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イベントはまちづくりの害悪か?美濃加茂市の音楽フェス「ワンパークリバーフェス」から考える

秋元祥治やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ
ワンパークリバーフェスの公式サイト

岐阜県美濃加茂市で10月19、20日に開催が迫る野外ライブイベント「ワンパークリバーフェス」は、今年初開催されます。このプロジェクトのリーダーは31歳の若尾光将さん。若尾さんは美濃加茂市で生まれ育ち、家業である製菓業の後継者でもあります。地元を離れることができないからこそ、大好きな町をより良くしたいという強い思いから、この活動に取り組んでいます。

「美濃加茂市を、誇りを持って語れる町にしたい」という若尾さんの思いから、街が大きく動き出しているこの取り組み、「ワンパークリバーフェス」を通して、まちづくりにおけるイベントの意義について考えます。

ワンパークリバーフェスを立ち上げた若尾さん
ワンパークリバーフェスを立ち上げた若尾さん

フェスを始めた理由

若尾さんは友人たちと「美濃加茂市に何か意味のあるものができないか?」と話し合いを始めたことが、このフェスのきっかけだと語ります。自分たちでまちを元気にするために何ができるのか、そんな問いの中で福井県で成功を収めているフェスの話を耳にしました。福井で地域と人々を結びつけていたフェスのようなイベントを美濃加茂でも開催すれば、町の魅力を発信し、住民が誇りに思えるものが作れるのではないかというアイデアが、このフェスの原点です。

その後、若尾さんは友人を介して福井で「ワンパークフェス」を立ち上げた岩井宏太さんと出会い、意気投合。岩井さんが偶然、美濃加茂市の隣町・八百津町の出身であったこともあり、協力の話はスムーズに進展しました。

特に若尾さんが危機感を抱いているのは、美濃加茂市の知名度が低いことです。「東京に出て、どこから来たの?と聞かれても、美濃加茂を堂々と紹介できるものがなかった」という体験が、彼の原動力の一つです。だからこそ、「自分たちの町には誇れるものがあるんだ」と若い世代が胸を張って言えるようにしたい。そのために、まずはフェスを通じて美濃加茂の名を広めることが、このプロジェクトの中心にあります。

フェスを通じて地域を変える

若尾さんは、フェスを訪れる人々が美濃加茂だけでなく下呂温泉や高山といった周辺の観光地にも足を運ぶことで、岐阜県全体の観光振興に繋がることを期待しています。「美濃加茂市は、岐阜県全体のちょうど真ん中に位置しています。美濃加茂をきっかけに、岐阜県各地に人の流れを作り出したい。フェスは1日、2日かもしれない。でもその影響は長く続く」と彼は語ります。フェスを毎年の恒例イベントにすることで、地域全体に持続的な発展の基盤を築くことが彼の目標です。

すでにフェスの効果は地元の若者の間で感じられています。若尾さんが街中で偶然見かけた高校生たちが、地元出身のメジャーアーティストimaseがフェスに出演することを知り、「imaseが来るって、すごいじゃないか!」と友達に自慢している場面がありました。この高校生は、美濃加茂出身であることに誇りを感じ、フェスのチラシを友人に見せながら興奮している様子だったといいます。こうした瞬間こそ、このイベントを作り上げてきた意義を感じる瞬間だと、若尾さんは語ります。

若尾さんによれば、こうした若者たちが「自分の町には誇れるものがある」と感じることが、まさにフェスの意義そのもの。これはすでに地域のシティプライドの形成に寄与していると言えるでしょう。若者が町を誇りに思い、そのことを他人に伝えたくなることは、地域活性化において非常に重要なステップです。

ソーシャルキャピタルを築く

しかし、地域おこしイベントには常に批判がつきものです。1つは「単発の打ち上げ花火で終わってしまうのではないか」という懸念。もう1つは「税金投入による運営は是非が問われる」という点です。

1点目の「単発で終わる」という批判について、私はそれでもイベントの意義は深いと考えます。今回のフェスは、若尾さんを中心に有志の呼びかけで実行委員会が作られ、多くの人々が参加しています。この実行委員の多くは、若尾さんの「フェスやろうぜ!」というSNSでの発信をきっかけに集まり、ネットワークが生まれたものです。つまり、イベントを通じて地域に新たなつながりが生まれ、信頼関係が築かれているのです。

これは、ハーバード大学ケネディースクール教授のロバート・パットナム氏が提唱した「ソーシャルキャピタル」の概念に通じます。ソーシャルキャピタルとは、地域社会における信頼関係やつながりを指し、地域の経済発展や社会的な協力関係を促進する力です。ソーシャルキャピタルの豊かな地域は、経済発展などにつながるとロバート・パットナムは提起しました。若尾さんのフェスは、まさにこのソーシャルキャピタルを生み出す重要な場となっています。実行委員たちが集まり、信頼関係が築かれ、ネットワークが強化される。若尾さんは、「このフェスをきっかけに地域の人々が繋がり、新しいプロジェクトが次々と生まれていく未来を描いている」と語ります。まさに、フェスは地域における新たな挑戦の「土壌」となっているのです。

フェスが地域に与える意味

このワンパークリバーフェスは有料で開催され、自治体の公費負担にほぼ依存しない運営を行う予定です。協力者である岩井さんも、地域イベントは有料化すべきだと強調しています。「地域イベントはできるものは、有料にしていくべきだ。受け入れキャパの限られる小規模自治体では、単に集客数に依存する広告協賛モデルは難しい。ターゲットを絞った有料イベントであれば、協賛も得られやすくなる。今も地域イベントのほとんどが参加無料でやっていたり、やろうとする。効果もなく、新たなものも続かない。税金に依存するか、スタッフが手弁当のみならず赤字を発起人たちが埋め合うことになりかねない。だからこそ、ワンパークリバーフェスを通して高単価高付加価値の感覚を地域につかんでもらうきっかけになればと考えています。」

ワンパークフェス(福井)を立ち上げた岩井さん
ワンパークフェス(福井)を立ち上げた岩井さん

地域の中で信頼と協力のネットワークを構築し、未来のまちづくりの基盤を作ること。このフェスを通じて、美濃加茂市を「誇れる場所」にしようという若尾さんの思いが、今週末ついに形となります。彼の夢は今、地域全体に広がりつつあります。

▼ワンパークリバーフェス

ONE PARK RIVERFES2024 in MINOKAMO』

https://oneparkriverfes.jp

■日程:

2024年10月19日(土)、20日(日)10:00~20:00

■会場:

リバーポートパーク美濃加茂内 特設会場

岐阜県美濃加茂市御門町2丁目6-6

やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ

01年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。現在理事。13年オカビズセンター長に就任。開設9年で約3300社・2万2千件超の来訪相談が押し寄せ、相談は1ヶ月待ちに。お金をかけずに売上がアップすると評判で「行列のできる中小企業相談所」と呼ばれている。2022年より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授に就任。内閣府・女性のチャレンジ支援賞、ものづくり日本大賞優秀賞、ニッポン新事業創出大賞・支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」等、公職も。著作「20代に伝えたい50のこと」、KBS京都「KyobizX」・ZIP-FM「ハイモニ」コーナーレギュラーも。

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