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アメリカの企業や教育現場で「日本茶」が嗜まれていた!【3】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(c)Kasumi Abe

アメリカのお茶事情「教育現場でも取り入れられる茶の湯」編

公立高の部活として正式採用

前回はアメリカの大企業の社員交流(福利厚生)で茶の湯が取り入れられている現状を報告した。この勢いは教育現場にも及んでおり、市内の公立校でも茶の湯が密かに盛り上がりを見せている。

ブルックリン区にある公立校「フォート・ハミルトン高校」(Fort Hamilton High School)で先月25日、茶道クラブが放課後の部活動として正式に承認された。表千家学校茶道もすでに、この茶道部を学校茶道として承認、登録している。

この記念すべき日に、表千家流の北澤恵子さんの指導の元、野点(のだて)が行われた。

フォート・ハミルトン高校の校庭。(c)Kasumi Abe
フォート・ハミルトン高校の校庭。(c)Kasumi Abe

当地では、まだ一般的に茶の湯についての認識が足りていないことからここに至るまで時間を要したが、学校茶道として承認されたことで「認定講師に教わりお稽古が進むとお許し(免状)の習得も可能になることから、これがただの『習いごと』ではないことが証明されました」と、茶道を学ぶ中川さおりさんは説明する。

この茶道部は、中川さんの娘で幼いころから茶道に親しんできたナンシーさんが立ち上げた。友人もナンシーさんの影響で次々に入部。今では部員の興味は着物や浴衣にも及ぶ。先日当地で行われたジャパンパレードにも浴衣を着て参加したと、生徒の1人は教えてくれた。

野点を楽しむ高校生と教師。(保護者の許可を得ていない生徒の顔は筆者による加工済み)(c)Kasumi Abe
野点を楽しむ高校生と教師。(保護者の許可を得ていない生徒の顔は筆者による加工済み)(c)Kasumi Abe

小学校でも茶会イベント

裏千家流の大塚肇子(はつこ)さんも当地で活動する茶道家の一人で、これまでハワイのビーチでお茶を点てたこともある。昨夏には、マンハッタンの小学校で2年生を対象に茶の湯の体験イベントを行った。

「ママのために抹茶を点てる」というテーマで教えた大塚さんは、イベントをこのように振り返った。

「教室に入った時、わんぱく盛りの子どもたちは大騒ぎをしていましたが、仲間との一期一会の最後のお茶の意味を説明すると皆シ〜ンと静まり返りました。『相手への尊敬』や『嫌なことを口にしない』といった茶の湯の精神を、子どもながらにズバリと感じ取ってくれたのが印象的でした」

(写真は大塚さん提供、写真は筆者が一部加工)
(写真は大塚さん提供、写真は筆者が一部加工)

博物館でも

「ポスター ハウス」(Poster House)は、ポスターに特化したアメリカ初の美術館だ。5月2日から9月10日まで、日本の歴史的なポスターを集めた「メイド・イン・ジャパン:20世紀のポスターアート」展が開かれている。

この展示室でも、ミニ茶会が開かれた。企画を立案したのは、同博物館アソシエイト・ディレクターのサルヴァドール・ムニョスさん。彼は展示中のある作品に特に魅せられた。それはグラフィックデザイナー、佐藤晃一氏の『利休』のポスターだ。「中心に光輝く茶碗が配置された印象的な作品です」。この作品を見てインスパイアされ、茶の湯イベントを思いついたという。

講師を務めたのは、上田宗箇流の長野佳嗣さん。長野さんも展示中の作品にアイデアを得て、このイベントのためにカーブが特徴的な畳マットレスを作って臨み、22人の参加者を迎えた。

(c)Kasumi Abe
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ここでも参加者から「泡はどのくらい立てるのが良いか」といった質問が飛び交った。「なぜ茶の湯では抹茶以外を飲まないのか」という質問に対して、長野さんは「禅の修行中に飲まれていたものが抹茶だからです。『今にフォーカス』『心を落ち着かせる』『一対一の関係を重んじる』という禅の精神性と茶の湯の世界は通じるものがあります」と説明すると、参加者も納得した様子だった。

(c)Kasumi Abe
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参加者にも感想を聞いた。今春に京都を訪れ、茶を実際に点てる観光客向けの茶の湯体験をしたアリーシャさんにとってこの日は2度目の体験となった。この日初めて知ったことも多いと語る。

「正式な茶会は4時間に及ぶそうです。客の集中力を削がぬようティーマスターにはエネルギー(場の雰囲気)をコントロールする責任があり、ヨガの練習と似ているという話を初めて知り、興味深かった」

当地の茶会イベントの「常連」の1人、マリウスさんの姿もあった。茶の湯への興味は90年代に京都・奈良を訪問したことで抱き、日本文化の大ファンになった。戻って来てからも茶会を探して参加し、5年が経つ。

「毎回学びがあり、楽しく参加しています。イチゴイチエとして」

(c)Kasumi Abe
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日本の茶の湯が注目されている背景

今回紹介した以外にも特設和室、植物園、ギャラリー、ホテル...とさまざまな機会に、茶の湯が親しまれている。これだけ身近なものとして、アメリカの人々に取り入れられるようになった背景をどう捉えているのか、最後に講師に尋ねた。

「茶の湯はサムライのメディテーションだと表現すると、ニューヨーカーはいつも深く共感してくれる。コロナ禍を経て人々がより精神的な充足を求める傾向が強くなったと感じる。また日本の侘びの美意識への興味も高まっている」(長野さん)

「ニューヨーカーは本物志向が高く、自分で点てて飲みたいという要望が増えている。ダイバーシティを尊重する流れがある中で、抹茶が紅茶と同じように一般的に飲まれるようになった背景も関係しているのではないか」(大塚さん)

(了)

(Text and most photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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