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選挙結果を分ける「激戦州」とは? その州がなぜ重要なのか今一度解説【米大統領選】 

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
激戦地の1つ、オハイオ州のバイデン支持者(10月12日)。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの大統領選について、これまで興味はなかったが、今年ばかりは行方がなんだか気になるという人は多いのではないだろうか。

投開票日まで3週間を切った今、大統領選挙制度の少し特殊な仕組みについて改めて紹介したい。選挙結果の明暗を分ける激戦区、なぜその州が重要なのかについて、キーワードと共に解説する。

米大統領選の仕組み、基本中の基本おさらい

米大統領選の特殊な仕組みについては、専門家による詳しい解説記事がすでに多出しているので、本稿では基本中の基本として、なるべくシンプルに説明する。

何も知らない人に「大統領ってどのように決まるの?」と聞かれたら、筆者は端的にこう答えるだろう。

基本知識その1. エレクトラル・カレッジ

有権者1人ひとりの投票数の多さではなく、州ごとに割り振られた選挙人(ポイント)の総数で決まる。これをエレクトラル・カレッジ( = Electoral College、選挙人団)と言う。

投票は州ごとに行われ、各州で勝ち抜いた候補者がその州の選挙人団の票(Electoral votes)を丸ごと獲得できる(勝者総取り方式)。総数538のうち270以上を獲得した候補者が大統領選の勝者となる。

  • ネブラスカ州とメイン州は例外(複雑なのでここでは割愛)

選挙人団(ポイント)の割り当ては、人口が最も多いカリフォルニア州が55、筆者の住むニューヨーク州が29。最も少ないのは3で、アラスカやワイオミングなど8つの州。

例えばカリフォルニアとニューヨークで共に勝つと、55+29 = 84が加算される。この数が合計270に達したら当選だ。

4年前の大統領選でヒラリー・クリントン氏が落選したのは、1人ひとりの得票数はトランプ氏より約300万票多かったものの、この選挙人団(ポイント)数が少なかったためだ。

画像制作:Yahoo! JAPAN
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基本知識その2. スイング・ステーツ

アメリカの多くの州は、伝統的にどちらかの政党寄りだ。しかし中には選挙ごとに「揺れる」州がある。

例えば地盤として、北東部や西部は伝統的に民主党(ブルーステーツ=青い州と呼ばれる)を支持する傾向があるので、今回の選挙でもほぼほぼ民主党の勝利が予想される。

筆者が住むニューヨーク州は民主党寄り(ブルーステーツ)だから、この時期は民主党候補ジョー・バイデン氏の支持表明を表すプラカードやグッズをよく見かける。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

一方、中西部や南部の多くは共和党(レッドステーツ=赤い州と呼ばれる)の地盤なので、共和党の勝利が予想される(筆者は何度か中西部や南部を訪れたことがあるが、共和党支持のプラカードをたくさん見てニューヨークとの大きな違いを実感したものだ)。

トリッキーなのは、「どちら寄りでもない」「五分五分」とされる州がいくつかあることだ。

これらはスイング・ステーツ(Swing States=揺れる州という意味)、つまり激戦州と呼ばれる(赤と青を混ぜると紫になるので、パープル・ステーツとも呼ばれる)。過去の大統領選を顧みてもどちらの政党が強いと言えないため、選挙ごとに激戦の地となる。またこの激戦地域での勝利が、大統領選の結果を大きく左右する。

候補者が安定した支持率を得ている州より激戦州での選挙活動に力を入れるのは、そういうわけだ。

米紙の最新予測「2020年の激戦州はどこ?」

10月12日付のUSAトゥデイ紙は、2020年の接戦州になるであろう2つの地域(6州)と、勝負の鍵を握る理由を解説した。

特に重要な「2つの地域」と「6州」

Rust Belt(ラストベルト=錆びついた地帯):

かつて製造業で繁栄した五大湖の周辺に位置する旧工業地帯

ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州

Sunbelt(サンベルト=暖かい地帯):南部の州

アリゾナ州、フロリダ州、ノースキャロライナ州

ラストベルトは五大湖周辺、サンベルトはアメリカの南部の州。出典:USAトゥデイ紙
ラストベルトは五大湖周辺、サンベルトはアメリカの南部の州。出典:USAトゥデイ紙

スイング・ステーツとしてよく言われるのはフロリダ、ミシガン、ペンシルベニア、オハイオだが、毎回必ずしも決まっているわけではなく、選挙ごとにその時の情勢などによって変化する。

