の輸入が増加し、当初は「安かろう、悪かろう」といわれていた外国産商品のレベルも高くなり競争が激化。今では、100円均一ショップなどでもハサミが販売されるなど、価格競争も熾烈を極めています。
そんな中で、新たに開発し市場投入をしたのが「日本刀はさみ」(オープン価格)
歴史や戦国武将好きをターゲットとしてイメージし、またインバウンドなど外国人観光客をターゲットとしたこの新商品は、広く土産品店などで販売されるようになりました。「おみやげグランプリ2016 グランプリ」及び「観光庁長官賞」を受賞し、いまでは全国的な注目を集めるまでになっています。
さらに、これにとどまらず、アニメから女性の間でブームになった刀剣女子に着目。新たに、日本刀はさみの名刀コラボモデルを展開。土方歳三資料館など全国で8モデル以上がすでに誕生し、これら日本刀はさみシリーズは販売から2年間で5万本を超える大ヒット。
またはさみだけではなく、名刀に着目したペーパーナイフのクラウドファンディングでは1617万円の支援を集めています。
ニッケン刃物
▼彫刻刀の技術を活かし、利用シーンの提案でアメリカでもヒット
彫刻刀のNo.1メーカーである義春刃物。彫刻刀、といえば小学校の図画工作で一生懸命木版画などで使った、アレです。学童用彫刻刀No.1、ということは裏を返せば、少子高齢化で児童数の減少をもろに受ける存在、ともいえるわけです。
そんななかで同社が、彫刻刀を製造する技術をいかしてあらたに開発した商品が、ずばり「肉の筋切り器」です。単に肉の筋切り器…と言ってもピンとこない人もいる…ということで、国内向けには「とんかつ専用スジ切り器 niXaX(ニクサス)」として、市場投入。
さらに、国内だけではなく海外のクラウドファンディングkickstarterで肉の筋切り器「ニクサス」をリリース。海外では、とんかつではなく、ズバリステーキ専用の筋切り器、として販促展開を行い、爆発的な口コミを呼びます。同社の技術をいかした商品は、海外の販路拡大を実現。そのチャレンジの様子はNHKの全国ニュースでも紹介されました。
義春刃物
http://yoshiharu-h.xsrv.jp/wordpress/
▼関市・包丁大使の任命は人気芸人さん、新たなターゲット層へ発信
こうした中小企業の取組とともに、自治体もお金をかけず知恵を使って取組みを展開しています。関市は地場産業の刃物を全国に知ってもらいたいと、全国区の番組で料理の腕をふるっている料理芸人のウル得マン(日本テレビ系「得する人損する人」)こと「いけや賢二」さんを包丁大使に任命。
料理評論家とは異なり、芸人という立場でより茶の間に身近な存在であることから、関市の刃物をこどもから大人まで広く親しんでもらいたいという願いを込められたもの。
実際に就任式ののちには、抽選で選ばれた子連れの親子を対象に料理教室を開催。さらにその模様は、NHK、日本テレビ、ぎふチャン、テレビ静岡、毎日新聞、岐阜新聞、中日新聞などが当日の様子を取材し、広く発信されました。来週10月7日には、「関・刃物まつり」にて、さっそく関包丁大使となったいけや賢二さんが来訪し、盛り上げに一役買うとのことです。
尾関健治市長からは「いけやさんは包丁と縁が深い。料理の楽しさを伝えて、新しい顧客を開拓してほしい。そして一緒にPRしていきたい。」と期待を込めてコメントを寄せていただきました。
▼共通するのはお金をかけずに「知恵」を出すこと
これらの取組に共通しているのは、「お金をかけず、知恵を出し」流れを変えていることです。
1)自社の持つ強み・真のセールスポイントを整理し、それを活かした展開となっています。そして、2)具体的にターゲットを絞ったり利用するシーンを提案することで、エンドユーザーに「あ、これ欲しい」という気付きを生み出しています。更には3)より多くのひとに知ってもらうための情報発信に、お金をかけずに取り組んでいること。
たとえば「日本刀はさみ」では、刀のような鋭利な切れ味を活かし、そして歴史や戦国武将好きにターゲットを定めたこと。そして、実際にはお土産物屋さんや歴史博物館などの売店でお土産物として販売されるシーンを具体的に想定した商品開発が、秀逸です。
肉の筋切り器「ニクサス」は、よく見てみると筋切り器の刃物は、まさに彫刻刀。これまで培ってきた技術を要に据えつつ、新たな用途提案を行ったのです。そして、単に「肉の筋切り器」としてでなく、日本国内であればとんかつ専用、アメリカではステーキ専用と用途を提案し、訴求力を持たせています。もちろん、実際は、それ以外の料理にも使用できますが、シーンを絞ることで、ユーザーによりわかりやすく伝えることがデキるのです。
そして、いずれにも共通するのは、お金をかけずに情報発信を行っていることです。SNSやWEBを活用した情報発信に加えて、ニクサスではクラウドファンディングも情報発信の手法として機能しました。また、いずれの事例も広くメディアに取り上げられ、ニュースとして広がっていったことも見逃せません。
関のまちに生まれているこうした革新の数々も、実は関市ビジネスサポートセンター「Seki-Biz」(セキビズ)が中心にサポートしたもの。また、関包丁大使は、富士市産業支援センターf-Bizとの連携から生まれたもの。
お金をかけずに知恵を出し、流れを変えていくこうした取組みを支える存在が、いままさに地域に求められています。
秋元 祥治