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府中ダービー。プレーオフ再戦したらどうなる?/リーグワンD1第15節ベスト15【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
復帰後初先発となったリーチ(写真提供=JRLO)

 至極の物語の序章となったか。

 4月27日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部の第15節があり、すでに5月中旬以降のプレーオフ行きを決めている東芝ブレイブルーパスが、東京サントリーサンゴリアスと激突。36-27と制した。

 5月4日以降の最終節の結果次第では、両軍はプレーオフの準決勝で再び相まみえる。再戦が叶うとすれば、この80分はノックアウトステージへの前哨戦になる。

 トッド・ブラックアダーヘッドコーチは言った。

「自分たちが凄くよくできた部分を、さらに強くしようという確信を持てた」

 言及したのは防御についてだ。この日のブレイブルーパスの反則数はサンゴリアスよりも7つも多い10だった。それだけ相手ボールを与え、ピンチを迎えたのに、9点リードで試合を終わらせられたのだ。

 ハイライトは前半28分頃。17―3と14点リードも、シンビンで数的不利を強いられていたタイミングだった。ブレイブルーパスは自陣の深い位置で、計29フェーズものアタックをしのいだ。

 多少、スペースを破られて網を張り直し、走者を仕留めた。掴み上げたり、なぎ倒したり、その場に絡みついたりし、向こうの球出しを鈍らせた。

 ブラックアダーは続ける。

「トライラインを相手に越えさせないことにどれだけの思いをぶつけられるか。ここを今後さらに強みとしていけるとわかったのが収穫です」

 ブレイブルーパスの接点でのファイトに触れ、サンゴリアスでスクラムハーフの齋藤直人は潔かった。

「あれが来るとわかっていて、その通りでした。(今後は)同じことをやられないようにしたい」

 ブレイブルーパスはこの午後、司令塔のリッチー・モウンガを欠いていた。それでも1度もリードを許さず、後半12分で21点リードと主導権を握った。

 攻めては防御網の裏側へのチップキックを利かせるなどして5トライを奪取。空中戦のラインアウトも制圧した。

 だからといって、次もブレイブルーパスが必ず勝つとは限らない。勝負は甘くないことを、何よりブレイブルーパスも認識している。

 互いに疲れが見えてくるであろう後半30分以降は、サンゴリアスが2度、トライラインを割った。対するブレイブルーパスではポジショニングがややスローになったり、プレーの合間に頭へ手を置いたりする人が散見された。

 サンゴリアスの齋藤は続ける。

「我慢していたら、後半ラスト20分に自分たちの時間が来ると感じたところもあります。再戦への学びというか…」

 体力勝負ではサンゴリアスに分がありそうだと取れる。それを前提にリベンジを狙うとしたら、序盤から終盤までの約70分をどう戦うかが注目される。

 かような仮説に対し、田中澄憲監督はこうだ。

「(方法は)ふたつ、あると思います。そのどっちを選択するか。映像を含めてレビューし、次の試合(プレーオフ)までの3週間で向上できるものはどっちか、という部分です」

 この「ふたつ」についての具体的な言及はなかったが、概ねこの2点ではないか。

1,相手を早めに疲れさせるべく、キックの多用で相手を背走させる
2,課題に挙がった攻撃時の接点の精度を高め、相手の防御を崩せるようにする

 サンゴリアスはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを部是とするが、今季は多様な戦い方ができるようキック戦術も強化。「1」を付け焼刃にしないための準備を、開幕前から行ってきたと言える。

 ウイングで昨季トライ王の尾崎晟也は、今季のトライランキングで上位につきながら自らのキック、味方のキックを追いかける動きでも存在感を示す。

「2」についても改善を図っている。キーワードは「ブラックホール」。走者がタックラーとぶつかった瞬間、サンゴリアスのサポート役がブレイブルーパスの防御役の懐などへ身体を差し込み、掴み、プレーができない状態に持ち込めるよう練習し直している。

 田中監督は言う。

「まず、ボールキャリアの責任もあります。ボールキャリーがボディハイト(高い姿勢)で行ったら、チョークされます(もっと大きな相手に掴まれる)。(自分たちが持つ)ボールをどう相手から遠ざけるか。あとは、(自分たちが持つ)ボールをどう相手から遠ざけるか。2人目は相手の2人目を『ブラックホールに入れる』。その細かいところをやっていく」

