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「福祉国家が人をだめに」逆風の中でリバタリアンがトランプ支持の理由 ── NY有権者の声

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ペンシルベニア州の空港で10月13日に開かれたトランプ氏の選挙集会。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選の投開票日が間近に迫ってきた。前回に引き続き、現地に住む人々に、選挙直前の様子や自身の政治的見解について聞いてみる。

本稿では、民主党の地盤であるニューヨーク州において、逆風の中トランプを支持する一般有権者に話を聞いた。

メディアで度々報じられているように、支持する候補者や政党を公言することで、時に人間関係に亀裂をもたらしたり危害を加えられたりすることもあるため、胸の内を明かさない「隠れ支持者」が一定数いるとされている。そんな中でも、この有権者の男性は「喜んで話しましょう」と、実名で気軽にインタビューに応じてくれた。

ニューヨーク州の大統領選ポイント

  • 1988年以来民主党が勝ち続けており、今年も民主党の勝利が予想されている。
  • 共和党支持者もたくさんおり、中心地で決起イベントを行なうなどしている。

世論調査ではバイデン氏が30.5%リード中。

NYの一般有権者(リバタリアン)のリアルな声

ジョー・サンダース(Joe Sanders)さん・72歳・リタイア

2人の娘を育て上げ、仕事は数年前にリタイアしたジョーさん。現在は妻と共に、ニューヨーク市内で悠々自適な生活を送る。

ジョーさんは大学時代に政治学を専攻。ニューヨーク州立の知的障害者施設で財務部門の中堅マネージャーとして長年勤め上げた。彼は「正反対の意見があってもお構いなし」と言うディベート好きだ。「政治の話題が心地良くない人もいるけど、私にとってはタブーなものでもデリケートなものでもない。政治については、オープンな雰囲気のなかで誰もが正直に語り合い、相手を尊重して違った意見に耳を傾けることが大切」と言う。

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── まずは、トランプ氏を支持する理由を教えていただくことはできますか。

一番の理由は、ほかの候補者よりも、トランプ大統領と保守的な共和党の政治的イデオロギーが、私の価値観とほぼ一致しているということです。

まず私は「リバタリアン*」です。この政治哲学はしばしばリベラル(自由主義)と混同されるのですが、同じではありません。 リバタリアンの主な思想は、「個人はコレクティヴ*や政府よりも高い価値がある」いうことです。 アナーキーと混同されることも多いですが、これとも違います。

*リバタリアンとは

libertarianism.orgには「自由がもっとも重要な価値であるとする政治思想」とある。通常人は自分のための自由のみを望むものだが、リバタリアンは自分に加え他人の自由も望む。人が本当の意味で「自由」になれば、誰もがより公正で、より豊かで、より安全で、より良い世界を作ることができると考える。日本語では「自由至上主義」と訳されることが多い。

リバタリアニズムと政治スペクトラム(政治思想の概念図ノーラン・チャート

*コレクティヴとは

共有したり共通の目的を達成するために共に働く集合体や組織

リバタリアンにとっては、社会の一個人である人には、最大限の選択肢と行動の自由が与えられるべきであり、政府の力は最小限に抑えられなければなりません。

それではなぜ政府が必要かと言うと、政府の役割は個人が別の個人に危害を加えられることを防ぐために存在します。私が若いころはリベラルがこの理想に近かったけど、こんにちリベラルは思考の一致を強制し、個人の行動を規制する傾向が見られるようになりました。

ほかの政党や候補者の考えや方針を見てみると、リバタリアンとは真逆の「コレクティヴィスト*」だと気づきます。

コレクティヴィストとは、個人よりも社会や政府を、そして個人の要望や欲求よりコレクティヴという集団を重視し優先する人々です。ほとんどの人はコレクティヴィストの視点を持っており、社会に対して従順であると信じていますが、共産主義/社会主義、ファシズム/ナチズムはこの政治的イデオロギーの例であり、コレクティヴィストはそれらのような左に向かう傾向があります。

*コレクティヴィスト:個人よりも社会や政府を重視する人。集産主義者

コレクティヴィズム:生産や流通における集団コントロールを提唱する政治、経済および社会システムで、個人の行動やアイデンティティより集団行動に重点を置くこと。

例えば民主党は、自由市場の原則ではなく経済の政府管理を支持するなど、ここ数十年の間、より社会主義的になってきており、多くの人々(=コレクティヴィストたち)のために最大の利益をもたらしていると主張している。

これはどういうことかと言うと、そのような政治は社会の中で生きる「個人の行動の自由」を奪っていることと同じなのです。これらコレクティヴィストの政策は、銀行の規制、独占禁止法、累進課税(所得税)や固定資産税、最低賃金法、環境や職場の安全を守る規則などがあてはまります。

また民主党は、政府こそが国民の面倒をみる役割と責任があると考えているが、それは間違いです。自分のケアは自分自身でし、そして互いに助け合うことこそが、本当の意味での自由なのです。

民主党のようなコレクティヴィストが「福祉国家アメリカ」を作ってきました。例えば、行政によって生活保護であるフードスタンプ(低所得者向けの食品配給)、公営住宅、ヘルスケア(オバマケア、メディケア・フォー・オール、メディケイド)などが、無償もしくは低料金で提供されています。

