諦めて前向きになる「ポジティブあきらめ」とは?
目標を達成させるために何を「あきらめる」のか?
私は企業の目標を絶対達成させるコンサルタントです。現場に入り込んで結果を出そうとするからこそ感じることがあります。それは何かというと「あきらめる」ことです。いい加減、あきらめたらいいのに、どうしてそうまで執着するのか、しつこいな、と思うことがたくさんあるのです。それは何か? それは……
「不誠実な抵抗」
です。
「多数派工作」で人の意識や行動を変える方法で書いたとおり、私は現場に入るとまず多数派工作で「場の空気」を整えようとします。目標を絶対達成しようと私や社長、経営幹部だけが言っても、現場がその気にならなければ「笛吹けども踊らず」の状態が続きます。ですから多数派工作で「同調性」の高い人から味方につけていきます。
目標を達成させることは企業にとって当然のこと。にもかかわらず、「そうは言っても無理なときは無理」「難しいときもあります」などと屁理屈で抵抗しようとする人がいます。私たちは経営コンサルタントですので「根性論」で言っているわけではありません。論理的に説明すれば、時間はかかっても、多くの人は必ず理解してくれます。たとえば次の会話を読んでみてください。
「目標を絶対達成しろと言われても、難しいときだってあります」
「確かに目標達成が難しいときはあるのですが、それは期限が近づいてきてから経営陣が判断すればいいことであり、現場は最後まであきらめない気持ちが必要だと思います。私はいま来期の目標予算について説明しているのに、なぜまだ来期がスタートしてもいない現時点で『難しい』などと発言するのですか?」
「まァ、確かに……」
「目標が達成するかどうかは別にして、来期1年間、目標を絶対達成しようと考えながら過ごすのと、難しいときだってある、と思いながら1年間過ごすのと、どちらが人や組織は成長していくと考えますか?」
「そ、そりゃあ、目標を絶対達成しようと考えながら1年間過ごしたほうが、人も組織も成長すると思います」
「目標を達成させようとすることで、痛いことがあったり、過酷な労働を強いられるわけでもありません。これまで考えなかったことを考えたり、これまでとは異なる行動をするようになる、というだけです」
「おっしゃる通りですね。現状を変えないといけないとは思ってたんです。わかりました。やります」
実際に従業員やスタッフの方々が行動を変えてくれるまでには時間がかかっても、冷静に、論理的に、そして粘り強く話せば、たいていの場合は「そうですよね。やります」ぐらいのことは言ってくれるものです。
ところが、周りが変わろうとしているのに、いつまで経っても抵抗してくる人がいます。「集団同調性バイアス」が低い人です。空気が読めないので「場の空気」を整えても、最後まで抵抗を続けます。次のような不毛な会話が展開されます。
「横山さんが考えたとおりにしたとしても、目標が絶対達成するとは限らないですよね」
「そうですね。しかし、やる前から『絶対達成できるとは限らない』と考えること自体に問題があると思っています」
「どういうことですか?」
「もしもあなたが他の会社へ転職し、目標は達成してくれたまえと社長に言われたら、どう返答しますか。『達成したいですが、とはいえ達成するとは限りません』と言い返しますか?」
「そ、そりゃあ、言いませんよ」
「そうですよね。無意識のうちにそう思わないものです。転職先では参考にできる過去がないからです。しかしこの会社にいる限り、無意識のうちに過去を参照して『やっても達成できるとは限らない』とついつい思ってしまうのです」
「横山さんのお考えはわかりました。しかし、私はあくまでも絶対達成は難しいと思います」
「達成するかどうかではなく、目標を絶対達成させるために逆算して行動してほしいということです。逆算して、どうすれば達成できるかを考えてほしいのです」
「くどいなァ、何度も言わなくたってわかってますよ! でもねェ、私だって何度も言わせてもらいますけど、難しいと言ったら難しいんです」
「難しいと言ったら難しい、という言い方は論理的ではありません。そんな思考だと、部下の方々を正しく教育できませんよ」
「そんなこと、あなたに言われる筋合いはない。とにかく私は今まで通りにさせてもらいますから」
文章だけで読むと、うまく伝わらないかもしれません。1度の会話ではなく、3か月も4か月ずっと話し合いをしても意固地になって態度を変えない人がいます。
周囲は「目標達成」に向かってチーム一丸になっているのに「難しいと言ったら難しいんだ」と言って聞かないのです。私はこういう方を何人も見てきて、ついつい思ってしまうのです。
「いい加減、諦めたらいいのに……」と。
後ろ向きになるのを諦めてほしいのです。「理不尽な反骨心」「不誠実な抵抗」を捨てて、もっとポジティブになってほしいと思うのです。
夢を諦める、目標達成を諦める、ということではなく、周囲からの協力やアドバイス、支援の手に対する「不誠実な抵抗」を諦めてほしいのです。プライドがあるのはわかりますが、根拠もない抵抗を続けてもいいことはありません。それに、諦めたほうがラクになるのは事実です。ポジティブになるために「あきらめる」という意思決定もあるのだ、と思いましょう。何事も素直が一番なのです。