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サン O)))がニュー・アルバム『ライフ・メタル』を発表。震動の世界観を語る

山崎智之音楽ライター
(C)2019 SUNN O))) & RONALD DICK

常に“音楽”の概念を改革、進化を続けてきたドローン神、サン O)))がニュー・アルバム『ライフ・メタル』を発表した。

極限までにスローでリズムを捨て去ったドローン・サウンド、聴く者の全身が鼓膜になったかのごとく激しく揺さぶる大音量、僧衣を着込んでドライアイスに包まれた儀式的ライヴ・パフォーマンスは、世界中のファンから崇拝の対象となってきた。2019年4月に発表された『ライフ・メタル』は鬼才スティーヴ・アルビニ(ニルヴァーナ、P.J.ハーヴェイ、ニューロシス他)がレコーディングを担当、徹底的にアナログにこだわったライヴ・フィーリング溢れる作品だ。

アルバムに伴う北米ツアーで各地に激震を呼んでいるサン O)))をキャッチ。ギタリストのスティーヴン・オマリーに語ってもらった。

全2回のインタビュー、前編では『ライフ・メタル』とは何か?を訊いてみたい。

<20年間やってきたことの集大成であり、その向こうにあるものを垣間見せる作品>

●『ライフ・メタル』に伴う北米ツアーは、どのような構成のライヴですか?

サン O)))のライヴは、アルバムの収録曲をただそのままプレイするのではなく、柔軟性があるんだ。ツアーごとにメンバーや構成が異なるし、公演ごとにも変化していく。音楽そのものが進化していくんだ。いわば、コンセプチュアル・アートに近いかも知れない。3月にはフランスとヨーロッパをツアーした。そのツアーでは『ライフ・メタル』からの曲、そしてまだ発表されていない新作『パイロクラスト』からの曲もプレイした。そして、『ブラック・ワン』(2005)からの「キャンドルゴート」もプレイしている。「キャンドルゴート」は長年サン O)))のライヴで核のひとつとなってきた曲で、実際には『ブラック・ワン』より前からあったんだ。ライヴを引っ張っていくのに向いた、ダイナミックな曲だよ。『ライフ・メタル』からの「ノヴァ」は去年(2018年)の夏、グレッグと俺の2人編成でやったライヴで初演したんだ。当時レコーディングしてまだ1ヶ月だったけど、既に新しい進化を始めていた。今ではさらに変化を経ているよ。オーディエンスとのエネルギーの共有があるし、ライヴによるヴァージョンの方が気に入っている。新しいライティングも効果的で、新たなディメンションへと連れていく。音楽は生きているんだ。それはとても大事なことだ。でももちろん、『ライフ・メタル』というアルバムも気に入っているよ。サン O)))というバンドが20年間やってきたことの集大成であり、その向こうにあるものを垣間見せる作品でもある。

●『ライフ・メタル』というアルバム・タイトルは、ノルウェーのブラック・メタル界の中心人物だったメイへムのユーロニモスが、スウェーデンのデス・メタル・シーンに対して「ちっとも“デス”メタルじゃない。あんな奴らは“ライフ・メタル”だ」と中傷した逸話が元ネタだと思いますが、何故それをタイトルにしたのですか?

ノルウェーのブラック・メタル界の逸話は、ロック史において多く語られる伝説のひとつだね。元々、スウェーデンもノルウェーも同じシーンの一部だったんだ。それがお互いを排斥しあって、さらにノルウェーのインナー・サークルも内側に破裂していった。メタルの歴史において起こった事件が、タイトルの元ネタのひとつになったことは事実だ。ただ、それが唯一の理由ではないんだ。俺にとって“ライフ・メタル”とは、とてつもなくパワフルな音楽をシンプルな言葉で表現するタイトルでもある。このアルバムによって音楽の祭典/儀式を行うことが出来るのを、僥倖と考えているんだ。それに実際のところ、あまり深く考えずとも、“ライフ・メタル”というのはキャッチーなフレーズだと思う。タイトルを目にした人が「ん?」と一瞬考えてくれたら、俺たちの目論見は半分成功しているよ。そうしてアルバムを聴いて、楽しんでくれたら理想的だね。

