全国学テで「6割が0点」から考えるべきは、〝英語嫌い〟の子どもを増やさないことである
文科省が実施している「全国学力・学習状況調査等」は一般的に「全国学力テスト」と呼ばれてきたが、「テスト」という言葉が「競争を煽る」ということから「調査」と呼ぶようにとの意見があって、「全国学力調査」という呼び方を使うメディアも増えている。しかし、「テスト」というほうが、その狙いにピッタリのような気がするので、本記事では全国学力テストと呼ぶことにしたい。
|6割の生徒が1問も正解できない
文科省が7月31日に公表した全国学力テストの結果で、英語の「話す力」を測定する試験で、出題された5問のうち1問も正解できなかった、つまり「0点」の生徒が6割を超えていたことが話題になっている。
話す力の試験は、初めてタブレット端末などを使ったオンライン方式で行われている。ネットワーク環境の問題で、すべての学校が同じ日に実施することは難しいと判断されたため、全国学力テスト実施日に試験を受けたのは約500校の約4万2000人だった。今回公表された結果は、この500校の結果に統計的な補正をほどこして推定したものだという。
1問も答えることができなかった「0点」の生徒は全体の63.1%で、正答が1問でしかなかった生徒(20.9%)を加えると8割に達する。ちなみに、5問すべてに正答できた生徒は0.4%にすぎなかった。
いわゆる「惨憺たる結果」、でしかないようにおもえる。しかし、そうなのだろうか。
2021年4月に中学校で全面実施となった学習指導要領では、英語でのコミュニケーション能力を育むことを大きな目標に掲げている。当然、そこでは「話す力」も重視されている。
コミュニケーションというからには、「話す力」は欠かせない要素でもある。ただ、従来の日本の学校における英語教育では、重視されてこなかったのも事実だ。
従来の英語教育で育ってきた教員の多くも、それは得意な分野ではない。それでも学習指導要領が新しくなって、学校現場では試行錯誤の取り組みが続けられている。
その成果を問う、のが今回の全国学力テストである。「そんな早急に答をだせといわれても困る」というのが英語教員の率直な感想ではないだろうか。
しかも、初めてのオンラインである。生徒も不慣れだし、オンライン環境が整っているともおもえない。一斉テストができなかったのも、環境が整っていなかったからにほかならない。
そもそも、こういうかたちでテストすることが、ほんとうに生徒の話す力を測ることになっているのだろうか。「0点が6割」という結果を受けて、ほんとうにコミュニケーションの力を測る方法だったのかを問い直すのが先決ではないだろうか。
|懸念は、テストのための学習になること
文科省は、今回の出題の難易度が高かったと認める一方で、「出題内容は学習指導要領に沿ったものであり、話す力の育成に課題があることも事実」(『教育新聞』7月31日付)と強調しているという。「学校現場の教え方に問題がある」といっているようなものだ。
これを受けて学校現場では、ますます話す力の育成に熱心にならざるをえないだろう。それが、ほんとうにコミュニケーションのための話す力ならいいのだが、いかんせん、日本的な傾向として「テスト対策としての話す力」になりかねない。テスト対策のための授業は、「ほんとうの英語」につながらなくなる可能性も大きい。
しかも学習指導要領が新しくなって、「やらされること」は増えるばかりになっている。そこに「もっと話す力をやれ」というのでは、ますます、やらされることが増えることになる。
それは、子どもたちにとって「楽しいこと」ではないはずだ。教員もあくせくするだけので、なおさら楽しい授業にはならない。
ただテストで点数をとるための強制的な学習では、英語嫌いになるだけではないだろうか。それは、これまでの「テストのための英語学習」によって証明されていることでもある。コミュニケーションのための英語を話す力といいながら、英語嫌いを増やしてしまうのでは本末転倒でしかない。
「0点が6割」から始めることは、ただ学校現場でテストで点数をとる教え方を強化するのではなく、英語教育そのものを考えなおすことではないだろうか。いまのような教え方で、ほんとうにコミュニケーションの役に立つ英語を身につけることができるのか。テストでプレッシャーをかけるやり方で、ほんとうに英語が身につくようになるのか。これ以上、英語嫌いの子どもを増やしてはならない。