例えばよく話題に出てくるオバマケアを例に話しましょう。医療や健康保険を提供するのは政府の仕事ではありません。個人こそが第一であり、個人の自由を最大化しようとするならば、物やサービスの提供は個人や個人が営む企業などに任せる、つまり政府の干渉や強制の範疇にない「自由市場」という資本主義的な考え方を支持すべきなのです。政府は、個人の自由を守る安全保障、正義を守るための紛争の裁定以外、いかなる商品やサービスを供給すべきではありません。政府が羊飼いになってはいけないのです。

今この国では、政府が介入して公的支援が提供されています。それを利用し、医者と示し合わせて障害者のふりをするだけで簡単に面倒を見てもらえます。どんなにお金がなくても子どもを作ることも可能です。

私がもし、こんにちのように社会主義的に無料で食べ物、住宅、医療、衣類などを提供してくれる「福祉国家」に発展することを知っていたら、これまでの人生でこんなに一生懸命に働いてこなかったでしょう。

── 確かに同じ社会で、片や馬車馬のように働いて自活している人がいるのは不公平ですね。

その通りです。このような福祉国家(民主党)に投票してきた人は、自分たちこそ貧しい人や障害者に寛大だと信じています。しかしそのような寛大さには、常に誰かほかの人のお金が使われているのです。そのような「思いやり」のために、困難な状況下でも一生懸命に働いている人への逆の「思いやり」はどうですか。自分や自分の家族のためにサポートせねばならないのに、福祉国家の政府は、赤の他人の家族を支援するために、個人が自分の労働から得られた収入を(課税という名で)没収しているのです。個人の労働から得られる収入や財産について、政府が干渉したり妨害したりするべきではありません。

── では共和党のイデオロギーは、リバタリアンの価値観に近いということでしょうか。

リバタリアンにとって、自分の行動を自分自身でコントロールできるフリーダム(自由)こそが最高の状態なので、保守的な共和党の政治的イデオロギーは私の価値観にもっとも近いです。

もちろん自由と言っても、ほかの個人に危害を加えないという行動が前提ですよ。また、先ほど政府の力は最小限に抑えられるべきと言いましたが、ある程度の規制は問題ないと考えています。例えば有害な化学物質の排出、大気や水質などの環境汚染を防止するために、ある程度の人の行動が制限されるのはしょうがないことです。

── 具体的に、トランプ氏の政策で評価しているのはどのようなものでしょうか。

私が支持するトランプの政策はたくさんありますが、主なものは次の通りです。

  1. 防衛力、軍事力、国境警備、法と秩序、中絶反対
  2. 憲法による擁護と権力分立(例:厳格な構築主義者である最高裁判所の判事の指名)
  3. 規制緩和や税制改革
  4. 他国とバランスの取れたフェアトレード
  5. 3.と4.による雇用拡大
  6. 退役軍人の手厚い保護
  7. (完璧ではないにしても)新型コロナ対応(例:感染拡大国からの早期の入国禁止、人工呼吸器やPPEの対処、マスク生産と流通の促進 、タスクフォースの結成、ワクチン開発の取り組み)
  8. ファースト・ステップ・アクトのような刑事司法改革措置

例えば雇用拡大を例に話をしましょう。パンデミック前の雇用数は過去最高を記録し、マイノリティの人々や女性も含め、より多くの雇用が創出されました。トランプの政策のおかげで、これまで国外に流れていた仕事が国内に戻り、より多くの働き口が生まれたのです。

新型コロナの影響で失業したため、トランプに投票しないという人は確かにいます。得てして今の状況が悪い人は、何かと政治家のせいにしがちです。でも私は、この4年間で良い仕事が見つからず状況が悪いままの人は、そもそも「なぜだろう?」と考えます。自分は72年間(!)、そんなことはありませんでした。

繰り返しますが、どんなに仕事があってもそれに見合うだけの資格がその人にないと、働き口は見つかりません。その不満を他人のせいにしようとしますし、大統領職はしばしばそのような人々の不満のはけ口として絶好のターゲットになります。 (これは現政権に限りません。人間の本質ですから!)

── 逆にトランプ氏を支持したくない点はありますか。

あえて言うならば、政敵に対して簡単に煽ったりせず、もっと礼儀正しく対応すれば良いのに、とは思います(相手も無礼なのでしょうがないけど)。ただそうは言っても私はやはり、礼儀正しくて間違った方向に国を導く大統領より、彼のようでも正しい方向に国を導く大統領を望んでいます。

── トランプ氏は世論調査の結果が低いですが、大統領選の結果をどのように予想しますか。

世論調査は、調査する会社と調査員が自分たちの支持する候補者を有利にするため、サンプリングや調査結果を歪めることもあります。また、左翼テロリストの標的になることを恐れて本心を隠す傾向があるので、世論調査でバイデンがリードするのは不思議ではありません!

私はトランプの再選を願っています。しかし今年は新型コロナの感染拡大により郵送投票を利用する人も多いです。郵便投票は不正が生まれやすいため、私は今年の選挙プロセスをあまり信用していません。特にいくつかの州では不法滞在者を市民のように扱っていて、投票ができるようになっています。「Vote Harvesting」(投票収穫、投票数操作)がされている証拠はすでに見つかっており、そのようなケースでは正当な市民の投票が闇に葬られています。私は11月3日、投票所で投票します。

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(Interview and Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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