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感染すると「悲しい野生動物」に… 山里でペットも人もリスクがある恐怖の疾患とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

夏休みで山にハイキングやキャンプに行く人も多くなります。山から降りてくる動物を見る機会も増えています。そのとき、見たことのない動物がいるかもしれません。なぜ、このような「悲しい姿」の動物になるのか? 考えてみましょう。

顔面がひどくただれた動物がこちらを見ていた。目の周りの腫れが痛々しい。背中や尾の毛は抜け、やせこけている。イヌなのか、それともキツネなのか。一体何があったのか。(高松剛)

■魚津の山あいで衰弱した姿

 「あなたの知りたいっ!特報班(知りとく)」に寄せられたメールの主は、魚津市の長田(おさだ)雅美さん(58)。6月初め、車を運転している時に市内の山あいの田んぼで、あの動物を見つけ写真に収めたという。文面は続く。「皮膚病のタヌキです。ダニが寄生して起きる『皮膚疥癬(かいせん)』という病気だと思います。自然界にこんな病気があることを知ってほしい」

出典:「悲しい動物」の正体は? 県内外で目撃相次ぐ

この記事をざっくりまとめると、富山県の魚津市に皮膚がただれた動物がいました。犬なのか? キツネなのか? と考えるほど、よくわからない動物になっていました。よく見るとタヌキでした。この原因は「皮膚疥癬」という病気なのです。獣医師の中では、珍しい病気ではありません。

なぜ、タヌキは皮膚疥癬に感染するか?

野生動物が、人里に降りてきて、この皮膚疥癬に感染します。

人が住んでいるところには、「生ゴミ」などがあり、それを漁るタヌキなどが、感染するわけです。人の近くには、食べ物があるので、タヌキなどの野生動物が寄ってくるので、密になり多くの動物が感染します。

このニュースでは、富山県になっていますが、全国各地の野生動物が感染しています。知人が、京都市内ですが、比叡山の麓に住んでいました。「痛々しいタヌキ」がいるという連絡を彼女からもらいました。見に行くと、この魚津市の子と同じように、顔の毛が抜けているタヌキでした。顕微鏡下で見たわけではないですが、臨床をしている獣医師なので、すぐに疥癬だとわかりました。

なぜ、タヌキが皮膚疥癬になると、命にかかわるか?

疥癬とは、ヒゼンダニという寄生虫の病気です。このダニが、皮膚に寄生します。すると激しい痒みで、寄生されたら1日中、掻き続けます。そうすると、食べることも忘れて掻いて、爪などで傷がついて皮膚が化膿します。そして、食べないことで栄養失調になり、尚且つ、化膿するなどで感染症によって命を落とすことが多いのです。原因はわかっているので、初期に治療をすれば、完治します。ところが、野生動物に薬を飲ませたり治療することは、難しいので、命にかかわる病気になるのです。

皮膚疥癬の治療法は?

イベルメクチンという寄生虫の駆除薬を飲ませるといいです。

イベルメクチンは、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村先生と米Merck社の共同研究で創製された抗寄生虫薬です。人の方では、熱帯地域などで問題となるオンコセルカ症の治療などに用います。この疥癬にも効果があります。

皮膚疥癬は、犬や猫にも感染します!

野良猫には、この皮膚疥癬は割合に見かけられます。猫の顔に毛がない衝撃写真 人にも感染し治りにくく、野良猫の命を危険に晒す疾患とは?に書いています。

犬は、里山に散歩に行ったり、山遊びで野生動物を遭遇したりするので、このヒゼンダニに寄生される可能性があります。この疾患になると、激しい痒みが伴うので、そのような症状が見られたときは、すぐに動物病院に来院してくださいね。適切な治療をしてもらうと、すぐに完治します。

皮膚疥癬は人にも感染します

夏に山遊びをして、毛がない、毛が少ない野生動物に触れたときに、皮膚疥癬に感染するかもしれません。それに加えて、猫を外に出していたり、犬の散歩で山里に連れて行ったりしたときに、愛猫や愛犬を通して、感染するかもしれません。皮膚疥癬になると、人も激しい痒みなので、すぐにわかると思います。

まとめ

夏になり、自然に触れ合うために、山里に行けば、ヒゼンダニがいて皮膚疥癬に感染することを知識として持っておきましょうね。毛が抜けた野生動物には、触れないようにしましょう。山で食べ物が少なくなって、人里に野生動物が降りてくると、このような疥癬の問題も発生します。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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