『民泊解禁』で消えた4万8,200物件。どうなるアフター『民泊新法』
KNNポール神田です!
2018年6月15日 『民泊』が解禁となった…。しかし名ばかりの解禁。逆に4万8,200物件が日本から消えた…。
この消えた登録のおかげで、ヤミの仲介業者が日本語以外で客をとり、ヤミ民泊で運用する時代の幕開けとなるだろう。都心部のホテルは、需要に供給が追いつかず、価格が急騰したり、オークションのような価格での客室の転売なども予測できる。名ばかりの民泊解禁という民泊閉鎖は日本に何をもたらすのだろうか?
米エアービーアンドビーの日本サイト
民泊新法で消えた4万8,200登録。1日あたり10万人、年間3650万人のキャパが消えた
これを単純に登録数を部屋数として考えると…6万2,000室存在した部屋数が1万3800室に減った。市場が22.2パーセントもシュリンクしたのだ。つまり4万8,200室が一瞬にして消えたのだ。1室あたり2名で考えると、12万4000人もの対応キャパシティが、2万7600人しか対応できなくなり、9万6400人分の部屋が消失した。1日10万人、年間では3650万人のキャパが消えたこととなる。
観光庁が、「エアビーアンドビー」などの民泊仲介業者に対して、予約客の取り消しを2018年6月1日に通知したことが影響したと考えられる。通知の概要においては、「現時点において法に基づく届出等のない物件に係る新規の予約は行われないようにすること」とあるからだ。
観光庁[違法物件に係る予約の取扱いについて通知を発出しました 違法物件に係る予約の取扱いについて通知を発出しました]より
筆者のホスティング登録している部屋も6月15日を待たずに6月2日に非公開とされている。
実践してみて、はじめて実感できる「シェアリング経済」のすごさ
「シェアリング経済」は、実践してみてわかることが多々ある。実際に筆者の場合は、日本ではホスティングにまで至らなくとも、エアビーで登録し自分の部屋を貸し出した場合の相場を知ることができた。
たとえば、マンションを購入したりする場合に、その場所の物件をエアビーで登録するだけでどれくらいの1日あたりの収益があるのかという新たな指標を可視化してくれ、資産としての価値を客観評価できる。それだけでなく、いつがハイシーズン、ローシーズンなのかの宿泊需要までが、ひと目でわかるのだ。そんなホスティングのマネージメントの仕組みが秀逸さが、エアビーアンドビーの成長エンジンなのだ。
東京新宿の現在の1Kの住居をエアビーでホストした場合の収入は、一週間で5万円と収入相場をアドバイスしてくれる。満室ならば月額20万円となる…。また、需要にあわせて自動的に価格が変動する「スマートプライシング」で料金はエアビーアンドビーにほとんどお任せすることができる。民泊のシーズンごとに売れる相場の料金を世界で一番知っている会社でもある。
自分の部屋の1週間の価値がすぐにわかる、エアビーの収入相場
https://4knn.tv/airbnb-a-week/
この仕組のおかげで、素人でも簡単にゲストを迎えいれることが簡単にできた。
そもそも「民泊新法」とは
「民泊新法(住宅宿泊事業法)」という法律が2017年6月9日に国会で決まり、2018年6月15日に施行されるので、この法に適さない民泊はすべて「違法民泊(旅館業法違反100万円、懲役6ヶ月以下)」となり罰せられることとなる。そして登録して「住宅宿泊事業法」上の運営者となっても年間運用は最大180日の縛りがあり、各自治体の条例によっては、さらに、営業期間や曜日の縛りがあるので年間半年以下でしか運用できなくなり、ビジネス目的の民泊はほとんど成立しなくなり、撤退さざるをえなくなったのだ。民泊で、幸運にも、近隣住民の許可も得られ、消防署の許可も得られるという奇遇な事業者でも年間半分以下しか稼働できないのでは、事業としてはとても成立できない。むしろ、その規制で運営できる人といえば地方の空き室化する場所くらいのものだ。そこにアウトバウンド需要は見込みづらい…。
※「住宅宿泊事業」とは、旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が、宿泊料を受けて届出住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が180日を超えないもの。
空き家820万戸、空き家率13.5%(2013年)を残したまま。日本に芽生えた民泊のシェアリングエコノミーを摘み取ってしまったのだ。
ベッド・アンド・ブレックファースト文化(B&B)
このような厳しい法律が登場した背景は、やはり、ヨーロッパなどで長年培われてきたベッド・アンド・ブレックファースト文化(B&B)の土壌がない日本で、いきなり上陸し、しかもワンルームのようなマンションで管理人と会うこともなく、キーボックスだけの設置だけという状況が放置され続いたことが問題だった。見知らぬ外国人が大きなスーツケースをもってウロウロ、夜中に酒を飲んで騒ぐ、タバコのポイ捨て、大阪ではついに、民泊で死体が発見されるなどとショッキングな事件が相次いだ。もちろん、ホテルや旅館などよりも、安い値段で部屋を民泊で貸されることによっての経済的な打撃に対してのロビー活動もあったことだろう。
