近年ラーメン業界を牽引する横浜家系ラーメン(通称、家系ラーメン)。

濃厚な豚骨スープに醤油を強めに利かせ、太めの平打ち麺を合わせる。トッピングはチャーシュー、ほうれん草、ネギ、ノリ3枚がお決まりだ。

そしてもう一つ、家系ラーメンになくてはならないのが鶏から抽出される油、「鶏油」である。

鶏油が濃厚なスープの上に浮かび、強い豚骨の味わいの中に鶏の香りと旨味が広がる。むしろこの「鶏油」の存在こそが家系ラーメンの魂だという人もいる。

今、この鶏油が入荷できなくなり家系ラーメン店が厳しい状況に置かれているという。

鶏油不足で頭を悩ませるラーメン店主たち

Twitter上でも店主たちの苦悩の書き込みが目立っている。

鶏油不足はしばらく続きそうです。本日は丸鶏を仕入れ鶏油をとっています。この状態が続く間は原価を無視してやります。家系ラーメンにとって鶏油は欠かせないもの。企業努力で何とか乗り切りたいと思っています。

1日でも早く元通りになることを望みます。(「王道家 柏店」Twitter)

現在業界全体で深刻な鶏油不足が発生していて、当店でも業者さんが必死にかき集めて卸して頂いていたのですが、とうとうストップしました。

本日分の納品も難しいとのことで完全にラーメンを作ることができなくなりました。鶏油のないラーメンをお出しは出来ませんので休業します。残念です。ごめんなさい。(「どんとこい家」Twitter)

長年供給が保たれてきたと思われる鶏油がなぜここに来て手に入らなくなったのか。暖簾分け店を 90 店舗展開する「武蔵家」の総大将・三浦慶太氏はこう分析する。

「鶏油を作る人がいなくなってきているのだと思います。

職人の高齢化に加え、外国人労働者がコロナで帰国してしまい、続かなくなっているのが現状です」(三浦さん)

中野区野方で家系ラーメン店「輝道家」を営む店主・菊地輝さんも同様の分析をしている。

「鶏油は、鶏職人さんにとってもともと割に合わない仕事なのです。肉ほど高くは売れないので、需要はあっても、作業量に対して費用が合わない。

それでも職人さんが頑張ってきましたが、このたびコロナの関係でたくさんの人が辞めてしまい、働き手が極端に少なくなったようです」(菊地さん)

鶏油不足がもたらす影響は?

三浦慶太氏
三浦慶太氏

肉ごと売れる丸鶏に比べ、鶏油はそこまで高値で売ることはできない。手間がかかる割に利益率が低いので、働き手がいない中、やめざるを得ない状況のようだ。

鶏油なしには家系ラーメンは成り立たない。この後はどうなってしまうのか?

「今は在庫しているもの以外は全くないようです。在庫がない間は、いろいろな油を工夫しながら作るしかないと思いますね」(三浦さん)

「こういったことは以前にも2度ありましたが、ここまで酷い状況は初めてです。

このままですと、鶏油は極端に値上がりして、無理くり確保しなければならなくなりそうですね」(菊地さん)

家系ラーメンでは、自分の好みに応じて味を調整できる(例えば、麺のかたさや味の濃さを選べる)“カスタマイズ”がおなじみだが、こうした状況を受けおなじみの“カスタマイズ”においても「油多め」を中止している店も多いようだ。

家系ラーメン店は、ライス無料など、安価で充実したサービスを提供することも少なくないだけに、鶏油の不足とそれに伴う価格高騰が全体に与える打撃も大きいことが予想される。ラーメン一杯の価格が上がるという事態も起こり得そうだ。

※写真はすべて筆者による撮影