横浜家系ラーメンが大ブームとなって久しい。

1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を総本山とし、その直系店や弟子、孫弟子の出店で広がってきたが、近年は大手外食系企業によって運営される「資本系」の家系ラーメン店が増殖し、全国的に一大ブームとなっている。

このブームの中で、90店舗弱の暖簾分け店を持つ一大勢力がある。「武蔵家」だ。

東京メトロ丸ノ内線・新中野駅から徒歩1分のところにある、1997年創業の「武蔵家 中野本店」を本店とし、各地に支店、暖簾分け店が広がっている。吉祥寺にも別の「武蔵家」があることから、「新中野武蔵家」と呼ばれている。

最近増えている家系ラーメン店の多くは、「資本系」に代表されるように店舗でスープを炊かず、セントラルキッチンから配送して作る形態になっている中、「武蔵家」は各店でスープを炊いていて、全店舗でそれぞれの味を楽しめることでも有名だ。

「手作りだからこそ出てくる店ごとの“幅”が楽しい」と言うのは「武蔵家」総大将の三浦慶太氏。家系ラーメンファンの中でも「武蔵家」を中心に食べ回るお客さんも増えてきたという。

成増に2店舗展開

そこで三浦さんは板橋区成増にある「武蔵家 成増店」から20mしか離れていない場所にもう一軒の「武蔵家」を作った。「武蔵家 HANARE」である。

お店は2店舗とも「なりますスキップ村商店街」の中にある
お店は2店舗とも「なりますスキップ村商店街」の中にある

主要駅の周辺など特定のエリアに同じグループ・ブランド・看板の複数のお店を集中して出す「ドミナント戦略」と呼ばれるチェーンストアの出店手法がある。有名なところでは「つじ田」が御茶ノ水・飯田橋で、「すごい煮干ラーメン 凪」が新宿で、「ムタヒロ」が国分寺でドミナント戦略的に複数店舗の展開をしている。

「武蔵家」の成増での展開は、一見ドミナント戦略に見える。

「同エリアに2店舗目を作ったので、周りからはドミナント戦略と言われていますが、そんな大それたものではなく、『武蔵家』は全店違う味だというのを分かりやすく証明したかったんです。近くにあれば食べ比べができるかなと思いまして」(三浦さん)

「武蔵家 成増店」から20mのところに「HANARE」がある(写真の矢印の場所)
「武蔵家 成増店」から20mのところに「HANARE」がある(写真の矢印の場所)

そう言われて筆者も早速2軒の食べ比べをしてみた。

武蔵家 成増店

武蔵家 成増店
武蔵家 成増店

2007年創業の「武蔵家 成増店」。東武東上線成増駅南口の駅前から伸びる「なりますスキップ村商店街」の中にある。勢いのある店内の活気が気持ちいい。

食券機を見ると「祝! HANARE open! 武蔵家ハシゴする? 半ラーメン」というボタンがあった。ハシゴが前提の「半ラーメン」があるとは、ラーメン商業施設のようだ。半ラーメンは500円でライスも無料だという。とんでもないコストパフォーマンスである。

食べ歩きのために「半ラーメン」がある
食べ歩きのために「半ラーメン」がある

「成増本店はど豚骨ど濃厚です。煮込んで煮詰めて骨と肉を凝縮したスープに酒井製麺の細麺を合わせています。 

チャーシューは煮豚。濃厚スープが特徴の『武蔵家』ならではのラーメンです」(三浦さん)

半ラーメン
半ラーメン

まさに骨っぽさを感じるクリーミーで濃厚なスープ。「武蔵家」の中でもかなり濃い方だ。まさにパワーを感じる一杯で、ライスにも最高に合う力強い家系ラーメンだ。

武蔵家 HANARE

武蔵家 HANARE
武蔵家 HANARE

「武蔵家 成増店」を出て、そのまま「なりますスキップ村商店街」を歩くと目と鼻の先、20mで「HANARE」に到着。

2022年5月オープンということもあり、綺麗な店内で、木を基調とした落ち着いた雰囲気だ。豚骨をグラグラ炊いている成増店とは対照的な店内である。

こちらにももちろん「半ラーメン」があった。500円でライス無料なのも同じである。

半ラーメン
半ラーメン

「『HANARE』は豚骨を長く煮込まず、出汁が取れたら骨はすぐ捨てて、また新しい骨を足していきます。これを繰り返してスッキリしたスープにしました。スープは清湯に近い状態です。

そこに、塩分濃度が低い醤油を多めに入れ、さらに鶏油をたっぷり入れていきます。今までの『武蔵家』には無かった“醤油先行型”のラーメンです。麺は酒井製麺の太麺を合わせました」(三浦さん)

「成増店」が豚骨の濃度のパワーを感じる一杯だったのに比べて、「HANARE」は醤油や鶏油の輪郭がくっきりと見える洗練された雰囲気の一杯。醤油ダレの香りまでしっかり感じる上品なまとまりながら、パンチの効いた満足度の高い一杯になっている。

食べ比べしてもらう狙い

続けて連食することで、同じ「武蔵家」でもその違いが明らかにわかり大変面白かった。これが三浦さんの伝えたい家系の“幅”なのだ。

「この2軒は、どちらも全く同じ材料で作っています。材料は一緒だけど作り方でこれだけ変わるんだということを証明したかったんです。作り手、技術、センスで家系ラーメンは全く変わるんだということを知っていただき、家系ラーメンの深さや面白さを広めていきたいなと思っています」(三浦さん)

家系ラーメンとはこうであるべしという風潮も強い中、三浦さんは店や作り手による違いこそが魅力だと強く主張する。

「家系にこだわればこだわるほど、作り方やルールに縛られていくのを最近感じるので、そこを壊して新たな 家系を作っていきたいです。もちろんオールドスタイルな家系を土台にしていきます」(三浦さん)

気になった方は1000円札を握りしめて、両店の半ラーメンを堪能してみていただきたい。家系ラーメンの未来と面白さがわかるはずだ。

※写真はすべて筆者による撮影

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