日本において、ヨーロッパのように引退したホスト夫婦が、子どもたちが巣立ったあとの部屋を「民泊」として提供し、ベッドと朝食を用意し、旅人と一緒に時間をシェアしながら、同時に生活費の足しにするような「B&B
文化」が何もないまま日本で展開されてしまったことが今回の状況を招いてしまったと思う。当然、法律がないので取り締まることができない空白期間を経て、今回の施行となった。政府が、ホスト滞在型を推奨したり、アウトバウンド客に日本の暮らしをホストと一緒に過ごす日本型民泊のあり方を指導し、プライバシーのある宿泊業界と、異文化シェアリングのコミュニケーション業界と明確に区分けできなかったことを本当に残念に思う。日本は、これでまた、UBERなどの「ライドシェア」と同様に、シェアリングエコノミー後進国への道を歩みだしてしまったのだ。
2020年「宿泊需給問題」がまたぶり返す…
2020年訪日外国人旅行者数4000万人時代を迎え、みずほ総研は2017年9月に「2020年客室不足の試算」として、3万室不足から2.3万室不足とリポートした。しかし、この民泊の8割激減によって、2016年8月の「訪日外国人4000万人時代の宿泊施設不足」のレポートした4.4万室不足時代に舞い戻ってしまった。いやむしろ、首都圏においては、需要過多による供給不足による過剰の値上げやオークション価格並に尋常ではない宿泊価格の異常事態が発生することだろう。当然、そうなると、そのビジネスを埋める形で、表立って「民泊」ができない「ヤミ民泊」が大量発生する状況も考えられる。
最悪、そこでのトラブルが多発し、2020年に向けてインバウンド市場にも甚大な影響を与える頭痛のタネを抱えている。宿泊ホテルのローシーズンとハイシーズンの価格差に対してもある程度の価格規制も必要だろう。
また、エアビーアンドビーの仲介モデルとは違う「送客専門」のサイトへの登録や、長期賃貸の中途解約制度などの、さまざまなスレスレの「合法民泊」が登場したとしても、近隣住民とのトラブルによって宿泊需要がある限りイタチごっこの問題は続くことだろう。
「民泊」撤退バブルに湧くネットサービス
民泊新法を撤退することによって、6月は数万室の賃貸民泊撤退バブルに湧いている。都心で「賃貸」する側ならば得に今月はチャンスだ。民泊で貸し出されていた物件が大量に空き部屋化しているからだ。15日以降の撤退予約でこれから賃貸住宅から戸建てマンションでも影響があるだろう。
また、民泊撤退により、ベッドや家具、ソファ、テレビなどの廃棄するにしても費用がかかるものは、地元の掲示板の「ジモティ」などで「民泊」「撤退」などで検索してみると15日以降の予定が前倒しになり、現場に引取りにいけば、無料でもらえるという異常事態も発生している。そう、これらもすべて需給のバランス異常によって起こりうるシェアリングエコノミーのファンダメンタルズなのだ。
「民泊」は死に絶え、エアビーはUEBERの跡を追うのか
6月15日に起こりうる「民泊ショック」は想定内ではあったが、8割減というのはかなりの激震クラスであった。すでにエアビーは「宿泊」だけではなく、旅先での経験を仲介する「体験&スポット」という、コト消費をピックアップしている。アウトバウンド客は、宿泊し、ホテルのコンシェルジュに頼るだけではなく、いろんな日本での体験をエアビーを通じて経験することができる。
また、「Airbnb Plus」というエアビーが厳選したスペシャルなお墨付きな宿泊場所を用意している。まだ、日本は少ないが、いずれホテルや旅館などでは、体験できない宿泊は人気が出ることだろう。たとえば、「憧れキッチン」という宿泊先はむしろ、ホテルや旅館では提供できないシェアリングエコノミーならではのリスティングである。こんなキッチンのある暮らしで数日暮らしてみたいというようなニーズを発掘させたのだ。
単に、日程と旅先で、検索した場所へ宿泊するということから、このキッチンがある国へ行ってみたいという「旅」の動機すら変えるチャンスを提供することもできる。
「広い庭」のある宿泊、
「果てしない眺め」の宿泊などがリーズナブルに宿泊できる。ITの仕組みでありとあらゆる、持つ人と持たざる人の間を埋めるのがシェアリングエコノミーだ。 ライドシェアのUBERが日本では「UBER EATS」として、レストランの出前の仲介サービスとして成立している。デリバリーする人は自転車でも徒歩でも、好きな時にアプリを立ち上げ、働きたい時だけ自由に働く。指示や住所や支払いはすべてスマートフォン経由で完結する。オールドエコノミ−のサービスが雇用を抱え、在庫を抱え、営業し、業種を絞り、サービスを提供するコストと、シェアリングエコノミーのシステムの運用だけを変えるだけで、サービスを提供できる人とサービスの無限の組み合わせを紡ぎ出す勝負の時代となっている。形骸化したプロフェッショナルと、好きでたまらないど素人のかなでるサービス。どちらを利用ユーザーが選ぶかという選択の競争時代となっている。競争が続けば、指数関数的に安くなるサービス利用料は、シェアリングエコノミーが行政よりも政府よりも国家よりもすぐれたパブリックサービスエコノミーとして、税金を投入するよりもよりよいサービスを提供しだすことだろう。