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アメリカ社会を分断する保守とリベラルの「結婚観」の違い―支持政党が違う相手とデートも結婚もしない

中岡望ジャーナリスト
支持政党が違えば、デートもしない(写真:Splash/アフロ)

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■アメリカ社会に見られる「複合的な社会的分断」/■「結婚を巡る分断」―結婚する共和党支持者、結婚しない民主党支持者/■支持政党が違えば、恋愛も、結婚もできない

■アメリカ社会に見られる「複合的な社会的分断」

 アメリカの大統領選挙は単に政策を巡る選挙ではない。どんな国家を作るかを巡る生死を掛けたイデオロギー戦争である。保守派とリベラル派が思い描く国家はまったく異なる。国家観の争いは、建国から今の時代まで変わらず続いている。アメリカの著名なジャーナリストのロバート・ケイガンは「国民の半分がアメリカの統治システムの核心的な原則を信じなくなったいま、リベラルな政府を守るために建国の父たちが作り上げた制度は生き残ることはできないだろう。2024年の大統領選挙は、今までのような共和党支持者と民主党支持者の争いではない」と書いている(Robert Kagan, 『Rebellion: How Antiliberalism is Tearing America Apart Again』)。今回の大統領選挙は、アメリカの民主主義の本質が問われる選挙である。アメリカには、全く異なった世界観を持つ2つのグループに「分断」されている。

 アメリカは「分断国家」である。様々な分断が存在する。最大の分断は、リベラル派と保守派の「イデオロギーの分断」である。リベラル派は、政府は積極的に福祉政策を採用すべきだとし、「大きな政府」を支持する。また競争を制限する傾向が強い。「結果の平等」を主張する。他方、保守派は、個人は福祉に依存するのではなく、自己責任を果たすべきだと主張し、政府の活動を制限する「小さな政府」を支持する。競争こそが進歩の原動力であり、「機会の平等」を主張し、競争の結果、格差が生じても是認する。

 リベラル派の民主党と保守派の共和党の分裂と対立は既に限界点を超え、妥協の余地はなくなっている。かつては週末に民主党議員と共和党議員は一緒にゴルフを楽しんだ。だが、現在では議事堂の廊下ですれ違っても挨拶さえしなくなっている。

 「社会的分断」も深刻である。「貧富の格差」が大きな分断要因になっている。2022年の統計(セントルイス連銀)では、上位10%の富裕層が全資産の4分の3を保有している。平均資産額は773万ドル(1ドル=160円換算で約12億4000万円)である。下位50%の家族が保有する財産は全体の2%に過ぎない。平均資産額は6万4000ドル(円換算で約1000万円)である。フローの所得でみると、上位1%の富裕層が全所得の20%以上を占めている。しかも「貧富の格差」は拡大の一途をたどっている。

 「貧富の格差」は「学歴格差」を生み、さらに「貧富の格差」を深刻なものにする悪循環を作り出している。45%の高校生が4年制大学に入学している。アメリカの大学の授業料は高く、富裕層の子弟か、成績が良くて奨学金を貰えるか、学生ローンを借りてしか進学できない。学歴によって「職業選択」が決まる。大卒は高所得のホワイトカラーになり、高卒は低所得のブルーカラーや商店の営業や農業に従事することになる。

 「学歴格差」は「地域格差」を生み出す要因になっている。高学歴の人は大都市に住み、大企業やIT企業などの高所得の仕事に就く。地域社会は裕福である。だが高卒あるいは大学を中退した若者は地方都市に住み、地元の中小企業や商店で働いたり、農業に従事する。当然、地域社会は貧しい。地方コミュニティは経済的に疲弊し、社会インフラは急激に劣化している。大都市と地方都市の地域格差は深刻な事態を招いている。

 さらに深刻な分断を招いているのは「宗教」である。アメリカはプロテスタントの国であるが、高学歴者や都市に住む人は「宗教離れ」をしているか、「無神論者」が多い。他方、地方に住む低所得層は、毎週教会に礼拝に行く敬虔なクリスチャンが多い。彼らは、まったく違った社会的倫理観を持ち、社会的対立や政治対立の源泉となっている。その分断によって、中絶問題やLGBTQ問題などが深刻な政治対立を引き起こしている。

 「人種による分断」は深刻である。人種の多様化が進んでいるとはいえ、今でもアメリカは白人国家である。2020年の国勢調査では、白人の比率は57.8%であった。ヒスパニック系は18.5%、黒人は13.4%である。白人の間には依然として「白人至上主義」が根強く残っており、「黒人差別」は払拭されていない。建国の際、建国の父たちは、奴隷制度を廃止できなかった。彼らは「奴隷貿易」を止めれば、自然に奴隷制度は消滅すると考えた。だが、黒人人口は増え続け、奴隷制度を廃止するには南北戦争が必要であった。

 南北戦争で南部連合が敗亡した後も、南部では「黒人隔離」が続き、黒人は選挙や教育で差別を受けてきた。1964年の「公民権法」と1965年の「投票法」が成立するまで、黒人は投票などの公民権の行使が制限されていた。現在でも、南部のかつての「奴隷州」には黒人差別意識は色濃く残っている。

