HKT48の演劇への挑戦に学ぶ、コロナ後の「会いに行けるアイドル」の新しい可能性
アイドルグループHKT48が、20日から新しく「HKT48、劇団はじめます。」通称「#劇はじ」というオンライン演劇プロジェクトの公演をスタートさせました。
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これは昨年10月に、HKT48のオンライン演劇を劇団ノーミーツがサポートする、という形で発表されたプロジェクト。
早速初日から、1000人以上を動員することに成功し、福岡のツイッタートレンド1位にも入っていた模様です。
私自身は、正直なところあまりHKT48やアイドルグループには詳しくないのですが。
劇団ノーミーツさんから初演に招待をいただいて、おそるおそる観劇したところ、とても感動した上に、新しいアイドルの活動として可能性を感じてしまった次第です。
企画・演出からSNS運用までHKT48メンバーが担当
今回の「#劇はじ」の最も興味深いのは、劇団ノーミーツが全面サポートしてはいるものの、演劇の企画・プロデュース・脚本・演出・衣装・美術・音響・映像・配信・広報・出演を、すべてHKT48のメンバー自身が担っているという点です。
こうやって文字で書くと軽く聞こえてしまうと思いますし、本当はプロの大人達が裏で手伝ってるんじゃないの?と思ってしまう方も少なくないのではないかと思いますが。
劇団ノーミーツの方に聞いたところによると、本当にHKT48メンバーが0から企画をたて脚本を書き、企画書をつくりプレゼンをし、SNS運用からリリース作成、タイアップまで全て行っている模様。
実際に公開までのプロセスを追ったドキュメンタリーもYouTubeに公開されており、メンバーの苦労が分かる内容になっています。
今回はHKT48メンバーが「ごりらぐみ」と「ミュン密」という2つのチームに分かれ、それぞれ「不本意アンロック」と「水色アルタイル」という2つのオンライン演劇を企画。
ウェブサイト上でも、誰がどの部分を担当しているのかを細かく確認することができるようになっています。
正直な話として、オンライン演劇については素人のはずのHKT48のメンバーだけで企画や演出をすることで、どれぐらいの作品ができてくるのか、少し斜めに見ていた面もあったのですが。
今となっては、それが実に失礼な思い込みだったと反省するほど、2つの作品ともに現役アイドルのHKT48メンバーならではの視点で作り込まれた作品になっており、劇団ノーミーツの技術力の後ろ盾もあり、ビックリするほどクオリティの高いオンライン演劇に仕上がっています。
コロナ禍の直撃を受けたHKT48
オンライン演劇の可能性については、劇団ノーミーツの演劇を通じてずっと感じている人間ですが、今回の「#劇はじ」から強く感じたのは、HKT48というアイドルグループにとっての新しい可能性です。
コロナ禍は、アーティストやアイドルのライブやコンサートにも大きな影響を与えていると言われています。
特にその直撃を受けているのが、「会いに行けるアイドル」というフレーズに代表される、握手会をはじめとするファンと近い距離で活動していたAKB48やHKT48のようなアイドルグループ。
参考:NiziUの出現で変化した “アイドル勢力図”、会いに行けるアイドルに会えない致命傷
その中でも、特にHKT48は2019年にグループを牽引してきた指原莉乃さんが卒業。
さらに中心メンバーが活動を休止するなど、グループとしての転換点にいたタイミングでコロナ禍が直撃することになったため、その影響は我々の想像を超える大きさだったようです。
彼女たちの悩みの大きさは、公演前に公開されたドキュメンタリーに赤裸々に吐露されています。
アイドルが自らつくるアイドル活動のための「場所」
「#劇はじ」が企画されるきっかけとなったのが、劇団ノーミーツの「門外不出モラトリアム」にHKT48メンバーの田島芽瑠さんが出演されたことだったそうです。
私自身も、最初の緊急事態宣言下に公開された「門外不出モラトリアム」に大きな刺激やエネルギーをもらいましたが、それは出演された田島さんやHKT48メンバーも同様だった模様。
劇団ノーミーツの「門外不出モラトリアム」から1年、今回の「#劇はじ」には、そうした彼女たちが悩みながら、自分達ならではのオンライン演劇として試行錯誤してきたエッセンスが大量に詰め込まれています。
従来のアイドルと言えば、主なファンとの接点というのはアイドルの主戦場であるライブであり、握手会のような個別のコミュニケーションの機会でした。
一部のメンバーがドラマや映画に起用されることはあれど、それはあくまでグループとしての活動外となることが基本だったと思います。
それが今回のHKT48は、オンライン演劇を自ら企画し、自ら演技をし、自らファンとコミュニケーションを取ることで、アイドルグループとファンの新しい接点を自ら生み出すことに挑戦しました。
今回の「#劇はじ」では、公演後に出演者やプロデューサーのメンバーの裏話を聞いたり、演劇のコメント欄やツイートを通じて、ファンとアイドル同士がコミュニケーションを取ることも可能です。
私自身も、感想をいくつかツイートしたら、普通にHKT48のメンバー複数人からいいねやコメントがついて、ビックリする経験をしました。
さらに、HKT48のメンバーが作詞、作曲した歌が流れてきたり、劇中に出てくるアイテムや、関連グッズを購入することもできるようになっており、演劇全体とHKT48のグループの活動が連動する構造になっています。
自分達の楽曲をドラマの主題歌にしてもらえるのは理想的なパターンだと思いますが、今回のHKT48のように自ら演劇を企画すれば、当然主題歌は自分達でつくることもできるわけです。
最近大人気となっているYOASOBIは、書籍の小説を原作に歌を作っていることで有名ですが、これからHKT48は演劇と音楽を同時に作っていくこともできることを証明したように思います。
しかも、驚くことに今回の「#劇はじ」には、既に複数のスポンサーがついており、新しいプロダクトプレイスメント的なスポンサーへの感謝の仕方にも挑戦されているのです。
アイドルとファンをつなぐ新しい「会いに行ける場所」
もともとHKT48のファンであれば、今回のオンライン演劇を通じ推しのメンバーの新たな一面を感じることで、間違いなくさらに熱いファンになっていると思いますし。
演劇を起点として、HKT48のメンバーや歌のファンになる人が出てくる可能性も高いでしょう。
オンライン演劇においては、基本的にはZoomを活用したバストアップの演技で視聴者と向き合うことになりますが。
ファンからすると、自分の推しのメンバーとZoomでおしゃべりをしているような錯覚も味わうことができますから、公演期間中に繰り返し参加するファンも出てくるはずです。
リアルの演劇やライブよりも、オンライン演劇の方が、ある意味「近く」でアイドルと「対面」することができるわけです。
私が観劇していた会でも、最後に「また会いに来て下さい」と呼びかけているメンバーがいましたが、まさにオンライン演劇上においてアイドルに「会いにいける」感覚を味わうことができます。
今後HKT48がオンライン演劇を続けていくかどうかは分かりませんが、少なくとも今回のHKT48のオンライン演劇への挑戦は、令和時代ならでは、コロナ時代ならではの新しい「会いに行けるアイドル」の可能性をひらいてくれているようにも感じます。
まだ「#劇はじ」の公演は来週末まで続くようですので、是非皆さんも、新しいアイドルの可能性の誕生を目撃してみて下さい。