●『ライフ・メタル』というタイトルのブラック・メタルとの関連性を考えると、サン O)))の準公式メンバーであり、ブラック・メタルの名盤であるメイへム『De Mysteriis Dom Sathanas』(1994)でヴォーカルを取った重要人物のアッティラ・チハーが本作に参加していないのが意外にも感じました。

確かにアッティラはブラック・メタルというスタイルにおいて重要な位置を占めるアーティストだけど、決してその枠内に属するわけではなく、いかなるジャンルからも独立した存在だ。今日でもメイへムのヴォーカリストであり“ブラック・メタルの貴公子”であっても、彼を特定のジャンルに押し込めることは不可能だよ。アッティラを誰かと比較するとしたら、ディアマンダ・ガラスのような、自分自身がひとつのジャンルであるアーティストだろう。ディアマンダは“ゴス”の枠内で語られることが少なくないけど、彼女をジャンルで縛ることは出来ない。それはアッティラにも共通しているよ。

●なるほど。

アッティラはアルチザンであり、俺たちの兄弟だ。メタルからアヴァンギャルドまで歌うことが出来て、それでいて唯一無二の個性を持っている。サン O)))は液体のように姿を変えながら進化していくグループだ。グレッグと俺が核となりながら、制限を設けることなく表現を行っていく。時にそれがリスクを伴うこともあるけどね。アッティラの才能には最大の敬意を持っているし、俺は常に彼のファンだ。ただ『ライフ・メタル』ではよりアブストラクトな、異なったアプローチを取りたかったんだ。『ブラック・ワン』もブラック・メタルの方法論を取り入れた作品だったけど、アッティラは参加していないだろ?

『Life Metal』ジャケット(デイメア・レコーディングス/現在発売中)
『Life Metal』ジャケット(デイメア・レコーディングス/現在発売中)

<『ライフ・メタル』は“メタル”か?それは俺が判断するべきことではない>

●サン O)))が自らの音楽を“メタル”と呼ぶのは、これが初めてではないでしょうか?

そうかもね。「サン O)))はメタルなのか?」と何度も訊かれてきたけれど、正直どうでも良いことだ。自分の音楽を分類・定義することは、俺の仕事ではない。ただ、俺たちがやっていることを客観視したとき、メタルは重要なキーワードだ。グレッグも俺もメタルを聴いて育った。俺たちのルーツなんだ。俺はガキの頃から大のメタル・ファンだった。グレッグがやっているレーベル“サザン・ロード・レコーディングス”は数多くのメタル作品をリリースしている。ただ、『ライフ・メタル』がメタル・アルバムであるかは、俺が判断するべきことではない。それは君のようなジャーナリストや、レコード店のどのコーナーに置くかを決める店員、そしてアルバムを聴いてくれた人達が判断することだよ。

●『ライフ・メタル』でアナログ・レコーディングにこだわったのは何故ですか?

スティーヴ・アルビニと一緒にアルバムを作りたかったんだ。シカゴにある彼の“エレクトリカル・オーディオ”スタジオにあるレコーディング機材はすべてアナログで、磁気テープを使って作業した。レコーディング・セッションが終わった段階で、我々の手元にはマスター・テープがあったんだ。コンピュータは一切使っていない。だったらミックスとマスタリングもアナログでやってみたらどうか?...と思い立ったんだ。それでマスタリング・エンジニアのマット・コルトンと話し合って、幾つか実験を行ってみた。デジタル・マスタリングをすることも考えたし、その逆にマスター・テープから直接LP用のラッカーのカッティングをすることもやってみた。結果として、アナログのマスタリングの方が高音質だったんだ。もちろんCDはデジタル・マスタリングだけど、生のライヴ感があるサウンドになっているよ。