重要な州はほかにもあるものの「今年の大統領選で勝つにはまずこの6州(合計101ポイント)のうち少なくとも3州で勝つ必要がある」と同紙。

特に前回(2016年)の大統領選でトランプ氏の勝利を決定づけた要因の1つは、ラストベルトの有権者(白人の労働者階級)から期待が集まったからとされており、今年もこの地域から支持を得ない限り、勝利は厳しいだろうと見られている。しかしこの4年間で雇用問題は改善されておらず、引き続きトランプを支持するのか否かがポイントだ。

またもう1つ、前回の勝因はミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンといういわゆる伝統的に青い州(民主党が強い州)を突破したことが大きい。この3州はいずれも接戦だった。

では今年の選挙戦で激戦となりそうな地を、州ごとに解説していく。

  • 世論調査はすべてFiveThirtyEightのもの
  • かっこ内の数字はすべて、選挙人団の票(Electoral votes)の数

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●ミシガン(16):2020年選挙戦の鍵を握る

(最新の世論調査:バイデン氏7.8%リード)

「ミシガン州は今年も接戦の場で、勝利の鍵を握る地域」と、地元デトロイト・フリープレス紙。ミシガンは1992年以来、民主党が勝ち続け、長年ラストベルトの他州より民主党支持派が多かったが、4年前の選挙でトランプ氏が制し、大統領選の勝利をもたらした。今年もこの州でどちらの候補が勝つかが、勝利を分ける1つの鍵になる。

「ミシガン州はほかのほとんどの激戦州より、白人労働者階級の割合が高い」と同紙。つまりトランプの主な支持者層が多いということだ。「トランプが旧工業地帯や農村部からより多くの支持者を見つけることができたら、再選できるだろう」と同紙は分析している。

●ウィスコンシン(10):前回の選挙が急展開した“転換”の地

(最新世論調査:バイデン氏7.7%リード)

今年の民主党全国大会の開催地となったミルウォーキーがあるウィスコンシン州。(新型コロナにより規模が縮小され、ほとんどがオンライン形態になったが)

この州は4年前、トランプが制したことでポイント総数がぐっと押し上がった、いわゆる「転換点」となった場所。

ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル紙は、「ウィスコンシンもミシガン同様に、ブルーカラーである旧工業地帯や農村部の白人有権者がどちらに入れるかが勝敗を分ける。両候補者にとって重要な州で、絶対にここで勝つ必要がある」とする。

歴史的に見ていくとウィスコンシン州は1988年以来民主党が勝ち続けてきたが、4年前にトランプ氏が奪回した。「勝因は、州の有権者の半分以上を占める労働者階級の白人層から、ヒラリー・クリントンより約20ポイント多く勝ち取ったこと。ヒラリーはウィスコンシンの有権者にはただただ不人気だったが、バイデンはそれほど不人気というわけではない」と同紙。

また同州ケノーシャはこの夏、BLM関連騒動の地になったのも記憶に新しい。警官に背後から7発撃たれたジェイコブ・ブレークさん事件を引き金に未成年の少年が3人を殺傷する事件となり、街が荒れた。

現在、新型コロナが感染拡大している州の1つでもある。それらの問題が本選にどのように影響するだろうか。

●ペンシルベニア(20):バイデンの出身地で要石の州

(最新世論調査:バイデン氏6.9%リード)

バイデンの出身地でもあるペンシルベニア州。州のニックネームは「Keystone State」(要石)のごとく、欠かすことのできない重要な土地だ。

ザ・タイムズ紙は「ペンシルベニア州も、前回の選挙でトランプが僅差で勝てた州の1つ。ここは4年前のウィスコンシン州と同様に、「転換点」の州になる可能性が十分ある」とした。

歴史的に見ると、ペンシルベニアは1992年以降民主党が勝ってきたが、4年前にトランプが奪回した。しかし2018年の中間選挙で再び青い州(民主党)寄りになったため、トランプが再選を果たすには4年前に勝ったようにこの州を奪回する必要がある。

●ノースキャロライナ(15):前回農村部の大勝が鍵となった

(最新世論調査:バイデン氏3.3%リード)

ノースキャロライナ州は2008年、オバマ氏がかろうじて勝ったが、古くからは共和党が強い州だ。

「都市部は民主党寄りで、前回はヒラリーが都市部から得票したが、それを上回った農村部からの得票がトランプの勝利に大きく貢献した。しかし今年は五分五分のように見える」と、地元ザ・フェイトヴィル・オブザーバー紙は、この地での激戦を予測している。

