韓国で朴槿恵前大統領派のデモ隊が「暴徒化」…溜まる保守層のフラストレーション
「3.1独立運動」99周年の昨日、ソウル都心で行われた親朴槿恵前大統領派によるデモの参加者が「ろうそくデモ」の象徴するオブジェを破壊する事件が起き、韓国社会の「分断」の一端が表面化した。
デモ隊が「暴徒」に
3月1日は「3.1節」と呼ばれる特別な日だ。1919年3月1日、当時朝鮮半島を植民地化していた大日本帝国に対し、「3.1独立運動」と呼ばれる全国規模の独立運動を開始したことに由来する。
毎年、全国各地でイベントやデモ、行進が行われる。今年も、西大門刑務所跡で文在寅大統領出席の下で行われた記念式典を筆頭に、多様なイベントが行われた。
事件はそんな1日の午後6時頃、ソウル都心の光化門(クァンファムン)広場で起きた。
広場を取り巻く道路でデモを行っていた保守派デモの一団が突如、広場に設置してあったろうそくを模した大型の造形物「希望のろうそく」を倒した上で放火し、さらにセウォル号沈没事故の一部始終を説明する写真パネルを倒すなど、暴徒化したのだった。
事件を詳しく伝えた連合ニュースによると、騒ぎを起こしたのは「太極旗市民革命運動本部」、「愛国文化協会」など300余名。1審で懲役30年を求刑されたばかりの朴槿恵前大統領の「釈放」や、「文在寅大統領の弾劾」などを主張していた。
同紙によると、この日、光化門広場では保守派、進歩派のデモが同時に行われており、警察は双方の衝突を防ぐことを優先したため、前述したような破壊行為を止めきれなかったとした。事件ではデモ隊の2人が怪我し、止に入った警察1人も負傷した。
暴行を受けた「4.16連帯」の関係者が語る
筆者は一晩あけた2日、現場を訪ねた。警察数人が警護をしている閑散とした広場のあちこちには、昨日の破壊行為の跡がそのまま残されていた。
そんな中、広場を黙々と掃除していたのが、セウォル号事件の遺族と有志で構成される市民団体「4.16連帯」のスタッフ、金ギョンナムさん(57歳)だった。
金さんは複数人のデモ隊から暴行を受けたことを韓国メディアに明かしている。金さんに話を聞いた。以下は一問一答。
−暴行を受けた当時の状況は
"保守派のデモ隊の数人が路上から広場に入り込み、セウォル号の写真パネルを壊し始めた。「何をするんだ、やめろ」と止めたが、襟首を掴まれて数発殴られた。「殺すぞ」などとも言われた''
−警察は止めに入らなかったのか
"警察の制止は遅れた。殴られて初めてやってきた感じだ。もし、私たちが「ろうそくデモ」を行っていた当時に同じこと(暴徒化)をしていたら、警察は黙っていなかっただろうに''
−破壊行為を行っていたのはどんな人たちか
"老人男性たちだ。皆口々に罵りながら、写真パネルが倒していた。倒れるとあちこちで「よくやった」という声が聞こえ、拍手する連中もいた。
−なぜこんなことが起きたと思うか
"(暴徒化した)彼らは、政権が変わったことを受け入れられないのではないかと思う。デモ隊には李明博(イ・ミョンバク、元大統領)や朴槿恵(前大統領)を支持する者や特定の教会の信者が混じっている"
インタビューをしている間、別の老人男性が筆者の下にやってきて、「これが今の韓国の現実だ。(北朝鮮との戦争危機で)国が生死の境をさまよっているというのに、信じられない」と激しい口調で語った。
また、「希望のろうそく」を制作した芸術家集団の一人、金ヨンジュンさんも現場を訪れ、ショックを隠さなかった。「4.16連帯と合同で声明書を出す予定」と筆者に明かした。
北朝鮮幹部・金英哲への反対感情が引き金か
なぜこのような事件が起きたのか。
保守紙の朝鮮日報は「この日、光化門広場には7つの保守派団体のデモが行われ、15000人以上の市民が集まった。文在寅政権発足後初めて『太極旗』で埋まった」としながら、「天安艦を沈没させた主犯の入国を許せない」という参加市民の声を伝えている。
2010年3月に起きた哨戒艦「天安」沈没事件では46人の韓国軍人が犠牲となった。
実行したのは北朝鮮の「偵察総局」とされる。当時総責任者を務めていた金英哲(キム・ヨンチョル)現朝鮮労働党中央委員会副委員長兼統一戦線部長は、2月25日から27日に、平昌五輪の閉幕式に合わせ、北朝鮮代表団団長として訪韓していた。
金氏の入国を保守政党「自由韓国党」の議員が橋を封鎖して阻止するなど、世論の反発が高まっていた。こうした背景からデモ隊にはフラストレーションが溜まっていたものと思われる。
今回の「事件」について、韓国政治に詳しい西江大学現代政治研究所の李官厚(イ・グァンフ)研究教授は、「造形物の毀損は計画的なものではなく偶発的なものに思える。1日のデモ隊は特に朴槿恵前大統領への求刑に対する反発と怒りが大きく作用したと見られる」と筆者の書面インタビューに答えた。
また、「特にこの日のデモは大規模な教会を中心に組織されたが、参加者はこれまでの太極旗デモでも、感情的に昂(たか)ぶっていた」と分析した。
保守デモの暴力性に警鐘
複数の韓国メディアによると、警察は今回の事件を重く見て、厳罰に処す方針を固めたとされる。2日には、保守派デモの一つを主催した「大韓愛国党」の趙源震(チョ・ウォンジン)議員が警察に出頭を要請されている。
朴槿恵前大統領の弾劾を主導した「ろうそくデモ」に対抗する形で発生し、拡大した「太極旗デモ」は、数十万人を毎週集めるなど、2017年の2月頃に動員のピークを迎えた。
その後、徐々に縮小し、現在は数百〜数千人規模の動員にとどまっているが、これまでにも警察や市民との小競り合いが発生するなど、暴力を教唆するようなデモの暴力性は批判を浴びてきた。
だがこの日、より暴力的な直接行動に出たことにより、今後の「太極旗デモ」の行く末に黄信号が灯った。暴力化する動きを修正できない場合には世論の批判を正面から浴びることになり、保守派全体のイメージ低下という大きな影響を及ぼすことは間違いない。