コロンビア大で何が起こったのか(2):なぜ交渉は決裂し、大学は警官による学生の排除に踏み切ったのか
【目 次】(本文字数:8400字)
■学生がハミルトン・ホールを占拠するに至った経緯/■なぜ大学はニューヨーク市警の出動を認めたのか/■ニューヨーク市警がコロンビア大学校内へ突入した状況/■バイデン大統領とトランプ前大統領の異なる対応/■国民はイスラエル・ハマス戦争をどうみているのか/■カリフォルニア大学のユダヤ人教授の「メッセージ」
■学生がハミルトン・ホールを占拠するに至った経緯
連載(1)で、コロンビア大学の親パレスチナ学生組織の実態、「反ユダヤ主義」の現実を分析、4月30日の深夜にハミルトン・ホールで起こった状況を説明した。
だが、ニューヨーク市警のハミルトン・ホール突入には、前段階の話がある。大学と学生の間の交渉は1週間に及び、双方の間で様々なやり取りがあった。この1週間の動きを正確に記録しておくことは、ジャーナリストの責任である。以下、可能な限り詳細に、何が起こり、なぜニューヨーク市警が大学校内に突入し、学生を逮捕したのかを記録する。
対立は4月17日に始まった。午前4時に数百人の学生が校庭サウス・ローンにテントを張り始めた。その日、シャフィク学長やシップマン理事会会長、デヴィッド・シザー(公聴会の詳細は(1)で説明した)が下院での大学のキャンパスにおける反ユダヤ主義的な行動に関する公聴会に出席することになっていた。学生がテントを張って野営を始めたのは、大学幹部が議会で証言するのに抗議するためであった。
正午に大学当局は「安全上の懸念と大学のルール違反」を理由に、学生にサウス・ローンから退去するように命じた。それと同時に「退去しなければ処分する。ただ午後9時まで退去すれば処分しない」と通告した。大学の門の外で「the Flood Columbia for Gaza」のデモが行われており、ニューヨーク市警は3人の学生を逮捕した。
翌18日の午前10時21分に大学は3人の学生に対して「停学処分」をすると伝えた。これは、処分を受けた学生は授業に出席できないだけでなく、学内の全ての施設に立ち入ることができないことを意味する。1人の学生は大学から全ての私物をまとめて15分以内に学外に出るように伝えられた。午後1時にシャフィク学長は、ニューヨーク市警に校内への立ち入りとテントの排除を許可した。午後1時20分、ニューヨーク市警はテントに留まっている学生を逮捕すると通告した。学生は逮捕され、警察のバスに乗せられ、One Police Plaza(市警本部)へ連行された。だが学生は再びサウス・ローンに集まった。神学部のコーネル・ウエスト教授やパレスチナの詩人で活動家のモハンマド・エルクルド氏が学生に向かって演説を始めた。ニューヨーク市警の署長は記者会見で「学生は平和的で、抵抗しなかった」と、逮捕の時の様子を語った。
19日、学生を支持する卒業生や学者、政治家がサウス・ローンで学生に向かって演説を行い、すべての学生の懲罰手続きの中止とニューヨーク市警の学内からの退去などの要求が認められるまで、卒業式など全ての大学行事をボイコットするように訴えた。この日、逮捕されてた学生はすべて釈放された。大学は、学生組織の「Gaza Solidarity Encampment」に参加した学生に対して、学生に「破壊的な行動を取ったこと、違法行為を行ったこと、大学の方針に反したこと、大学の財産に被害を与えたこと」を理由に正式に停学処分を通告した。「コロンビア大学ユダヤ人同窓会(the Columbia Jewish Alumni Association)」は、大学にユダヤ人学生の安全を守るように訴えた。キャンパスではユダヤ系学生とパレスチナ系学生の対立が起こっていた。
21日、学生は再びサウス・ローンにテントを張り、大学校内で寝起きした。大学はテントを張ることは認められないとし、命令に従わない場合、懲罰の対象になると学生に伝えた。紛争が深刻化する中で、大学内外で反ユダヤ主義的な行動が増えて行った。こうした事態に対してユダヤ人の団体は「大学とニューヨーク市警は極端な反ユダヤ主義者と無政府主義者に直面しているユダヤ人学生の安全を守ることができない」と非難する声明を出した。
