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ミシュラン店主の挑戦! 一流ラーメン職人が“我流”横浜家系ラーメンにこだわる理由(前編)

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
「こいけのいえけい」の「豚骨醤油ラーメン(並盛)」

横浜家系ラーメンがここに来てまた面白い。

1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を総本山とし、その直系店や弟子、孫弟子の出店で広がってきたが、近年は大手外食系企業によって運営される「資本系」の家系ラーメン店が増殖し、全国的に一大ブームとなった。さらには、この数年で一流のラーメン職人が新ブランドとして“我流”の家系ラーメン店をオープンする流れが広がってきている。

今回は、前後編に分けてその注目店を詳しく紹介していきたい。

2022年10月6日、JR巣鴨駅から徒歩数分のところに一軒の横浜家系ラーメン店が オープンした。その名も「こいけのいえけい」(グランドオープンは10月10日)。

こいけのいえけい
こいけのいえけい

「ミシュランガイド東京」に7年連続掲載されている上北沢の名店「らぁめん 小池」の手掛ける横浜家系ラーメン専門店である。

ここは店主の水原裕満さんの手掛ける6店舗目のお店で、水原店主は「らぁめん 小池」の他にも「中華蕎麦 にし乃」(本郷三丁目)、「キング製麺」(王子)と3店舗で「ミシュランガイド東京」のビブグルマンを獲得している。まさにラーメン界のトップを牽引する若き天才だ。

ミシュラン3店舗の天才が横浜家系ラーメン店をオープン

その水原店主が新規店のラーメンとして選んだのが“横浜家系ラーメン”だったのだ。なぜここにきて横浜家系ラーメンを選んだのか?

「これまでも都心でお店を展開してきましたが、実は山手線沿線の駅にはお店がなかったんです。その中で巣鴨の物件を見つけたのですが、駅から遠く不便な場所にあったのが課題でした。

悩む中で、目黒にある『Ramen Break Beats』(東急東横線・祐天寺駅から徒歩13分)を食べに行った時に、ここまで立地が悪いのにお客を呼ぶことができるんだと勇気をもらえたんです。

そこで、遠くても人を呼べるラーメンは何かを考え、パッと頭に浮かんだのが横浜家系ラーメンだったんです」(水原さん)

実は、この家系ラーメンは「らぁめん 小池」で2018年から数か月に1回出している限定メニューだった。

「らぁめん 小池」の看板メニューは濃厚煮干しラーメンで、さらに常連さんに楽しんでもらえる濃厚なメニューをと考えると家系ラーメンが思いついたという。4年の時を経てブラッシュアップしたメニューが、今回の「こいけのいえけい」のラーメンとなった。

店主の水原裕満さん
店主の水原裕満さん

水原店主は横浜出身で、もともと横浜家系ラーメンがソウルフードだった。

大好きなラーメンだったが、お店の厨房を見ていると、その作り方の過酷さに実際に自分で作るには難しいだろうと思っていた。非常にブレが出やすいスープで、そこの厳しさも感じていたという。

「こいけのいえけい」の家系ラーメンは その課題を水原さんなりに模索し、ブレにくい作り方を編み出して作り上げたという。

家系ラーメンには見えない綺麗なビジュアルへのこだわり

その美しいビジュアルは一見家系ラーメンには見えない
その美しいビジュアルは一見家系ラーメンには見えない

ラーメンのビジュアルを見ると、一見家系ラーメンには見えない。むしろ水原さんの展開している他のお店との共通点を感じるようなビジュアルである。

桜の花びらのように飾られた低温調理のチャーシューや、本来の家系ラーメンにはトッピングされていない刻みタマネギなどはまさに「小池」のビジュアル。盛り付けの美しさには目を見張るところだ。

「ラーメンがどんな種類であっても『小池』のカラーを守ろうと思っています。家系のビジュアルに寄せるよりも、見たら『小池っぽいよね』と分かる方が個性なのかなと思います。

家系は熱狂的なファンが多いので、このラーメンが家系なのかどうかという話は出ると思いますが、食べたお客さんが美味しいと思ってくれればそれで良いんです。炎上系家系になる可能性はありますが、本流の戦いからは下りている感覚で作っているので」(水原さん)

肝心の味だが、豚骨の厚みと鶏の旨味をしっかりと感じる本格的な家系の味わい。

家系ラーメンと「小池」のハイブリッドともいうべき逸品だ。

家系を意識した平打ちの短い麺を自家製麺で再現
家系を意識した平打ちの短い麺を自家製麺で再現

水原さん曰く、このラーメンは寿司でいう「カリフォルニアロール」のような存在だという。あまり周りに引っ張られすぎないように、自分なりのズラシを入れながら個性を出している。

このラーメンがもし認められれば、“我流”の家系ラーメンのさらなる発展にも繋がっていくのではないかと思う。

こいけのいえけい

東京都文京区千石4-25-6 夏野マンション102

※写真はすべて筆者による撮影

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ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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