 この「ブラックホール」へのアプローチと、球の動かし方を見直すことの合わせ技で、チャンスを得点に変えたいところか。

 ブレイブルーパスの出場選手は、第15節の終盤、サンゴリアスは攻撃の布陣や攻め方を変えたように感じたという。

 たしかにその時間帯のサンゴリアスは、接点の周辺に俊足のバックスリーを走り込ませ、そのあたりにいる大型選手との質的優位を活かして前進。その流れで攻めのテンポを作り、防御にひずみの生まれた両サイドに数的優位を作った。

 フランカーの徳永祥尭は、再戦を展望しながら警戒心を強めた。

「(プレーオフでの)サントリーは、多分、(この日の)後半にやってきたことをやってくると思います。最初の接点で時間を稼げれば(次のフェーズまでに防御ラインを)自分たちのディフェンスのセットアップはできるので、まずはセカンドファイト(2人目の接点への絡み)時間を稼げるので。あとは(防御ライン上で)ちゃんとした位置に立てているか、順目と逆目のバランスなどを見直し、チームでコネクトしたいです」

 ナンバーエイトのリーチ マイケルキャプテンは続ける。

「接点の重要性にもう1回、フォーカスを当ててやっていきたいです」

 プレーオフ準決勝で第15節と同じカードがあったとしても、敗れた側は変化を示し、勝った側はその変化を念頭に置きながら改めて対策を練るわけだ。

 ちなみにサンゴリアスは今度の最終節で、クボタスピアーズ船橋・東京ベイと対戦。両ロックが2メートル超というブレイブルーパスのように大型選手を揃えるチームだ。

 齋藤は言う。

「前回の試合からの学びは、ゴールまで敵にゴール前に行った時のエクスキューション(遂行力)、そこでの『チームとしてどう(点を)獲り切るか』の共通認識です。また(次に戦うスピアーズ)はビッグパック(大型フォワードのいるチーム)なので、どうやって相手のフォワードを下げさせるか(が肝)」

 サンゴリアスが最終節をどう戦うかは、プレーオフ準決勝をどう戦うかのヒントとなりうるか。

リーグワン ディビジョン1 第15節 結果

三菱重工相模原ダイナボアーズ 24—31  リコーブラックラムズ東京

東芝ブレイブルーパス東京 36―27 東京サントリーサンゴリアス

コベルコ神戸スティーラーズ 63—19 静岡ブルーレヴズ

トヨタヴェルブリッツ 35―31 横浜キヤノンイーグルス

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 61―24 三重ホンダヒート

埼玉パナソニックワイルドナイツ 33―24  花園近鉄ライナーズ

リーグワン ディビジョン1 第15節 私的ベストフィフティーン

1,木村星南(東芝ブレイブルーパス東京)…地上戦でタフに働いた。

2,原田衛(東芝ブレイブルーパス東京)…強烈な突進でチャンスを創出。

3,小鍜治悠太(東芝ブレイブルーパス東京)…タックル、突進。

4,ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)…チョークタックル、ラインアウトスティール。

5,リアム・ミッチェル(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…防御ラインの穴を埋めた。

6,コーバス・ファンダイク(横浜キヤノンイーグルス)…再三のチョークタックル、モール防御。

7,佐々木剛(東芝ブレイブルーパス東京)…驚異のタックル数。相手を追いかけて止めるシーンも目立った。

8,リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)…献身。タックル。

9,日和佐篤(コベルコ神戸スティーラーズ)…テンポよく攻めるなか首尾よく逆目を突き、得点力を引き上げた。

10,ボーデン・バレット(トヨタヴェルブリッツ)…決勝トライに繋がるキック、陣地獲得でも魅した。

11, 松永貫汰(コベルコ神戸スティーラーズ)…防御網へのチャレンジ、タッチライン際のわずかな隙間への走り込みで強さ、速さを示す。自身の背後に蹴られたキックを駆け戻って捕球し、味方とのパス交換を経て蹴り返す動きも光った。

12,シオサイア・フィフィタ(トヨタヴェルブリッツ)…突進また突進。

13, ニコラス・マクカラン(東芝ブレイブルーパス東京)…チャンスメイクとタックル。

14,高橋汰地(トヨタヴェルブリッツ)…フルバックで先発。

15,李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)…中盤からのロングキック、キックパスが光った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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