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緊急事態宣言前夜? 「感染者数」速報で不安を煽るメディアが全く報じないデータと発言

楊井人文弁護士
毎日「感染者数」速報が流れるYahoo!ニュースアプリより(2020年4月5日)

 政府が緊急事態宣言を出す準備に入ったと報じられた。さきほど、安倍首相も発令の準備に入ったと正式表明した。ロックダウン(首都封鎖)を行う状況にないとも明言した。

 メディアは、連日「感染者が新たに●●人」「感染者●●人超える」と速報を打って、人々を震え上がらせている。緊急事態宣言や“ロックダウン”を求める知事や識者らの声が日々高まっている。手遅れだ、という悲観論も多い。

 一方で、公開情報で、誰でも確認できる情報なのに、全く報じられていないデータや事実がある。

 予想される反発に備え、あらかじめお断りしておく。本稿の趣旨は、新型コロナウイルス感染症の拡大について、何の問題もないとか、対策をとる必要がない、ということを主張したいのではない。当然、警戒すべきだし、「3密」を避けるなどの予防は不可欠だ。

 ただ、現状のデータを見たうえで、欧米諸国で取られているような、緊急事態宣言や“ロックダウン”が必要な状況なのかを、冷静に考えてほしいだけだ。

 ここに紹介するのはデータの一部であり、自分でデータを見てほしい。以下のグラフは、毎日新聞の特設ページ東洋経済オンラインの特設ページ札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所の特設ページからお借りした。

 いずれも4月5日現在のデータで、クルーズ船・チャーター便帰国者を除く。情勢は刻一刻変化する。本稿のデータと見解はあくまで4月6日時点のものである。私の示したデータや事実関係に間違いがあれば、ご教示いただきたい。喜んで訂正・追記したい。

感染者は増えているが、退院者も増えている

 メディアは連日、「感染者数」=「陽性と確認された人数」ばかりを報道している。

 私たちが日々報道で知る「感染者」の推移は、次のとおりだ(毎日新聞の特設ページより)。

陽性者数の推移(累計)

毎日新聞の特設ページより
毎日新聞の特設ページより

 たしかに増加しているし、陽性確定者の増え方も加速しているように見える。

 しかし、検査人数も増加している。よく知られている通り、日本では新型コロナウイルス感染症との疑いが強くなった段階でPCR検査を行っているとされ、検査数が少ない、もっと検査すればもっと陽性確定者が出てくるはずだ、との批判が強い。検査増によって、これまで見逃されていたような軽症者が捕捉されるようになり、感染者の数値上の増加につながっている可能性もあるのではないかと思う。

厚生労働省サイトより一部抜粋
厚生労働省サイトより一部抜粋

 そのような厳しい、絞られた条件のもとで実施されたPCR検査でも、陽性確定したのは1割未満にとどまっている。9割以上が陰性だった(もちろん、PCR検査も万全ではないので、偽陽性、偽陰性が出る可能性はある)。

 グラフでは次のようになる。黄色が陽性と確定した人数、それ以外は陰性だった人数だ(最新データは、毎日新聞の特設ページを参照のこと)。

PCR検査数と陽性者数の推移(累計)

毎日新聞の特設ページより
毎日新聞の特設ページより

 検査数が増えているので、陽性確定者が可視化され、増えているのは間違いない。

 だが、その中には一定数の無症状者もいる。退院者も増えている。

 3月28日は69人、4月4日は1日に61人が退院した(これまでの累計568人)。もちろん公開されている情報だが、メディアは新規「感染者」しか報じない。

 「1日あたり退院者が過去最多」というニュースは、一切出ない。

退院者数の推移(日別・新規)

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重症者・死者は1日あたり1桁台、横ばい(4月5日現在)

 新型コロナウイルス感染症は、まだワクチンも治療薬もない。したがって、致死率もインフルエンザより高いとされている。

 まだ全体像はつかめていない。国によっても大きな違いがあり、「致死率はまだわからない」というのが現時点では一番正確だろう。わからない以上、想定以上に高い可能性がある、という恐れを抱いておくに越したことはない

 それを前提に、冷静にデータを見てほしい。

 4月5日12時現在、感染者数の累計は3271人だが、重症者は70人、死者は70人。

 重症者数、死者数の推移は1日あたりの推移は、次の通り、横ばいで推移している(最新データは、東洋経済オンラインの特設ページを参照のこと)。

重症者数・死亡者数の推移(日別・新規)

画像
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 この感染症は、感染から発症、重症化、死亡までは一定の時間がかかる症例が多いとされる。今、私たちが見ているデータの多くは1〜2週間前に感染した例が多い。今後、重症化する人が急増する可能性は、もちろん否定できない

 あくまで過去のデータに過ぎない、といえば、その通りである。今後はどうなるかわからない。ただ、現時点で確認されているデータを無視すべきではない。

 繰り返す。新型コロナウイルス感染症は全く危なくない、と言いたいのではない。少なからずの人が亡くなっており、一人一人の命は重たい。ウイルスは人を選ばない。著名人の命を奪ったことは列島に衝撃を与えた。

 それでも、あまりにメディアの報道が「感染者数」ばかりにクローズアップし過ぎているので、「今のところ、重症者・死者は1日あたり1桁台で推移している」という事実は、知っておいた方がいいのではないかと思う。

