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日本の『巨大IT新法』は何をどう変えるのか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
公正取引委員会による巨大IT企業への調査 出典:朝日新聞デジタル

KNNポール神田です。

□自民党の競争政策調査会は(2019年4月)18日、「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業の規制に関する提言をまとめた。中小企業やベンチャー企業との取引が公正に行われるよう、契約条件などの情報開示を義務付ける新たな法律策定の検討を政府に要請。独禁法を個人に適用する必要性も示し、ITによる技術革新を促しつつ国内産業や個人情報の保護を目指す。

□新法案では、米アマゾン・コムやグーグルといったプラットフォーマーに対し、サービスの運用ルールを明確にした上で、変更する際には事前に取引先に通知させる。苦情への適切な対応も求める。

出典:巨大IT、新法で規制 自民、開示義務化を提言

なにやら、GAFAや巨大IT企業の一人勝ち体制に対して、日本も法的な整備でなんとか対抗しようとしているのがよく読み取れる。しかし、日本独自の法的なしばりで、制約や透明性を築くことがはたして可能なのだろうか?

また、情報の透明性といっても、GAFAが独自のアルゴリズムを公開することあありえない。むしろ、サービス運用ルールを強化すればするほど、外資に対してだけではなくそれは国内ベンチャーに対してもその包囲網が及ぶこととなるだろう。とくに、キャッシュレス社会推進の政府の音頭と共に、乱立する『QRコード決済』事業者なども、行動ターゲティング広告の手法を取り入れているので、データの持ち方に対して制約がかかることになりそうだ。

□GAFAをめぐっては、市場を寡占することで取引業者に不当な契約を結ばせたり、個人情報の取り扱いが不透明だったりするといった弊害が指摘され、欧州連合(EU)を中心に規制強化の流れが強まっています。党の提言にも、プラットフォーマーの動向などを把握するための専門組織の創設や消費者保護のために独占禁止法を適用すること、新たなデジタルプラットフォーマー向けの新法の検討などが盛り込まれる見通しです。他方で、日本にも楽天やヤフーなどプラットフォーマーがいる。そうした国内企業の競争力をそがないよう、イノベーションも重視します。

□聞き取りを通じ、独禁法や個人情報保護法を改正して規制を強化しても、資本力と技術力に勝るGAFAはそれを乗り越えてくるだろうなと感じました。そうなれば規模の小さな事業者は対応が難しくなって逆に格差が広がる。規制と革新のバランスを取りつつ、公正で透明な取引を担保することが重要です。

出典:【政界新時代】自民・木原誠二政調副会長「GAFA規制 競争力も重視」

外資系の巨大ITのGAFAに抵抗し、日本の『楽天』や『ヤフー』などのプラットフォーマーの競争力は保護するというのは都合が良すぎると思われる。欧州連合(EU)のアクションも罰金制度で、縛りだした事を日本でも適応しようとするのだろうか? 問題はそのような制度で本当に保護できるのかということだ。

欧州連合のアクションはEU地域の弱小IT企業にもチャンスを与えようとしているが、GAFAが巨大になった理由のひとつは、カネや政治力で巨大になったわけではないことだ。巨大IT企業となったGAFAは、人々のニーズを常に先回りし、個人の放つ情報を素材に、広告事業などで情報のマッチングをおこなった結果だ。ユーザーも非常に大きな恩恵を受けているはずだ。ユーザーは誰にも頼まれずにGAFA企業のサービスを自ら利用してきている。それが受け入れられてきたことが現在のGAFAのポジションなのだ。

ユーザーは、嫌ならば、使用しなければすむだけである。いや、むしろ、規制するならば、ギャンブル依存症のようなGAFAの『サービス依存』に対して警鐘をならすべきであろう。

□自民党の岸田文雄政調会長は(2019年2月)8日、「GAFA」と呼ばれる米IT(情報技術)大手4社を念頭に、データ独占の規制や同分野にベンチャー企業が新規参入できる環境整備などの提言を今春にまとめるよう指示した。

□グーグルやアップルといった「デジタルプラットフォーマー」と呼ばれる海外の巨大ネット企業が個人データを独占していることが問題になっている。課税逃れや情報流出への懸念も広がっている。岸田氏はデータ取引を監視する省庁横断組織の新設や事業者と消費者の取引の透明化を図るルール整備も指示した。

出典:「GAFA規制など提言を」 自民・岸田氏が指示

この法律策定の出元は、自民党 岸田派(宏池会)の岸田文雄政調会長の指示のようだった。法律や制度を考えるのは大変だが、本当に今までの自民党の競争政策調査会や公正取引委員会の視点で大丈夫なのか?