都市部と農村部の間の郊外は、近年都市部や他州からの人口流入により、赤から紫に変化しているように見えると言う。

ノースキャロライナ州シャーロットは、8月の共和党全国大会の開催地となった場所。バーチャル中心で選挙活動をするバイデン陣営は実際の訪問は控えめ。一方「トランプは7月27日以来7回訪問し、9月だけで4回も訪問している。投開票日まであと1、2回訪問するかもしれない」と同紙。度重なる訪問は、再選を狙うトランプがいかにこの州を要と見ているかの表れであろう。

●アリゾナ(11):ヒスパニック人口が有権者層に変化

(最新世論調査:バイデン氏3.8%リード)

アリゾナ州では1996年、民主党のビル・クリントン氏が勝利したが、それ以外は古くから共和党の牙城だ。保守派の共和党支持者が関心を払っているのは主に移民問題。アリゾナ州はメキシコとの国境沿いにあるため移民の流入は彼らにとって死活問題だ。

一方、近年は人口全体の29%を占めるヒスパニック層が支持する民主党寄りの傾向が進んでいる。その理由の1つは、アリゾナ州の民主党派と無党派の主な関心が、第1に健康保険、第2に教育環境のためだ。2018年の中間選挙では、ヒスパニック層の民主党支持が大きく影響した。

トランプのこの州での再選はやや難しいのではないかと見る専門家も多い。「世論調査通りの結果になると、11月3日に伝統的な赤から青にひっくり返る可能性がある」と、地元エージーセントラル紙は伝えている。

●フロリダ(29):激戦地の代表格で最も重要な州

(最新世論調査:バイデン氏4.2%リード)

まず激戦州として、誰の頭にもすぐに浮かぶのがこのフロリダ州だろう。近年は、クリントン(民主党)→ブッシュ(共和党)→オバマ(民主党)→トランプ(共和党)と交互に揺れてきた。29の選挙人団を持っているため、この州を制すると大統領の勝利へ大きく前進する。

フロリダでの勝敗の結果に、いつも大きな開きはない。「1996年以降、勝敗を分けているのは平均わずか2.6%のポイント差。これは他州と比べても低い数値」と、ヘラルド・トリビューン紙。2000年に民主党から奪回したジョージW.ブッシュは、再集計後わずか537票の差で勝利した。

州の中でも、南東部のマイアミからパームビーチにかけては民主党寄りの傾向が強く、州の北部と南西部は共和党寄りの傾向だという。州の4分の1の人口(州南部のデイド郡では65%以上)を占めるのはヒスパニック層だが、世論調査では民主党支持者の割合が2016年以降減少しているという。

今年の特徴として「バイデンがヒスパニック層からあまり支持をされていないのと、高齢者のトランプ寄りの傾向が、選挙戦にどう影響するか」と同紙。世論調査はバイデンがリードしているが、前回もヒラリーが世論調査でリードしていたが最終的にはトランプが1.2%のポイント差で勝った。結果は蓋を開けてみないとわからない。

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このほかに毎回のことながら、オハイオ州(18)も激戦地の代表格だ。フロリダ州同様にクリントン(民主党)→ブッシュ(共和党)→オバマ(民主党)→トランプ(共和党)と交互に揺れてきた。半世紀にわたってオハイオを制した候補者が大統領に選ばれているので、この州は絶対に落とせない。

10月14日付のポリティコ紙は「トランプ再選はかなり厳しい」との見方で、万が一再選があるとすれば、上記6州に加えジョージア(16)とミネソタ(10)も重要な鍵を握る州として挙げている。ジョージアは共和党の地盤で白人のトランプ支持層が多いものの、アトランタ郊外がトランプ政権に対し反発する傾向にあるという。ミネソタは近年ずっと民主党が制していて、今年もバイデン氏が勝つと予想される州だ。

州ごとに紹介した各地方紙では、州内でもそれぞれの地域ごとに傾向やさまざまなデータをもとに分析している。本稿では「激戦」や「接戦」という言葉を何度も使ってきたが、それら「戦場における戦略」のようなものを見ていると「大統領選の各州とはまさに戦場だな」と思えてくる。興味があれば、それぞれのリンクに詳しく書かれている。

以上が、大統領選と今年の激戦州をできるだけシンプルに解説したものだ。日本の総理大臣指名選挙とはだいぶん異なり、外野として見るだけでも興味深いのではないだろうか。11月3日以降に州ごとの開票結果が熱く報道されるので、本稿の情報を照らし合わせながら、今年の大統領選を見守ってもらえれば幸いだ。

画像制作:Yahoo! JAPAN
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(Text and some photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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