●あなたもグレッグも、1990年代からアルビニと作業をしていますね。

その通りだ。1996年、バーニング・ウィッチの 『タワーズ...』は俺にとって初めてのスタジオ・レコーディングだったんだ。それ以前にもクソみたいなデモ・スタジオで録音したことがあったけど、それは俺の中ではなかったことになっている(苦笑)。初めての正式なレコーディングをスティーヴに録ってもらったというのは、最高のスタートだったかもね。...とはいっても彼とのセッションはレコーディングとミックスを合わせて2、3日の短いものだった。当時はそれで十分だと思っていた。実際、事前にリハーサルをしっかりやっていたし、それ以上の時間があっても、持て余すだけだっただろう。バーニング・ウィッチはそういうバンドだった。パンクのアティテュードというか、入念なリハーサルを必要とするバンドではなかったんだ。『ライフ・メタル』でのスティーヴのメンタリティは、当時と同じなんだ。昔も今も、彼はバンドの演奏を忠実にテープに捉えていた。彼はバンドの音を加工したりしない。だから彼は自分の作業について“プロデュース”ではなく“レコーディング担当”とクレジットしているんだ。1996年といえばデジタル至上主義がはびこっていたけど、アルビニは当時からアナログにこだわっていたし、磁気テープを使っていたよ。

●グレッグもアルビニとの作業経験がありましたが、『ライフ・メタル』で彼と再合体したのは、どちらの提案だったのでしょうか?

おそらくグレッグだったと思う。でも、彼が言い出さなかったら、俺が提案していただろう。アルビニはグレッグがやっていたエンジン・キッドの『Bear Catching Fish』(1993)のレコーディングも手がけているんだ。だから俺たち2人とも彼とやったことがあった。もう20年以上前、まだガキだった頃だけどね。自分たちが大人になって再び彼と一緒にやれたのは実りのある経験だった。楽しかったし、新しいインスピレーションを得ることが出来たよ。俺の音楽人生でも最も楽しいレコーディングのひとつだった。スティーヴとの作業はもちろん、参加したミュージシャンはみんな親しい友人だったんだ。もちろん楽な作業ではなかったけど、本当に作りがいのあるアルバムだったよ。

(C)2019 SUNN O))) & RONALD DICK
(C)2019 SUNN O))) & RONALD DICK

<『ライフ・メタル』は音楽とヴィジュアルがお互いに刺激を与えている>

●『ライフ・メタル』のジャケット・アートについて教えて下さい。

サマンサ・キーリー・スミスの絵画『Manifold』(2015)の部分を使ったんだ。サマンサの作品に出会ったのは3年前だった。彼女はブルックリンで活動するアーティストで、ニューヨークで会ったんだ。俺がアルヴィン・ルシエとやったライヴを見に来てくれたし、彼女のスタジオにも招いてくれた。いろいろ会話をして、さまざまな面で触発されたよ。サン O)))のアルバムで彼女と作業することになるまで、しばらく時間がかかったけど、やって良かったね。『ライフ・メタル』は音楽とヴィジュアルがお互いに刺激を与えている。もっともアルバムの音楽はサマンサの「Manifold』から直接の影響は受けていないし、彼女のスタジオを訪れたのは、アルバムをレコーディングした直後だったけどね。

●LP・CD共にジャケットに“帯”が付けられていますが、日本盤の帯を意識したものですか?

うん、そうだよ。『ライフ・メタル』に帯を付けたのには2つの理由があるんだ。まずひとつ、バンド名やタイトルをジャケットに印刷することで、サマンサのアートワークを邪魔したくなかったんだ。もうひとつ、日本盤の帯というシステムが好きなんだ。俺はレコード・コレクターだし、日本でレコードを買うのも大好きだからね。去年10月にNAZORANAI(スティーヴンと灰野敬二、オーレン・アンバーチのプロジェクト)で日本に行ったときも、大量にレコードを買った。オーレンと一緒にシブヤのHMVで日本の伝統音楽やジャズのレコードを掘りまくったよ。オーレンは病的なまでのコレクターなんだ。日本滞在の最後の日、12時に空港に出発することになっていたけど、午前10時から2人でシブヤに繰り出した。HMVのスタンプカードが2枚いっぱいになったよ!

後編記事では『ライフ・メタル』収録曲をさらに深く掘り下げ、より“瞑想的”というニュー・アルバム『パイロクラスト』についても説明してもらおう。

【アルバム情報】

サン O)))

『ライフ・メタル』

現在発売中

デイメア・レコーディングス DYMC-321

http://daymarerecordings.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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