Yahoo!ニュース

レゴランドは「高い」のか ミッションの明確化から始めよう

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

4月1日にレゴランドがオープンし、今日で3ヶ月が経つ。

当初から値段が高いだとか、狭いだとか、世界観に入れないといった批判が多かったが、筆者はこれまでレゴランドについて何かを述べるのを我慢してきた。およそ経営というものは、初動と以後の動きとのつながりの中で、いかようにも化けるからだ。中長期的にみたとき、経営者は何かを企んでいるかもしれない。ユニバーサルスタジオジャパンも、愛・地球博も、最初の頃は評判が悪かった。改善され、様々な試みがなされて、徐々によくなっていったのである。

一方でレゴランドの場合、3ヶ月が経ったいまなお、評判はかんばしくない。筆者は頑張っている人の心を挫くようなことはしたくないのだが、このままでは体力がもたなくなるかもしれない。せっかく作ったテーマパーク、よりよいものにしていってほしいと心から願っている。

ところで2020年を目処に、愛・地球博記念公園にジブリパークができる予定だ。いまだ全貌が明らかになっていないのに、ネット上では待ち望む声さえ聞こえる。そして、なぜか無関係のレゴランドが、ここでも心配される始末である。一般人の感覚においても、ジブリパークは大丈夫で、レゴランドはヤバイと思われているのだ。否、一般人だからこそ分かるのかもしれない。価値を享受するのは顧客だからである。

ようするに、顧客にとってレゴランドは、いかなる価値を提供してくれる場所なのかが分からないのである。実際に3ヶ月の間、各種の記事や体験記などを眺めてきて、価値の本質に迫ったものを見たことがない。しかるにそれは、記者が悪いのではなく、訴求できていないレゴランドが悪いのである。そして根本的な解決策は、この点にあると思われる。レゴランドは、ミッションの明確化から始める必要がある。

レゴランドは「高い」のか

河原で石ころを拾ってくるとしよう。10kg前後くらいの石ころだ。さて、いくらで売れるだろうか。

本学の学生に聞いてみた。一円も払いたくないとのことである。むしろ、金を取るとさえ言っている。当然である。金を払い、10kgの重い石ころを自宅に持って帰るなどというのは、ほとんど罰ゲームだ。彼らは金を払わない。

では、漬物を漬けてみたい人に聞いてみたらどうなるか。筆者としては、石ころの価格は980円でいこうと思う。おそらく売れるだろう。目的の実現のためには、ちょうどいい石ころは必要だからである。石ころは、なくてはならないのだ。

それでは、ホームセンターで売っている2580円の漬物石は売れるだろうか。学生に聞いてみたところ、高いから売れないのだという。本当にそうだろうか。

実際には、売れるのだ。というより、売れるのだから売っているのである。それを理解するのに問わねばならないのは、誰がそれを買うのかである。

例えば買うのは、田舎のおばあちゃんである。おばあちゃんは、何のために漬物石を買うのか。スーパーで美味しい漬物は、数百円程度の値段で売っている。それでも自分の手で、手間ひまかけて漬物を漬けるということが、おばあちゃんにとってどういうことなのかを想像すれば、買う理由がわかってくる。

おそらくおばあちゃんが漬物を漬けるのは、たまに来る孫が喜ぶ顔が見たいからであろう。「おばあちゃんの漬物おいしいよ!ありがとう!」と言われるために、おばあちゃんはできるだけ美味しい漬物をつくりたいのだ。そんなふうに孫から言われることを想像すれば、よだれが垂れてしまう。そのためならば、1000円や2000円高いかどうかは、おばあちゃんには些細なことなのである。出来るだけおいしい漬物を孫に提供するためには、安定した、適切な重さの石で漬けたいものである。このあたり、ヴェルタースオリジナルに通じるものがある。「孫にあげるのはもちろんヴェルタースオリジナル。なぜなら彼もまた特別な存在だからです。」

レゴランドが「高い」と思われるのは、誰に、いかなる価値を提供するのかを訴求できていないからであり、顧客にとって特別な存在ではないからである。社長のコメントによれば、どうやら「子供が喜んでくれないと意味がない」のだという。それではレゴランドは、子供をどのように満足させるのか。その満足に対して金を出すのは、誰なのだろうか。そういう考え方で、レゴランドの提供価値を考えねばいけないのである。