23日、シャフィク学長は、午前9時すぎに学生の要求に関する交渉期限を深夜とする声明を発表した。その後、交渉期限を48時間延長すると変更した。25日、大学はニューヨーク市警の出動を要請しないこと、学生との交渉は「前進している」と発表。だが学生の指導者は「大学は誠実に行動していない」と反発した。26日、大学は「ニューヨーク市警に出動を要請するのは非生産的であり、状況をさらに悪化させる」という声明を発表した。また停学処分を受けた学生を復学させる手続きを取っていることを明らかにした。状況は好転するかに見えた。
27日、状況は悪化する。「コロンビア大学アパルトヘイト・ダイベスト(CUAD)」と「パレスチナの正義のための学生」は「大学はキャンパスの完全なロックダウンを検討しており、通告なしに寮を閉鎖することで、何千人もの学生を立ち退かせようとしている」という声明を出した。これに対して、大学は、そうした計画はないと否定した。
■なぜ大学はニューヨーク市警の出動を認めたのか
29日、シャフィク学長は、「コロンビア大学はイスラエルに対する投資を回収(divest)するつもりはない」、「学生組織との交渉は妥結に至らなかった」と発表した。この発表の直後、大学は野営地に参加した学生の停学処分の通知を行い、午後2時までに野営地から退去するよう通告した。だが、学生は2時を過ぎても野営地から退去しなかった。夕方、大学は野営地にいる学生の停学処分の手続きを始めたことを明らかにした。
30日、大学は、午前8時に学生グループがハミルトン・ホールを占拠したと発表した。学生はハミルトン・ホールの入り口ni
金属製の門、テーブル、椅子でバリケードを作った。ホールの閉鎖まで5分もかからなかった。そしてパレスチナの旗を掲げ、「Gaza Calls, Columbia Falls」と書かれた垂れ幕を垂れた。0時55分、大学は「抗議者たちは財産を破壊し、ドアや窓を壊し、入り口を封鎖するなど、耐え難い状況にエスカレートすることを選択した」と非難する声明を出した。午後5時40分、大学はさらに「キャンパスの混乱は多くのユダヤ人と教職員にとって脅威となっており、教育、学習、期末試験の準備を妨げ、敵対的な環境を作り出している」と、再び学生の行動を批判する声明を出した。
午後9時半ころ、大学は学生に校内の所定の場所に避難するように指示を出した。その一方で、シャフィク学長はニューヨーク市警に「ハミルトン・ホールの全ての学生、野営地にいる全ての学生を排除する」要請を行った。午後11時、警察はハミルトン・ホールから学生を排除し始めた。
5月1日、午前11時15分、シャフィク学長は警察の出動を求めた理由を説明する声明を出し、「私の第一の責任は安全の確保である。大学の評議会の支援を得て、ニューヨーク市警にハミルトン・ホールの占拠を終わらせ、野営地を解体する要請を行う決断をした。これらの行動は火曜日(4月30日)の夜に完了した。ニューヨーク市警の信じられないほどのプロフェッショナリズムとサポートに感謝する」と状況を説明した。大学事務局から、今後の授業と期末試験はいずれもリモートで行われると学生に伝えられた。また、学長はニューヨーク市警に対して5月17日までキャンパスに留まるように要請した。
こうした状況に対して全米教授教会のコロンビア大学支部の教授たちは「私たち教授陣は、大学のキャンパスの状況を和らげるために努力してきたが、大学当局によって拒否され、無視された。私たちはキャンパスから締め出され、再びキャンパスに入る許可を求めたが、拒否された」と、大学当局の強引なやり方を非難する声明を発表した。
■ニューヨーク市警がコロンビア大学校内へ突入した状況
ニューヨーク市警は、突入に際して閃光手榴弾を使用している。猛烈な閃光と爆発音で抵抗する相手を動けなくする武器である。シャフィク学長は「学生排除の過程でニューヨーク市警がデモ参加者やテントにいる学生に排除を伝えるために音響装置(LRAD)を使うことを計画していることは理解している」と語っている。この音響装置は、聴覚能力に永続的な後遺症を残す可能性がある代物である。大学は、学生に対して危険な手段を講じることを容認したのである。
