「多数派工作」で人の意識や行動を変える方法
「多数派工作」の進め方
誰かを動かしたいとき、誰かの行動や意識を変えたいとき、対象者に直接その旨を伝えるのが普通です。「目標は絶対に達成しよう」「期限は守ろう」「もっと意思決定スピードを速くしよう」などと……。
しかし「直接話法」で伝えても、言い訳ばかりしてなかなか変わらない人がいます。そういう場合はどうすればいいのでしょうか。もっと厳しく、インパクトを強めればいいのでしょうか。それとも、もっと下手に出たほうがいいのでしょうか。私はクライアント企業に入って目標を達成させるコンサルタントです。人の行動を変えるため、いろいろな手法を日ごろから使っています。今回はストレートに人を変えるのではなく、「多数派工作」をして間接的に人を変える方法を解説します。私がコンサルタンティングする際によく使う方法です。
たとえば組織に「A」「B」「C」「D」「E」の5人のスタッフがいるとします。全員が全員、まったく同じ思考パターンをしているわけではないので、ここでは「同調性」という尺度でスタッフを観察してみます。同調性が高い人ほど数値レベルが高くなるとして、【1~5】で区分してみます。
仮に、「同調性レベル」が以下のようだとします。
● Dさん …… 同調性レベル【1】
● Bさん …… 同調性レベル【2】
● Eさん …… 同調性レベル【3】
● Aさん …… 同調性レベル【5】
● Cさん …… 同調性レベル【5】
つまり、Aさん、Cさんは同調性が高く、Dさんは同調性が低いと感じているということです。(レベル感は主観でかまいません)さて、多数派工作をする場合、まず同調性の高いAさん、Cさんを巻き込んでいきます。同調性が高い人は、リーダーであるあなたの主張に賛同してくれる可能性が高いからです。(一般的に「正しい」主張であることが前提です)
利用するのは「集団同調性バイアス」
たとえば「目標は達成すべきだよね」「期限は守ったほうが気持ちいいよね」「もっと意思決定スピードを速くしたほうがいいに決まっているよね」と言えば、「やはりそうですよね」「確かに、その通りですね」と同調してくれることでしょう。Aさん、Cさんと同じプロジェクトを作り、同じ目標に向かって一定の時間、行動をともにすれば価値観が似通ったものになり、思考パターンも強固なものになっていきます。
期間をおいて、次に、Eさんをプロジェクトメンバーに加えます。あなたとAさん、Cさんが同じ思考パターンで仕事をしています。すると「集団同調性バイアス」が働き、Eさんも同様な思考へと調子を合わせます。つまり「長いものに巻かれる」ということです。
長い期間、同じ思考パターンの人と仕事をしていると、プロジェクトの空気・雰囲気にオリジナルな色合いが帯びてきます。ここにBさんを加えると、Bさんも、その空気に染まっていきます。メンバー全員がある程度のレベルで染まったのを見届けてから、最後にDさんを加えます。Dさんは同調性が低いため、メンバー間の空気に馴染めない、「しっくり」とこない、と感じることでしょう。しかし、他メンバーの思考パターンはすでに強固なものになっています。反発してもなかなか変えられません。しかもあなたの主張は一般的に「正しい」ですから、Dさんも反論しようがないのです。このようにして人の意識や行動を変えていきます。個人をストレートに変えようとするより、「多数派工作」によって周囲から固めていくのです。
日本人に有効な「ピア・プレッシャー」
人間は通常、同じ組織内の仲間に認められたい、疎外感を味わいたくないと考え、仲間のあいだで自分がどのように見られているかを気にする傾向があります。そのせいで、仲間や社会と同じ考えでなければならないという圧力(プレッシャー)を常日頃から感じているもの。これを「ピア・プレッシャー」と呼びます。特に「和」を尊ぶ日本人にとって、ピア・プレッシャーは強力と言えるでしょう。
ポイントは、Aさん、Cさんのように同調性の高い人です。DさんとAさん、Cさんとが行動を共にしていると、Dさんの発想や考え方にAさんやCさんは感化されていきます。あなたの主張に染まっていかないのです。反対に、AさんやCさんをこちらの味方につけると、状況は変わります。
最終的に、行動を変えたいのがDさんだとしても、まずは周りから変えるのです。私どもはコンサルティングをするうえで「外堀を埋めていく」という表現をします。たとえ時間がかかったとしても、この方法のほうが持続性が高いのです。