 こうした「複合的な分断」を背景に民主党と共和党の対立は抜き差しならない状況にある。大統領選挙も様々な分断の影響を強く受けている。

■「結婚を巡る分断」―結婚する共和党支持者、結婚しない民主党支持者

 もうひとつの「分断」がある。ギャラップ社は2024年7月11日に「When and Why Marriage become Partisan(いつ、なぜ結婚が党派的なものになったのか)」と題する調査報告書を発表した。民主党支持者と共和党支持者の間の「結婚観」が大きく変わってきたのである。民主党支持者の結婚率は、共和党支持者の結婚率を大きく下回っている結果がでている。

 1939年から1969年まで両者の結婚率は84%と同じであった。だが1970年から1999年の間では、共和党支持者の結婚率は81%とやや低下したものの、高水準を維持している。だが民主党支持者の結婚率は、71%と13ポイントも低下している。さらに2000年から2024年の間では、共和党支持者の結婚率は71%であったが、民主党支持者の結婚率は53%にまで低下している。支持政党で結婚率が大きく違うのである。

 民主党支持者で30歳から50歳の層で結婚したことのない人の比率は、1973年の8%から、2024年には26%へと大きく上昇している。共和党支持者にも同様な傾向が見られるが、6%から12%と、民主党支持者ほど上昇していない。「結婚しない民主党支持者」が増えているのである。同調査は、民主党支持者には高学歴が多いことが、結婚率の低下の要因であると指摘している。高学歴で、都市部に住む有権者は、民主党支持層と合致する。

 共和党支持者の結婚率が高いのは、「共和党支持者は民主党支持者よりもはるかに宗教心が強い」ことが影響しているとみられる。保守派のキリスト教徒は結婚や家庭を重視する傾向が強い。同調査は「結婚における党派の格差は、宗教における党派性の違いによって説明される」と指摘している。民主党支持者と共和党支持者の結婚観と家庭観は大きく違っている。2021年から2023年の調査では、20歳から50歳の民主党支持者の81%が「婚外出産は道徳的に容認できる」と答えている。共和党では、その比率は64%である。

 「結婚は人生を幸せにするのか」という問いに対して、同報告は「多くの既婚者は幸せであるということに懐疑的である」と指摘している。ここでも党派性で異なった回答がでている。2012年の調査では、「結婚が幸せ」と答えたのは、共和党支持者が46%、民主党支持者は21%であった。もし今、同じ調査をすれば、その差はさらに拡大しているだろう。もっと極端に「結婚は時代遅れ」と信じる民主党支持者は14%(同意9%、強く同意5%)、共和党支持者は6%(同意3%、強く同意3%)であった。「いつか子供が結婚することを望む」は、民主党支持者の64%(同意21%、強く同意43%)であったが、共和党支持者は87%(同意12%、強く同意75%)であった。

 「結婚はお互いへの献身的な関係を強めることで、パートナーシップを改善するか」と、25歳から50歳の親に聞いた。共和党支持者の親の67%が「強く同意する」と答え、民主党支持者の親の同意は30%に留まった。共和党支持者は結婚を極めて肯定的に評価しているのに対して、民主党支持者は否定的である。

 民主党支持者と共和党支持者の結婚観は想像以上に分断している。まるで違った世界に住んでいる感さえある。こうした考え方の差が、同性婚やLGBTQに対する態度の差として現れている。

■支持政党が違えば、恋愛も、結婚もできない

 少し古い調査であるが、2020年にInstitute of Family Studiesが行った調査がある。調査報告『America Family Survey』は、「結婚はアメリカにおいて常に社会的連帯と分断の両方の指標になってきた」と、結婚の社会的、政治的な意味に触れている。かつては異人種間の結婚は実質的に禁止されていた。だが最近では異人種間の結婚は一般的に受け入れられるようになっている。異宗教間の結婚も、以前に比べれば、自由に行われるようになっている。筆者は、アメリカ人の知人の結婚式に参加したことがある。夫はユダヤ教徒で、妻はプロテスタントであった。祭壇にユダヤ教のラビとプロテスタントの牧師が登場し、結婚式を行った。やや異様な感じがしたが、異宗教間の結婚が普通におこなわれているのを直接見ることができた。

 だが、同報告は「政治に関しては同じことは言えない」と書いている。同じ党の支持者との結婚は79%だが、民主党支持者と共和党支持者が結婚している比率はわずか4%に過ぎない。17%は無党派の相手と結婚している。同調査は「政治的な境界を越えた結婚は減っている」と指摘している。2017年から2020年の間に「民主党支持者と共和党支持者の結婚の割合は4.5%から3.6%に減った」。「2016年にトランプが大統領選挙で勝利した後、アメリカ人の10人に1人は、政治的見解の相違を理由に恋愛関係を終わらせている」。

 2023年にアメリカン・エンタープライズ・インステチュートが行った「American Perspectives Survey」では、「若い男女の間の政治的溝は拡大している」と指摘している。「潜在的なパートナーの政治的信念」がデートや結婚を考える重要な要素になっているとも指摘している。民主党支持者の3人のうち2人は「共和党支持者と付き合う可能性は低い」と答え、共和党支持者の5人のうち3人は「民主党支持者と付き合う可能性は低い」と答えている。そして「政治的イデオロギーの異なる人の間で恋愛感情が生まれる可能性は以前より低下している」のである。

 アメリカ人は、日本人とは違い、日常的に政治的な話をする。それだけに、どんな政治的信条を持っているかが、恋愛したり、結婚するときに重要になってくるのだろう。これも「分断社会アメリカ」の現実のひとつである。

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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