市警がホールのバリケードを撤去するのにかかった時間は6分40秒であった。窓を割り、電気鋸を使ってホールに突入した。警察官は盾を持ち、銃を構えて、学生が立て籠もる教室のドアをこじ開けて、突入した。教室の中には寝袋や食料などが積み上げられていた。警察署の幹部は学生に向かって、「ここはテントの街(tent city)ではない。ニューヨーク市だ。私たちの街だ」と叫んだ。ニューヨーク市警は、109名の学生を逮捕したと発表した。逮捕された学生は警察の大型バスに乗せられ、警察署で拘束された。11時40分に大学職員がテントの撤去を始め、翌朝にテントの撤去は終わった。
学生をキャンパスから排除したニューヨーク市警は、逮捕した人物の25%以上はコロンビア大学の学生ではないと発表した。ハミルトン・ホールで逮捕された学生は112人で、80人が同大学に在籍していたが、残りの32人は同大学の学生でも職員でもなかった。逮捕された人物には18歳と64歳の人物も含まれていた。ニューヨーク市警の担当者は「こうした数字は部外者がどれほど存在していたかを示している」と語っている。逮捕者の中には「パレスチナの正義のための学生」の構成員もいた。エリック・アダムス市長も「親パレスチナのデモは外部の専門的な扇動家の支援を受けていた」と記者会見で語っている。
5月6日、コロンビア大学は5月15日に予定されていた卒業式を「より小規模な、学校を基盤とした祝賀行事に変更する」と発表した。来賓を招いての大々的な卒業式ではなく、「仲間と一緒に個別に表彰される式典になる」と説明している。
本稿では、コロンビア大学を分析しているが、他の大学でも同様な状況が見られる。その中で、注目されるのはノースウエスタン大学である。同校では大学と学生が合意して、6月1日までテントを1つだけ設営すること、学生が大学の規則にしたがって抗議活動を行うことが認められた。その見返りに、大学は「大学基金の投資の透明性」を高めるために、秋までに「投資の責任」を検討する諮問委員会を設置することに合意している。さらに5人のパレスチナ人学生に授業料全額を支給し、パレスチナ人の教師を2人雇うことになっている。具体的に、わずかでも前進する試みが成功している。ただ、それはあまりにも小さなステップであり、問題を本質的に解決するものではない。
■バイデン大統領とトランプ前大統領の異なる対応
バイデン大統領はコロンビア大学の状況が緊迫した数日間、沈黙を守っていた。だが、共和党は大学の混乱の責任は政府にあると、バイデン批判を強めていた。『ユーヨーク・タイムズ』は「共和党は逮捕や衝突のイメージを訴えることで、共和党がユダヤ人学生の擁護者の地位を確立し、民主党員や大学の指導者を反ユダヤ主義に甘いものとして描こうとしている」と、共和党が大学問題を政治的に利用しようとしていると指摘している(5月2日、「Biden Denounces Violence on Campus, Breaking Silence After Rash of Arrest」)。
こうした動きに対応するため、5月2日にホワイト・ハウスのルーズベルト・ルームで急遽、バイデン大統領はテレビを通じて4分間の声明を発表し、初めて学生の抗議活動に言及した。声明発表後、記者からの質問に答えた。
大統領は「大学のキャンパスで何が起こっているかについて少し話をしたい」と切り出した。そして「アメリカの2つの基本原則が試されている」と、言葉を続けた。
「第1は、言論の自由と、人々が平和的に集合し、発言する権利である。第2は、法の支配である。両方とも守らなければならない。我が国は、人々を沈黙させたり、反対意見を弾圧する権威主義国家ではない。平和的な抗議活動は、アメリカ人がどのように問題に対応するかを示す最善の伝統である。アメリカは無法な国ではない。市民社会であり、秩序が優先されなければならならない」と、「権利」と「秩序」の調和が必要だと訴えた。
また、大統領は「人々には教育を受ける権利、学位を取得する権利、攻撃を恐れることなく、安全にキャンパスを歩く権利がある」とも語った。そして「破壊行為、不法侵入、窓ガラスの破壊、キャンパスの閉鎖、授業や卒業式の中止の強制など、どれも平和的な抗議ではない」と主張した。「反ユダヤ主義やユダヤ人学生に対する暴力による脅迫は、どの大学であれ、どの場所であれ、あってはならない」と付け加えた。
学生の抗議活動によって、バイデン政権のイスラエル政策が変わるかとの問いに対して、「ない」と、極めて素っ気なく答えた。さらに記者から「連邦軍の介入はあるのか」との質問にも、「ない」と答えて、記者会見場を去った。