■「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」の中間論点

これは、2018年(平成30年)の中間論点の公開データだ。

多様な知見を有する学識経験者等からなる「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」

出典:公正取引委員会
出典:公正取引委員会
出典:公正取引委員会
出典:公正取引委員会
出典:公正取引委員会
出典:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/dec/181212_1.html

■規約を一方的に変更をされたという取引先

興味ぶかいのが、1日前の2019年4月17日(水)公正取引委員会のアンケート結果発表である。

一方的な規約変更のアンケート結果 出典:朝日新聞
一方的な規約変更のアンケート結果 出典:朝日新聞

□巨大IT企業の取引先にアンケートをしていた公正取引委員会が(2019年4月)17日、結果を公表した。「規約を一方的に変更された」と答えた取引先は、楽天市場で商品を売る事業者の93・2%、アマゾンの72・8%、ヤフーショッピングの49・9%にのぼった。

□一方、アプリの販売では「規約の一方的な変更」がアップルで81・4%、グーグルで73・8%。「一方的な変更」を指摘した取引先のうち「不利益な内容があった」と答えた割合はアップルで51・2%、グーグルで33・3%だった。

出典:「規約を一方的に変更された」楽天で9割、アマゾン7割

□「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業をめぐり、公正取引委員会は取引先などを対象とした実態調査の中間報告を公表しました。ネット通販を手がける一部のIT企業では、最大で9割の取引先が契約内容を一方的に変更されたと回答しました。

□公正取引委員会の実態調査はことし(2019年)1月から始まり、ネット通販のサイトを運営する「アマゾン」や「楽天」、「ヤフー」のほかスマホ向けのアプリを販売する「アップル」や「グーグル」の取引先を中心に、867の事業者から得た回答を中間報告としてまとめました。

□GAFAなどはデータを集める際、利用者にスマホの画面上で「利用規約」などを示し、「同意」を求めています。これに対して、公正取引委員会は、利用者に対し、規約の中でデータを何に利用するのか明確に示さないまま、不当にデータを収集したり囲い込んだりしている場合には、独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」の適用を検討しています。仮に、適用された場合には、過去のケースでは排除措置命令や課徴金が課されています。公正取引委員会は、どのようなケースで適用できるかをまとめた指針を、早ければこの夏にも策定する方針です。

□菅官房長官は午後の記者会見で、「巨大IT企業が提供する検索サービスはさまざまであるため、ルールの在り方も多面的な検討が必要であり、一概には言えないが、調査結果を踏まえてデジタル市場の競争環境の整備の観点から、政府として取り引きの透明性、公正性確保のためのルールの具体的な検討をしっかり行っていきたい」

出典:「契約内容 一方的に変更された」IT企業の取引先が回答

■旅行市場の『OTA』プラットフォーマーにも立ち入り検査

□ 2019年4月10日に立ち入り検査を受けたのは、楽天トラベルを運営する楽天のほか、米エクスペディア蘭ブッキングドットコムの日本法人。公取委はこれまでもネット通販の米アマゾン、民泊仲介の米エアビーアンドビーなどの日本法人を同法違反の疑いで調査している。いずれもインターネット上で第三者にビジネスの基盤を提供する「プラットフォーマー」と呼ばれる大手IT企業で、今回の3社も旅行サービスのプラットフォーマーだ。

□公取委は、3社が自社のサイトより安い旅行プランをライバルのサイトに掲載しないよう取引先のホテルや旅館に求め、自社サイトの予約が最安値となるよう不当な要求をしていた疑いが強いとみて調べている。

出典:「旅行予約サイト」独特の商慣習 公取立ち入りの背景にあるものは

■伊藤達也 自民党競争政策調査会会長の弁

□ルールの強化とイノベーション(技術革新)促進のバランスを取り、透明性・公正性を確保することだ。それには独占禁止法を迅速かつ的確に適用していくのが一番重要。ただ、経済産業省や公正取引委員会の調査では、情報開示が不十分な中で取引先が一方的に不利益な契約を強いられている実態が明らかになった。

出典:巨大IT企業 透明化へ新法 自民提言、実効性どう確保 イノベーションも重視 自民・伊藤調査会長

つまり、独占禁止法を適用していく方法とみられる。情報開示が不十分な中で取引先が契約を強いられているというが、これもプラットフォーマーの利用規約に納得の上での参画である。参加しなければよいとまでは言わないが、プラットフォーマーの選択肢は、まだ残されている。当然調査結果に基づいての判断だが、取引先が100%満足できるようなプラットフォーマーなどは存在しない。

独占禁止法のルール枠での規制を考えるよりも、巨大ITプラットフォーマーがユーザーに指示されている原因をもっと解明し、規制緩和などで対応できる部分も検討いただきたい。

取引先事業者側や消費者のプライバシーを守るというだけの判断は、民泊やUBERのようなシェアリングエコノミー退国として次世代産業での遅れを作るばかりだ。

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ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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