【氷山の一角】国が見つけたブラック企業
厚生労働省は2月23日、平成27年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果を公表しました。
報道もされています。
・24%「過労死ライン」超…厚労省調査(毎日新聞)
・違法残業2311事業所 厚労省発表、協定なく月200時間超も(日本経済新聞)
などです。
さて、この重点監督ですが、2013年は若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督としてなされていました。
ブラック企業対策としての位置づけがこの時からなされているのですね。
そして、この重点監督は、単に統計的な数値を発表するだけでなく、具体的な違法行為をした企業の事例を公表しています。
というわけで、3年前まで遡って、どういう企業があったか、改めてその一部を見てみましょう。
2013年の重点監督
この年、まず目をひくブラック企業はこれです。
社員の7 割に及ぶ係長職以上の者を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支払わない事例
この会社では、社員の7割を管理職だとしているとのことです。
しかし、7割も管理職がいるなんて、一体誰を管理してるんだ?という疑問が湧いてきます。
こうしたやり方はいわゆる名ばかり管理職問題で大きく報じられていたのですが、今もなお根強く残っています。
言うまでもないですが、労働基準法の管理監督者と、企業内で「管理職」として処遇されることは、イコールで結ばれるわけではありません。
労働基準法上で管理監督者となるためには、
●経営者と一体的な立場で仕事をしている
●出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
●その地位にふさわしい待遇がなされている
が必要とされています(東京労働局のパンフレットより)。
この年の重点監督ではこの会社では以下のとおり管理監督者とは認められなかったとしています。
会社は、正社員のうち7 割程度を占める係長職以上の労働者(半数程度が20 歳代)を、労働基準法第41 条第2 号に基づく管理監督者として取り扱っていたが、監督署が係長職以上の労働者の職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金の処遇等を確認したところ、労働基準法第41 条第2 号に定める管理監督者とは認められなかったこと
出典:厚生労働省
経営者としては工夫したのかもしれませんが、こういうやり方は一発でアウトとなります。
他にもこの年は
・営業成績等により、基本給を減額していた事例
・賃金が、約1 年にわたる長期間支払われていなかったことについて指導したが、是正されない事例
など、ブラック企業が目白押しとなっています。
2014年の重点監督
2014年の重点監督では、次の企業のブラックぶりは群を抜いていると思いました。
長時間労働などを原因とする複数の労災請求(脳・心臓疾患を発症、精神障害による自殺)が、ほぼ同時期になされた後も、当該事業場において、被災労働者以外の労働者についても月100時間を超える違法な時間外労働を行わせていたもの
出典:厚生労働省
こうなると殺人罪に問えないものか、本気で考えてしまいます。
一体、労働者を何だと思っているのでしょうか。
この企業では、事業場の20代の労働者の3年以内の離職率は4割を超えていたといいます。
やはり離職率は、ブラック企業を判別する一つの目安にはなります。
他にもこの年は、こういうのもありました。
会社は、労働時間を社内システムにより管理しており、実績を確認したところ、月当たりの時間外労働は36協定の上限である約80時間にほぼ統一されていた。不自然に感じた労働基準監督官がこの点を追求したところ、会社は改ざんを認め、別途作成している作業日報の存在を認めた。これにより、上限時間を大幅に上回る労働時間の実績が確認され、最も長い者で月約280時間の時間外労働が行われていたことが判明した。
出典:同前
労働基準監督官、グッジョブ!(b^ー゚)
改ざん系は多いですね。
なお、この企業は建設業とのことです。
2015年の重点監督
さて、今年発表された2015年はどうでしょうか。
今年の特徴はブラックバイトを意識した事例が公表されているところです。
事業場の半数以上の労働者に月100時間を超える違法な長時間労働を行わせるとともに、割増賃金を適正に支払っていなかったほか、特に、学生アルバイトについては、担当する授業の時間帯のみを労働時間として取り扱い、割増賃金を支払っていなかったもの
出典:厚生労働省
学習塾の事例です。
後半部分はいわゆるコマ給問題ですね。
最も長い労働者で月200時間を超える違法な時間外労働を行わせるとともに、正社員には全く割増賃金を支払わず、また、アルバイトについては、毎月一律に10時間差し引いた時間を労働時間として取り扱い、割増賃金を適正に支払っていなかったもの
出典:同前
これはコンビニの事例です。
毎月一律10時間分を差し引くという意味がわかりません。
こんなストレートに労働時間を削って賃金をカットするというのも珍しいですが、ブラックバイトと呼ぶにふさわしい所業ですね。
労働条件を書面で明示せずに学生アルバイトを使用し、時間外・休日労働を行わせてはならないにもかかわらず、月約100時間の違法な時間外労働や休日労働を行わせ、割増賃金を適正に支払っていなかったもの
出典:同前
接客娯楽業の事例です。
この会社は、繁忙期である夏季に多くの学生アルバイト(主に高校生)を採用しているようなのですが、労働契約の締結に当たり、労働条件を書面で明示していなかったとのことです。
書面で明示することは労基法上の使用者の義務です。
さらに、この会社は、高校生アルバイトに対して、時間外・休日労働を行わせてはならないにもかかわらず、これを行わせていたということです。
それだけでなく、その働かせた時間についても、月約100時間の時間外労働を行わせていたというのですから驚きですね。
その上、時間外・休日労働に対する割増賃金を割り増さずに支払っていたといいます。これは高校生の知識のなさにつけこんだやり方です。
学生アルバイトをいいように使っている例となります。
労働基準監督官の人数が少ない!
このような公表事例を毎年見ると、荒れ放題の労働現場にどのように法を通わせるのか、悩ましくもあります。
その意味でこうした厚労省の取り組みは非常に大事です。
しかし、あくまでもこの網にかかる企業は氷山の一角だといえます。
我が国に労働基準監督官は約3200名いると言われています。
他方で日本の事業所数は、平成26年7月1日現在592万7000事業所あります。
労働者は成27年12月時点で5694万人います。
単純計算で労働基準監督官一人当たり1852事業所、労働者17793人ということになります。
こうした現状を見ると、少なくとも、労働基準監督官の人数を増やすことは、ブラック企業対策として急務であるといえると思います。
重点監督と同時に、労働基準監督官を大幅に増やす施策が求められると思います。