共和党の批判に対して、バイデン大統領は「こうした瞬間に政治的な得点を稼ごうと殺到する連中は必ずいるものだ。しかし、今は政治の時ではない。今こそ、明晰さを得る瞬間である」と、共和党の対応を批判した。
ホワイト・ハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は「建物を強制的に占拠するのは平和的ではない」と、補足説明を行った。同報道官は、学生の処分に関して聞かれると、「大学が自分で決めることだ。ホワイト・ハウスは介入しない」と答えている。バイデン政権は、原則論を述べるだけで、基本的に問題に深く関わりたくないという姿勢がうかがえた。
他方、バイデン大統領と大統領選挙を争うトランプ前大統領は5月1日、遊説先のウィスコンシン州ウォーキシャで、「過激派と極左の扇動者は大学キャンパスを恐怖に陥れた。だが、バイデンはどこにもいない。彼は何も言わない」と、バイデン大統領の批判を展開した。さらに自身のSNSであるTruth Socialを通して、大学での紛争は「我が国で起こっていることは急進的な左翼革命だ」と断じ、「弱腰のバイデンはどこにいるのか、ニューズカム州知事はどこにいるのか。我が国にとっての危機は、右翼からではなく、左翼からくる」と書いている。奇妙なことに、トランプ前大統領は自らが関わった2021年の1月6日の極右による連邦議会乱入事件を正当化するために大学での紛争を利用しているようにみえる。
■国民はイスラエル・ハマス戦争をどうみているのか
大学のキャンパスで起こっていることは、国民の意識と無関係ではない。国民はパレスチナ問題をどう考えているのか。2023年12月7日のPew Research Centerの調査『Americans’ Views of the Israel-Hamas War』と2024年5月3日のABCニュースの世論調査を紹介する。
Pew Research Centerの調査は11月27日から12月3日の間に行われた。戦争の責任に関して、「イスラエル・ハマス戦争はハマスにより大きな責任がある」と答えた比率は65%であった。「イスラエル政府により大きな責任がある」は35%であった。こうした結果になったのは、戦争はハマスが最初に攻撃を仕掛け、イスラエル市民を殺害し、誘拐したことから始まったからであろう。党派的には、共和党員及び共和党支持者の73%、民主党員及び民主党支持者の62%が、「ハマスに責任がある」と答えている。また民主党員の50%、共和党員の21%は「イスラエル政府に責任がある」と答えている。民主党支持者と共和党支持者の間で、イスラエル・ハマス戦争に対する見方に大きな違いがある。
世代別にみると、「ハマスにより大きな責任がある」と答えたのは、18歳から29歳では46%、年上の世代は60%であった。18歳から29歳の世代は学生であり、パレスチナ人は抑圧されていると受け取っている。
「反ユダヤ主義」に関しては、48%の回答者が「アメリカのユダヤ人に対する暴力が増加することを極めて懸念している」と答えている。31%が「やや懸念している」と答えている。合計79%の回答者が、「ユダヤ人に対する攻撃」を懸念している。「あまり懸念していない」か「全く懸念していない」と答えたのは19%に過ぎない。
バイデン政権のイスラエル政策に関しては、35%が「賛成」、41%が「反対」、24%が「分からない」と答えている。共和党支持者の51%が、バイデン政権のイスラエル政策を支持しないと答えている。民主党支持者では、「支持」が44%、「不支持」が33%と割れているのが特徴である。
この調査結果を見る限り、アメリカ国民のイスラエル・ハマス戦争に関する見方は、大きく割れているといえる。大学生を含む若い世代ほど、バイデン政権やイスラエル政府に対して厳しい意見を持っているのは確かである。
ABCニュースの調査では、アメリカはイスラエルに対して「過剰な支援」を与えていると考えている人は38%であった。1月の調査より7ポイント増えている。イスラエル軍のガザ地区展開で、人々がイスラエルに批判的に変わってきていることを示している。「パレスチナ市民の保護が少ない」と答えたのは32%で、前回調査とほぼ変わらない。また、「イスラエル・ハマス戦争の処理でより信用できるのは誰か」という問に、37%が「トランプ」、29%が「バイデン」と答えている。「両者とも信頼できない」が32%で、ほぼ3分割されている。
