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違和感がぬぐえない「教職調整額10%超」の〝騒ぎ方〟

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 多くの方が指摘していることではあるけれど、それでも指摘せずにはいられないほどの違和感である。

■10%は「大幅引き上げ」ではない

 中央教育審議会(中教審)の「質の高い教師の確保特別部会」は13日、教員不足の解消に向けた総合的な方策をとりまとめた。そこで、「教職調整額」を現行の基本給の4%から10%以上に引き上げる提言を行っている。

 この「10%以上」を記事タイトルに使うなど、マスコミは大きく報じている。「倍以上」とか「2.5倍」という表現を使った報道もあった。ここで懸念されるのは、「教員の給与が大きく引き上げられる」という「誤解」を生んでしまうことである。

 教職調整額の代わりに教員が差し出しているものは、「残業代なしの残業」だ。基本給の4%ということは、たとえば基本給が30万円だとすれば1万2000円である。10%になっても3万円でしかない。それだけの額をもらうことで「残業代なし」を強いられ、「働き過ぎ」といわれる状態になってしまっているのが教員の現実なのだ。

 そもそも、「10%以上」の根拠がはっきりしない。4%の根拠は、1972年施行の給特法で教職調整額を定めるにあたり、1966年度に行われた全国的な教員の勤務状況調査で月あたりの教員の平均残業時間は「8時間」だったことにある。つまり、8時間分の残業代に相当するのが基本給の4%だったのだ。

 しかし現在、厚生労働省が過労死ラインとしている月80時間を超える残業をこなす教員は珍しくない。8時間の残業代に相当する教職調整額が4%なら、80時間を超える残業時間になっている現状では教職調整額も10%ではなく40%以上でなければおかしい。なぜ10%なのか、理屈が合わない。

 にもかかわらず、10%以上が大幅な引き上げであるかのような雰囲気がつくられつつある。大幅引き上げどころか、10%で80時間を超える残業を押しつけられることでしかない。かなり理不尽なのだ。

■教員志望者を減らし、中途退職者を増やす懸念

 さらに懸念されるのは、「給与が大幅に引き上げられるのだから、もっと働いて当然だろう」という雰囲気にむすびついていくことである。すでに、その兆候はある。

 教員の残業時間が増えることが当然とされ、忙しい仕事を割り振れるほどの増員もされないなかで、10%が教員の多忙に拍車をかけていく可能性は高い。

 中教審特別部会は教職調整額を10%以上にすることで、「大幅引き上げ」の雰囲気をつくり、教員志望者を増やせると考えているのかもしれない。しかし10%以上が実態を反映したものでなく、それによって労働強化になりかねないのでは、とても教員志望者が増えるとはおもえない。さらには、中途退職していく教員を増やすことにならないのか心配だ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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