 比較としてふさわしくないとの批判も承知で、ワクチンもあり、治療薬もあるインフルエンザで、毎年、どれくらい亡くなっているのかも、確認してほしいと思う(例えば、こちらの記事を参照)。

東京都で重症・死者は抑えられており、医療崩壊の状況にない

東京都・新型コロナウイルス感染症 対策サイトより
東京都・新型コロナウイルス感染症 対策サイトより

 東京都では感染者が急増している。他方で、重症者・死者は抑えられている。人口1300万の都市において、感染者数は1000人を超えたが、重症者24人、死者は30人である(最新データは、東京都・新型コロナウイルス感染症対策サイト参照)。

 これも今後、急増する可能性がないわけではないが、現状は、その多くが軽症・中症状者か無症状とみられる。

 だが、懸念されるのが病院がパンクして院内感染が拡大して機能麻痺してしまう、いわゆる「医療崩壊」だ。指定感染症医療機関の病床数も逼迫していると伝えられる(新型コロナウイルス対策ダッシュボード参照)。

 東京都は、病床数の拡大を急いでおり、すでに1000床確保し、4000床を目指すとしている。

 軽症者がホテル等に移されることも決まっており、逼迫しながらも、現状は、すぐに医療崩壊が起きる状況にないと思われる。 

政府専門家会議メンバーの発言をメディアが黙殺 「ロックダウン全くする必要がない」発言も

 4月4日のNHKスペシャルで、記者会見でおなじみの、政府専門家会議の尾身茂副座長は、番組前半に次のように明言した。

これは私の考えです。今回、緊急事態宣言が出ても、いわゆる欧米、イタリアとか武漢でやっている、いわゆる“ロックダウン"、都市封鎖ということを、私は全くする必要がないと思います。

NHKスペシャル4月4日放送より
NHKスペシャル4月4日放送より

 尾身氏はこうはっきり言い切ったのだが、どのメディアも報道しなかった(Yahoo!ニュース検索調べ。他局の番組で取り上げているところもおそらくないだろう)。尾身氏は番組内で、緊急事態宣言が今すぐ必要な状況にある、というような、発令に前向きな発言もしなかった。これが生放送でなく、収録であれば、この尾身氏の発言は報道されただろうか。緊急事態宣言、事実上のロックダウンをした方がよい、という、都知事や有識者らの声は、たびたび報道もされる。

「危機感がオーバーシュートしている」

 同じ専門家会議の押谷仁・東北大学教授も同日、ツイッターで「危機感のレベルがオーバーシュートしている」と懸念を示しつつ、

緊急事態宣言をした場合には特定の業種を、法的根拠を持って閉鎖したり、より強い外出の自粛をお願いすることになりますが、すぐに東京や大阪からの交通が遮断されたりすることはありませんし、その必要がある状況でもありません。東京と大阪の状況はニューヨークなどの状況とは全く異なります。いわゆる「3密」の環境にあるホットスポットに行きさえしなければ、東京、大阪で普通の生活をしていて感染するリスクは非常に低いのです。(以下、略)

出典:専門家会議メンバーの押谷仁・東北大学教授(4月4日Twitter投稿)

などと、長文のコメントを投稿した

 この投稿は反響を呼び、5.7万件もリツイートされたので、ご覧になった方は少なくないと思う。だが、これも全く報じられることはなかった(Yahoo!ニュース検索調べ)。

近隣国はロックダウンせずに感染者・死者を抑えている

 欧米諸国では感染拡大が深刻化し、ロックダウン(外出禁止・都市封鎖)している国々の状況がメディアで大きく取り上げられている。一方で、韓国や台湾では、ロックダウンせずに、感染拡大・死者を抑えている。日本はどちらかというと後者に属する。

 実は、100万人あたりの感染者数は、日本と台湾とで、さほど変わらない札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所のサイトで、確かめてみてほしい)。

 100万人当たりの死者数を、欧米とアジア主要国で比べると、次のとおりだ。

人口100万人当たりの死者数の推移

米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの100万人当たりの死者数の推移
米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの100万人当たりの死者数の推移
韓国(赤)、台湾(紫)、日本(青)の100万人当たりの死者数の推移
韓国(赤)、台湾(紫)、日本(青)の100万人当たりの死者数の推移

札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所のサイトより)

 韓国も台湾も、社会・経済活動をある程度維持し、学校も開いているが、感染爆発という状況には至っていない。

 なぜ欧米諸国でかくも感染拡大・死者が増え、東アジアでは抑えられているのか、要因はよくわからない。

 ここまで日本がギリギリで持ちこたえてきたのは、医療関係者と専門家の尽力が大きいと思う。感謝したい。

 明日にも緊急事態宣言は発令される、と報道されているが、本当かどうか知らない。

 「3密」が重なる条件を避ける。手洗いなどの感染予防を徹底する。飛沫を飛ばさないように注意する。風邪の症状がある人は外出を控える。

 それ以上に、(法的強制力がない代わりに)社会的同調圧力により、人々の自由を、過剰に、制限しすぎることにならないか。

 そのことを私は懸念している。

(訂正)東京都の人口を訂正しました。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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