「イスラエルに過剰な支援をしている」と回答した人の年齢別の状況は、18歳から24歳は41%、25歳から29歳は44%、30歳から49歳は44%、50歳から64歳は36%、65歳以上では27%である。高齢者になるほど、「イスラエル支援」を支持しているといえる。また民主党支持者の47%が「パレスチナへの援助が少なすぎる」と答えている。共和党支持者では、その比率は15%に過ぎない。
アメリカ人のイスラエル・ハマス戦争に対する見方は、「世代別」、「党派別」で大きく分かれている。アメリカには、多くの「分断」が存在しているが、この問題でも同様な傾向が見られる。
■カリフォルニア大学のユダヤ人教授の「メッセージ」
こうした問題が起こると、情緒的な反応が出てくる場合が多い。冷静に状況を分析し、正しい判断を下す必要がある。そのヒントになる「メッセージ」を紹介する。
カリフォルニア大学ロサンジェルス校のドヴ・ワックスマン教授は、4月28日、Xにコメントをアップした。同教授はユダヤ人で、イスラエル・パレスチナ紛争の研究家であり、イスラエルによるヨルダン側西岸の占領やガザ封鎖、現在のイスラエル軍によるガザ地区攻撃に反対している。さらに「学生と職員はイスラエルに対して平和的に抗議する権利を持っている」と、大学でのイスラエルに対する抗議活動の正当性を主張している。さらに「ユダヤ人として、私はUCLAの野営地のせいで個人的に脅威や危機を感じていない」と、過剰な反ユダヤ主義を煽る報道に一定の距離を置いている。「抗議運動に参加している多くの人は、ガザでの大量殺戮と飢餓に近い状況に恐怖を感じ、それを終わらせたいと願っている」と、抗議学生に共感を示している。
ただ、「私は、この抗議活動に参加することはできない。なぜなら、それは単にガザでの戦争に対する抗議ではないからだ」と、冷めた目で見ている。「私は、イスラエルの学術機関との関係や学術的な協力ボイコットに全面的に反対する」と、抗議学生の要求は受け入れられないと書いている。その理由として、抗議活動の背後にいる組織『パレスチナの正義のための学生』は、ハマスへの支持を表明し、10月7日のイスラエル人虐殺を祝っている。ハマスは、パレスチナ人を抑圧し、ガザのパレスチナ市民の命に何の関心も払っていない。彼らは、イスラエルの究極的な根絶という大義のために、数えきれないほどのパレスチナ人の命、つまり『殉教者』を犠牲にすることをいとわないと公然と述べている。彼らは何十億ドルも費やして、自分たちと武器を守るために巨大な地下ネットワークを構築してきたが、ガザの民間人のための防空壕をひとつも建設しておらず、トンネルの中に避難もさせてもいない。彼らは、ガザにおける権力と権威主義的支配を維持するために、ガザでの壊滅的な戦争と人道危機長引かせている」と、ハマスの問題点を指摘する。
さらに「親パレスチナ運動の参加者の多くはハマスを支持しておらず、10月7日の虐殺を称賛していないことを私は知っている。『パレスチナの正義のための学生』のようなグループは、多くの学生がパレスチナ人の苦しみに対して正しく感じている同情を利用して、多くの大学のキャンパスで運動を主導している。これらのデモの主催者がイデオロギー的にイスラエルを根絶やしにし、イスラエルのユダヤ人を追放することを約束し、イスラエルの民間人に対する暴力を支持し、政治的目的のためにパレスチナの民間人を犠牲にするハマスの戦略を無視すべきではない」と、抗議デモに参加する学生や職員に呼びかけている。
日本から見ていると、事柄の本質は見えない。事実をひとつひとつ積み重ねながら、全体を理解し、対応する必要がある。現在のイスラエル軍のガザ地区攻撃は常軌を逸しているのは間違いない。同時に、イスラエルを急襲し、多くのイスラエル市民を殺害し、誘拐し、未だに拘束しているハマスの行動の合理性も問わなければならない。
もちろん、パレスチナ問題を無為に長期に渡って放置してきた西欧諸国の責任が一番重い。やがてイスラエル・ハマス戦争は、どんな形になるか予想できないが、間違いなく休戦協定が締結され、終わりを迎えるだろう。そしてまた、人々の意識からパレスチナ問題は消えていく。