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有名アパレルのSNSが炎上!「多様化」目指す米でも批判を免れなかった体型イメージ

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:イメージマート)

米アパレル、Abercrombie & Fitch(アバクロンビー・アンド・フィッチ)がソーシャルメディアに投稿したあるイメージが、大炎上した。

ニューヨークで1892年に創業した同ブランドは、主に白人の大学生を中心に人気がある。歴史が長く若年層に大きな影響力を持つ有名ブランドが、あるモデルを採用してイメージ広告を作成し、先週公式インスタグラムに投稿したところ、週末にかけて一気に拡散されたが炎上する騒ぎとなり、同社が投稿を削除した。

火種となったイメージ広告は、プラスサイズの女性にフィーチャーしたものだった。近年、プラスサイズのモデルを積極的に採用するアパレル企業は増えている。しかしこのイメージ広告に対しては、否定的な反応が大多数を占めた。

物議を醸した主な理由は「体型の多様性とインクルージョン(互いの個性を認め合うこと)を口実に、肥満と不健康な食習慣を正当化しようとしていないか?」というものだった。

あるSNSユーザーは「今シーズンの彼ら(アバクロ)は、糖尿病と心臓発作(の原因)にフィーチャーしている」と書き込んだ。また別のユーザーからは「あの写真を見て『あんな姿になりたい、あのショートパンツを注文しよう』と誰が思うのだろうか?」「​​肥満のイメージをセクシーで魅力的なものとしてアピールすることは、不健康そのものではないか」という書き込みもあった。

  • インスタのイメージ広告の炎上はほかのSNSにも波及した。ある投稿者の「削除したのか?」との質問に、「質問やお問い合わせがある場合はDMを送ってください」と同社。

イメージに対して、擁護派の意見ももちろんあった。ある人は「肥満の人のために服を作ることは、今やそんなに悪いことなのか?」と反対意見を挙げた。

同ブランドはイメージ戦略としてこれまで、鍛え上げられたモデルのような上半身裸の男性スタッフを店頭に立たせるなどし、ルッキズム重視の傾向があった。女性もののXLサイズ以上を販売しなかったことに対して2013年、当時のCEO、マイク・ジェフライズ氏が「自分の店には大柄の人ではなく、細身の美しい人に来てほしい」と発言し、批判の的になったこともある。

これまでアメリカのファッション業界全体でも、伝統的に痩せたモデルが持て囃される傾向が強かった。しかしそのようなカッコ良いとされるイメージが、若者の痩せ願望や非現実的なボディスタイルへの憧れを助長させ、間違ったダイエットや不健康な食生活に誘導しかねないとして、近年、同ブランドやヴィクトリアズ・シークレットなど若年層に人気のブランドは、痩せ過ぎたモデルの採用を避ける傾向にあった。加えて、時代の流れと共にプラスサイズのモデルを積極採用するアパレルも少しずつ増え、体型の多様性がフォーカスされるなどし「価値観」の軌道修正がなされてきた。

ただし同時に、アメリカという国は先進国の中でもっとも肥満率が高いことでも知られる。CDCのデータによると、2017年から2020年3月まで、アメリカの成人の41.9%が肥満とされており、肥満率は年々増加傾向にある。肥満は心臓病、脳卒中、高血圧、糖尿病など生活習慣病の原因にもなり、高い肥満率は社会問題の1つである。よって、ダイバーシティが重視される近年のアメリカにおいても、今回のイメージ広告について「やや行き過ぎ」と見た人が多かったようだ。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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