Googleに課した制裁金43億ユーロ(5700億円)で苦しむのは誰か?
KNNポール神田です。
欧州委の制裁金が、43億4000万ユーロ(約5700億円)と巨額の金額の支払いがGoogleに対して命じられた。
欧州委の独占禁止問題は、何も今にはじまったことではない。そう、Microsoftだ…。1990年代からこのOSメーカーはこの問題を抱えている…。
OSメーカーの最大の悩みは、プラットフォーマーとしてガリバーになりすぎてしまうことである。係争は10数年に及ぶ…。Microsoftにも、AppleというOSの競合企業の存在があり、必ずしも、独占とはいえないが、Appleが他社へOSを提供していないから他のメーカーは、Microsoftに依存せざるを得なかった…。いや、LinuxもあればオープンソースOSも採用しようとすればいくつでも採用できた。そのチャレンジを選択しなかったのは、MicrosoftのOS、Windowsを導入することへの売上貢献でしかない。そして、スマートフォンにおいても、同様に売上が期待できるAndroid OSをメーカーは採用せざるを得ない。
さらに、GoogleのAndroid OSの場合は、MicrosoftのOSと違い、基本的には無料で搭載できるので、メーカーはAndroidを採用しないという理由はない。また、Google Play や、Chromeブラウザの利用を『優先』させるというのは、MicrosoftのInternetExplorerがNetscape Navigatorを葬りさった時と同じ戦略どおりだ。ある程度、母数が圧倒的に増えれば排他的にしなくても、ユーザー自らが、ガリバーアプリケーションを選択するようになるからだ。
むしろ、「欧州の消費者が携帯端末の領域で効果的な競争の恩恵を受ける機会を奪ってきた」という言い分よりも、GAFAに代表される、Google Amazon、Facebook、Appleなどの、米IT大手ガリバーな寡占企業で巨大な売上を上げてもそれに応じた税収が欧州圏内で課税できないという側面の問題の方が本音だろう。中でも、GoogleやFacebookのビジネスモデルの本丸は『広告』モデルだ。個人データを大量に処理し、カスタマイズした広告を広告主に提供する広告のプラットフォーマーだ。製造もなければ、雇用も産まない…そして、売上の発生も、ユーロ圏ではない。
欧州メーカーの黄昏
欧州連合のハードウェアメーカーは、2000年代ではNOKIAやERICSSONらの北欧勢が世界の市場を制覇していた。採用されていたSymbian OSは2008年にNOKIAに買収され、2010年まではフィーチャーフォン(日本でいうところの『ガラケー』)、スマートフォンのOSで首位であった。その後、OS事業部門はへ2011年、アクセンチュアへ売却。2013年、NOKIAはMicrosoftに買収された。『Lumia』ブランドとしてのスマートフォン、「Windows 10 Mobile」のOSは2017年で事実上の撤退となった。そう、市場に迎えられなかったのだ。
そして、欧州圏で唯一残った、スマートフォン関連のCPUのライセンサーである英国のARMホールディングスは、2016年に約240億ポンド(約3.3兆円)で日本のソフトバンクグループ傘下となっている。
「EU圏の個人情報」をターゲットにした『GDPR』の存在
ハードウェア、ソフトウェア、OS、そして個人情報のプラットフォームまで、GAFA企業らのITガリバーによって牛耳られてしまった欧州委は、個人情報を保護する『GDPR(EU一般データ保護規則)』を、2018年5月25日より施行した。
『GDPR』が話題になるのは制裁金の問題だ。企業の世界売上の4%もしくは、最大2,000万ユーロ(約26億円)のいずれか高い方が制裁金となる。
Googleだけに限らず、個人情報を扱う世界の企業全体にかかわるGDPR法もふくめ、欧州圏の個人情報から独占禁止法の問題はGAFA企業にとって頭の痛い問題であることに変わりない。
また、今後は、それだけに限らず、QRコードのガリバーである中国勢などもEU圏の進出が容易となるだろう。今や、世界の大半のスマートフォンのハードウェアが中国製へと変化しつつある。独占禁止や個人情報保護でガードを固めていても、今度は『電子決済』の波がEU圏を飲み込もうとするからだ。
そう、過去の法律をこねくりまわし、諸外国に制裁金を課したところで、イノベーションに追いつけない企業群はさらに窮地に立たされるばかりなのだ。むしろ、EU圏内で、かつてのNOKIAやERICSSONのような、雪に閉ざされた環境を自ら打開していくイノベーションがなければ、EUは自ら自分たちの国の企業の首を締めることになりかねない。