Facebookに2,000万ドルの商標権買い取りを持ちかけたスタートアップに勝ち目はあるか?
昨日はFacebook(META Platforms)による米国におけるMETA関連商標の「大人買い」状態について書きましたが、そこでは、Meta PC, LLCというアリゾナのスタートアップ企業がMETAという商標をFacebookより先に出願しており、2,000万ドル払ってくれれば権利を譲っても良いと言っているというニュースを紹介しました。
余談ですが、このツイートでは、Meta PC社のCEOが「じゃあうちはFacebookに社名変更するわ」と言っているネタが紹介されています。
さて、Meta PC社はゲーム向けのPCを販売している、ちゃんと実業を行っている企業です(いわゆるトロールではありません)。少なくとも2020年11月にはMETAという商標を使用しており、2021年8月23日にUSPTO(米国特許商標庁)に文字商標として出願(90897345号)しています(タイトル画像参照)。まだ実体審査は始まっていません。指定商品は9類のコンピューターおよび周辺機器です。Facebookより先願であり、かつ、指定商品もかぶります。このまま登録になれば、Facebook(META Platforms)の出願(の一部)の類似先登録となり拒絶に導き、さらには、Facebook(META Platforms)に対して商標権侵害訴訟を提起できてしまう可能性が生じます。
このMeta PC社の出願の審査経過を見るとLetter Of Protestが提出されています。Letter Of Protestとは第三者が審査関連した情報を審査官に提供できる制度です(日本で言う情報提供(刊行物等提出)に相当します)。このケースでは、登録商標6239288号との類似により誤認混同を招くという意見が提出され、審査官は受領しています(その意見に合意したという意味ではなく、今後の審査において考慮することを認めたということです)。明らかに、Facebook(META Platforms)がMeta PC社の出願の登録の阻止に動いているということでしょう。
6239288号は、M37 Incという会社が2020年7月13日に出願したMETA.(META+ピリオド)の文字商標(下図参照)で、つい先日、Facebook(META Platforms)が(ダミー会社を経由して)商標権を買い取っています。指定商品は、「パターン認識と機械学習のための画面データの捕獲・保存用ソフトウェア」です。
日本ですと、「コンピューターと周辺機器」と「ソフトウェア」には同じ類似群が割当てられているのでほぼメカニカルに類似として扱われる(審判や訴訟で覆すことは可能ではありますが)のですが、米国では類似群という考え方がなく、審査官は消費者が誤認混同するかという観点から類似・非類似をケースごとに判断します。このケースでは、商品の類似・非類似の問題に加えて、商標もピリオドのあるなしにより同一ではないので、6239288号を理由にしてMeta PC社の出願が拒絶になるかどうかは確実ではありません。もしMeta PC社の出願が登録になってしまうと、上記のとおり、Facebook(META Platforms)にとってはかなりのリスクです。
商標権大人買いによって、米国においてMETA関連商標権をある程度押さえることに成功したFacebook(META Platforms)ですが、必ずしも盤石とは言えなさそうです。