例示すれば、レゴに触れることで創造性が豊かになり、将来ベンチャー企業を立ち上げて大儲けできることがコミットされるならば、入場料は10万円でも安い。毎週通うことでレゴ1級の資格が取れてトヨタに入れるのであれば、年間パスポートは100万円でも安い。このように、高いか安いかといったことは、享受する価値に対して相対的なのである。

レゴランドは何になりたいのか。どのようになりたいのか。誰に、どのように覚えられたいのか。まずは自分たちのスタンスを明確にしたほうがよい。それには、提供する価値の中心軸を定めること、ミッション=目的、存在意義、使命を明確化することから、始めなければいけない。約束に関してコミットし、顧客に訴えなければいけない。

ミッションの明確化から始めよう

レゴグループのミッションは「Inspire and develop the builders of tomorrow(ひらめきを与え、未来のビルダーを育もう)」である。子どもたちが創造的に考え、体系的に論じ、潜在能力を引き出して未来の自分を形づくれるように、ひらめきを与えて育むこと、とされている。実際にレゴは、そのような振る舞いを徹底しているがゆえ、世界中で売れている。

レゴランドの場合、書かれていない。「2歳から12歳のお子様とそのご家族が1日を思いきり楽しめるテーマパーク」であり、「レゴブロックの世界観をテーマにしたインタラクティブな冒険型アトラクションがいっぱい」とのことである。ホームページ中に、レゴランドの価値についての言及はない。何があるのか=Whatと、何ができるか=Howについて書かれているばかりで、何のために=Whyが定められていないのである。それゆえ顧客は、レゴランドの「世界観」がわからないし、何にお金を使っているのかもわからない。レゴランドというテーマパークが、レゴの名称を用いる理由さえも、わからないのである。

ディズニーランドのミッションは「夢の国」であること、あり続けることである。そこに入国し、ディズニーの描いた夢の中に入るために、顧客はパスポートを入手する。USJはミッションの定義が弱いが、ゲストの期待を常に上回る「ワールドクラスの体験」を提供し続けることである。あるいは、さらにUSJのコンセプトを表しているのは、世界最高の体験をお届けするために「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」を展開することとの決意である。このように、まずもって誰に、何を約束するのかを決めることが、レゴランドの展開には求められる。

そして、約束は守らなければいけない。その約束は、いかなることを実行すれば果たされるのか。それから、約束は従業員同士で共有しなければならない。いかなる価値を提供しているのか、ゆえにどのように振る舞うべきかを明らかにし、すべての従業員の心に留めなければならない。結局のところ、約束とは人と人とが行うものなのである。

最後に、メッセージである。ここに来ればどうなるのかを、言葉やイメージとして訴えねばいけない。単にアトラクションが出来たとか、おいしい商品が発売されたということでは、顧客は引き付けられない。顧客は、自分にとって何らかの意味があるがゆえ、購入に到るのである。意味があれば、お金を払う。価値によって、金額は定められる。

実のところ、これらはブランディングの基本である。約束することを決め、それを守り続けることで、ブランドが育まれる。よってブランドとは、かねて培われた信頼の別名なのである。ライザップは結果にコミットする限り、売れ続ける。レゴはひらめきの機会を与え続ける限り、レゴであり続ける。レゴランドの場合、何を約束するのか。

最後に、好きではないが小手先の話をすれば、ひとまず効果を上げそうなやり方がある。ナムコ・ナンジャタウンは、タウン内で様々なイベントを行っている。白猫プロジェクトとか、弱虫ペダルとか、アイドリッシュセブンといった、別のブランドとのタイアップイベントである。これは実際に、オタク勢の集客につながっており、ナンジャタウンを特徴づけるようになった。ひるがえってレゴは、ひらめきによって様々なかたちをつくりあげるための道具といえよう。それゆえタイアップ戦略が展開しやすく、実際にスターウォーズとかスーパーヒーローズといったシリーズ展開もなされている。オタクはさておくとしてもレゴランドは、何らかのタイアップの路線で顧客を呼び込むのはどうだろうか。その場合、現在の価格に妥当性がなくなるのかもしれないが。

再度いいたい。せっかく作ったレゴランド、お客様に喜びを提供したいから作ったはずだ。そうであれば、改めてどのように喜ばせたいかを強くイメージし、そして実際に喜ばせようではないか。楽しかったと喜んで帰ってもらおうではないか。その姿を従業員が見たとき、レゴランドで働いてよかったと思ってもらおうではないか。デマを指摘し、応援する声もある。筆者もまた、応援する側にまわりたい。

風評などはふっ飛ばそう。レゴランドとともに生きる、すべての人の幸せのために。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

遠藤司の最近の記事