増量、禿頭、ブリーフ一枚、、、マシュー・マコノヒーに見るオスカー俳優のサバイバル法とは?
オスカー・ジンクス。悲願だったアカデミー賞(R)を手にした途端、キャリアに見合わない早すぎた受賞や急激なギャラの高騰、はたまた賞の恩恵に与って仕事が集中し過ぎたために、その俳優の輝かしい経歴が俄然怪しくなる負の連鎖を指す業界用語である。
オスカー・ジンクスを振り払うにはどうするか?
受賞が早すぎで業界の期待に応えられなかったのは「恋におちたシェイクスピア」(98)のグウィネス・パルトロウ、ギャラ高騰の好例は「月の輝く夜に」(87)のシェール、仕事を取りすぎて迷走したのは「めぐり逢う時間たち」(02)以後数年間のニコール・キッドマン。オスカー俳優という名誉に縛られることなく、アクションスターとして興収に貢献することでジンクスを撥ね除けた勇者もいる。「リービング・ラスベガス」(96)のニコラス・ケイジや「トレイニング・デイ」(01)のデンゼル・ワシントン等がこのタイプだ。
そんな中、役作りのために極端な減量に挑戦するという今となっては珍しくもない手段を、オスカー受賞後も堂々と行使してそれなりの成果を上げているのが、「ダラス・バイヤー・クラブ」(13)のマシュー・マコノヒーだ。彼の俳優としてのサバイバルテクは「レイジング・ブル」(80)以降のロバート・デニーロに近いが、マコノヒーの役作りはより細部にまで神経が行き届いている。
ブリーフ一枚の股間を晒して役に没頭するマコノヒー
「ダラス~」ではエイズ特効薬の販売ルートを自ら開拓した実在のHIV感染者を演じるに際し、20キロの減量を敢行して見事オスカーを手中にしたマコノヒーが、最新作「ゴールド/金塊の行方」では、逆に20キロ以上も増量して、インドネシアのジャングルで過去最大級の巨大金脈を発見し、一攫千金を成し遂げた実在の探鉱者がモデルだという主人公、ケニー・ウェルスに化けて画面に現れる。「ダラス~」同様、実物に馴染みがない観客は、80年代風(時代設定)のタック入りズボンのベルトで腹の贅肉を縛り、薄い頭髪を手で掻き上げながら、わざと差し歯で作った歯並びの悪さを隠すことなく高笑いするマコノヒー=ウェルスを怪しみながらも、いつしか山師のホラ話に大企業が群がる金市場のスリルに身を任せている自分に気づくはず。そうなれば、もはやマコノヒーの独壇場だ。白いブリーフの股間を嫌らしく晒して愛する女をベッドから眺めるシーンなど、本物がどうかは関係なく、役を自分流に造形しようとするオスカー俳優ならではの遊びが垣間見えて、楽しいことこの上ない。
実父に捧げた夢追い人のリアルストーリー
そして映画自体も、一攫千金を成し遂げ、大金と名誉を手に入れ、傾きかけた家業の採掘会社を立て直したはずのウェルスが、共に夢を追った地質学者の裏切りに遭い、無一文になるという手痛いしっぺ返しを食らった後にも、さらなるオチが待ち受けるという、終わりのないジェットコースター的な展開を見せる。端的に言うと、ゴールドラッシュ映画にしてアメリカンドリームもの、アドベンチャームービーにしてマネーゲーム映画。そう、本作でのマコノヒーは自身も出演した「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(13)でレオナルド・ディカプリオが演じた若き株式仲買人に見えなくもない。但し、あの時のレオとは違い、ウェルスは一旦はマネーゲームに翻弄されるものの、最後まで一攫千金の夢は手放さない。マコノヒーが製作も兼任するほど「ゴールド」に燃えた理由は、実の父親がエクアドルのダイヤモンド鉱山に投資していたからだと本人がコメントしている。
思えば「評決のとき」(96)でメジャーデビューした時、"ポール・ニューマンの再来"とメディアに騒がれてから20年あまり、そんな時代があったことなど嘘のような風貌をあえて演出することで独自のステイタスを築きつつあるマシュー・マコノヒーは、スター不在の時代を生き抜くオスカー俳優の新しいロールモデルなのかも知れない。
ゴールド/金塊の行方
6月1日(木)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
提供:東北新社
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/ STAR CHANNEL MOVIES
Photo by Lewis Jacobs