宮崎市大淀川河口付近で6人乗りの船が転覆 この時、海に何が起こっていたのか?
宮崎市大淀川河口付近で6人乗りの遊漁船が転覆し、乗っていた全員が海に投げ出されました。そのうち船長と乗客の2人が死亡。船が転覆した時、河口付近で何が起こったのでしょうか。
事故の概要
まだ事故発生から24時間が経過していない時間軸で、事実がすべて明らかになってはいないと考えられます。しかしながら、大淀川河口では過去にも同様の事故が続いていること、天候の急変のある今の釣りだからこそ気を付けたいことがこの事故の教訓として見て取ることができます。
遊漁船の足跡
事故を起こした遊漁船の公開されているスケジュールを同船のウエブサイトで確認すると次の通りです。
出船; 6:30
冲上;14:30
帰港;15:30頃
船は客を乗せた後、宮崎港を朝6時30分に出て、宮崎港付近などで釣りを楽しんだ後、14時30分に帰港に向けて航行を開始、15時30分頃に帰港するという予定のようです。当日の実際のスケジュールがこの通りだったかどうかはわかりませんが、事故の発生時刻が15時頃のようですので、釣りを楽しんだ後の帰港途中だったということで説明はつけられます。
気象・海象はどうだったか
◆気象
当日の気象データとして、気象庁アメダスデータを使いました。時刻、風速、風向の順で次の通りです。
宮崎(宮崎市)
06:00 3.3 m/s 西北西
12:00 1.5 m/s 西北西
15:00 5.0 m/s 西南西
油津
06:00 4.3 m/s 西
12:00 1.1 m/s 南南東
15:00 5.4 m/s 西南西
念のため、宮崎県内の2箇所の気象データを掲載しました。油津アメダスは宮崎アメダスから50 kmほど南下した海岸付近に位置しています。宮崎にだけ何らかの特異な気象があればこの比較でおおよそわかります。
この2箇所のデータで考察すると、一日を通しておよそ西からの風が吹いていたこと、一日を通じて穏やかな風であり、お昼ごろは特に穏やかだったようです。なお天候は日中を通じて晴れでした。
◆海象
宮崎日向沖 有義波実況 経時変化グラフから当時の海象を読み取ってみたいと思います。図1のように時間軸を少し長めにとる(12月1日~12月7日)ことによって、12月6日の特異性がうかがえます。
事故発生日の12月6日は白抜きにして示しています。まず有義波高をご覧ください。この日は午前0時ですでに1 mを超えるような波が高い状況にあり、お昼過ぎに波が高さ2 mを超えて、最も高い状況となっています。有義波周期はやはりお昼過ぎに10秒を超えており、周期が長い波=うねりがあったことを示しています。最も悪いのは波向きです。この日は一日を通じて東からの波が入り込んでいます。大淀川河口は太平洋に東向きに開いています。つまり、この日は河口に向かって太平洋のうねりが直接向かうように入っていたことがわかります。
気象・海象をまとめると、風は弱く西向きだったのにもかかわらず、波はうねりとなって東から河口に入り込むという、きわめて条件の厳しい状況下での小型船の航行だったと言えます。
大淀川河口での三角波
宮崎海上保安部によると、大淀川河口とその周辺では三角波が立ちやすく、過去にも三角波の発生によって小型船が転覆する事故が発生しています。特に平成25年6月8日に大淀川河口で発生した小型船の転覆事故では、当時、東の波向、波高2 mのうねりが入っていたようで、今回の事故と海象はよく似ています。
三角波とは何でしょうか。図2をご覧ください。三角波が発生する様子を海の断面のイラストを使って説明します。動画1に実際に令和4年に新潟市で観測された三角波の様子を示します。
動画1 新潟市関屋分水路河口にて観測された三角波(筆者撮影)
海岸では沖から来たうねりが反射して沖に戻ります。この時、沖から来た次のうねりとぶつかると相互に強め合い、三角形のような断面の波が瞬間的に発生します。この三角波はある海面で急に持ち上がるように姿を現すので、この場所に船がいると上方に持ち上げられて、その後一気に海面にたたきつけられます。このようにして小型船が転覆します。
まとめー事故の発生する時
一般的に小型船舶の事故の発生する日というのは、出港時には気象・海象ともに穏やかで、帰港する途中で急に風向きが変わったり、波の高さが変わったりしたような日です。つまり出港したくなる理由があるのです。
今回の事故では、出港が朝6時30分だったとすれば、すでに東から来るうねりが観測されていたはずで、出港の是非の決定にも影響を与えたことでしょう。この点が悔やまれます。さらに、「行きはよいよい、帰りが怖い」のも小型船舶のクルージングです。行きに避けられた三角波も帰りには避けられないことが多いのです。それは船の後ろから、沖から来る高波に追い立てられるからです。
これから冬型の気圧配置が本格的に強まるシーズンです。天気予報ばかりでなく、専門的な波の情報をも読めるようにならなければ、船釣りを含めて海釣りでは命がいくつあっても足りません。